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5話 Yes, I did it:はいできました

白銀美少女もとい、怪物もとい、ソーニャに連れられて、

心愛は近所のお弁当屋さんに行った。


そういえば、寮と学校の行き来だけで、

他の場所に行ったのは初めてだった。


それに友達と買い食いなんて生まれて初めての経験だ。


これって、もしかするとリア充の仲間入りなのではないだろうか。


「ど、どれがいいの・・・?」

「じゃあ、これにしたら」


メニューを見ながら心愛が迷っていると、

『からあげ弁当』をソーニャが指さした。


ただメニューを指さしているだけなのに、

ソーニャがやると絵画のように映えるから不思議だ。


ぼーっと見惚れてしまう。


レジの前に立っているおじさんも、きっと心愛と同じ思いなのだろう。

ソーニャを見ながら思い切り鼻の下を伸ばしていた。


「じ、じゃあそれで・・・」


心愛は注文も会計もソーニャにエスコートしてもらった心愛は、

日本であるにも関わらず、海外にホームステイしたような

気分を味わいながら店を出た。


帰り道、前を歩いていたソーニャが振り返った。

スカートと長い銀髪が旋回して、奇跡のようにキレイな弧を描く。


「ねぇ。年末は同じ部屋で過ごそうよ」

「そ、ソーニャと・・・わ、わわっ、私が?」


彼女の信じられない申し出に、

心愛の手足はまたしても生まれたての小鹿と化した。


「そーそー。楽しそうじゃない?」

「で、でも部屋の人が・・・」


「どうせ居ないんだから、どうでもよくない?」


彼女の言葉に、心愛は少し怯んだ。

確かに、年末年始なので寮には167センチどころか誰もいない。


ソーニャと心愛が一緒に過ごすくらいどうってことは

ないのかもしれない。


でも、いいのかなぁ。


ソーニャは自分の思いをソンタクなしで語る子みたいだ。

聞いた心愛がどう思うかなど、本当にどうでも良さそうに。


それが心愛には清々しくも、怖くもあった。


「い、いいよ」


心愛がそう答えたのは、きっと『ぼっち根性』が発する

黒いオーラをソーニャに吹き飛ばされたせいだろう。


「よしっ。決まりね」


山田に挨拶をしてから学校を後にすると、2人は寮に戻った。


「意外と近い場所だったんだね。下駄箱。

まぁ、同じ学年はかたまってるから、当たり前だけど」


ソーニャに言われて気付いたが、

2人の下駄箱は平行に3列飛ばしただけの場所にあった。


こんなに近い場所に、2人の靴は並んでいた。


「私の部屋こっちだから」


ソーニャの部屋へはすぐに到着したが、

何やら不穏な気配がした。


その原因は閉めたドアからはみ出している衣服の袖である。


「むむ・・・むむむ?」


「遠慮せずに入って」


部屋主の手によって、ドアがスライドする。

心愛の想像した通りの結果が目の前に広がった。


ようするに。


ソーニャの美しさは、部屋の状態を犠牲にして成り立っているのだと

心愛が確信に似た思いを抱くほどに部屋は荒れていたのだ。


彼女のソンゲンの為に、詳細はふせておくことにしよう。


「・・・コレハコレハ」


発見された宇宙人のように片言になった心愛は、

「ヤッパリワタシノヘヤニイコウ」と繰り返し続けるしかなかった。


ソーニャに必要な荷物を取らせて、心愛は普段176センチと

過ごしている部屋にソーニャを案内した。


心愛が部屋に入ると、意外なことにソーニャは

入口付近で突っ立ったままでいた。


「ど、どうしたの?」

「いや、どこに座ったらいいのかなって」


「そ、それって、本気で言ってる・・・の?」

「普通気にするでしょ、人の部屋なんだから」


心愛は『意外と気にする女だったソーニャ』の定位置として、

お気に入りのクッションをあてがってやった。


それから折り畳み式のちゃぶ台を取り出し、

2人の弁当をあけた。


外から持ってきたにも関わらず、中身はまだ温かい。


「いただきまーす」「いただきます」


「おいしい・・・」

「おいしいね」


心愛のクッションに尻をのせて食べているソーニャは、

何だか思ったより普通だった。


もすもすと食べる口の端にご飯粒がついていたり、

うっぷ、と音を立てずにゲップしたりもする。


そうか。ソーニャも人間だったのか。

心愛は当然のことに気付くと、ちょっとだけリラックスした。


それから2人はスマホを取り出して、連絡先を交換した。


すぐ隣にいるのに、なぜか2人は連絡アプリ上でやりとりを始める。


ソーニャが面白スタンプをいくつか送ってくれる。

心愛も以前ポイントで手に入れたスタンプを送ってやった。


隣り合った2人は視線を交わして、にやにやした。


なんだコレ。ちょっと楽しいかも。


心愛は調子に乗って、とっておきのスタンプを送った。

鼻毛の長いマッチョアフロが、名言を述べているやつだ。


ソーニャが「うぷぷぅっ」と笑いをこらえる。

小声で、「そのスタンプはありえないって」と呟いた。


お気に召したようでなによりだ。


「心愛って、面白い」

「え・・・?」


ぎらりと光った彼女の目は青色で、

何かを強制されるような迫力があった。


「私、すごく心愛に興味がある」


真っ白な手が伸びてきて、心愛の眼帯に触れる。

心愛は魔法にかかったみたいに、少しも動けなかった。


その時、ぴりっ、と何かが裂ける音がした。

眼帯の下にあるガーゼに張り付いたカサブタが剥がれたのだ。


「うぎゃああああああ!!!

いでぇえええええええええええええ!!!」


心愛はあらん限りの声で叫んだ。


ソーニャは、「え?・・・はへぇええ?」と

ネクロマンサーに魂を抜かれている途中のような声を出している。


「ご、ごめんなさいっ!

本当にケガしているって思わなくってっ」


ソーニャは心愛の眼帯の下にケガがあったのだと気付き、

涙を浮かべて何度も頭を下げた。


おいおい。本当にケガしてるって思わなかったって、

それは私のことをただの中二病だと思っていたってことだぞ。


2人で大騒ぎしている時、コンコン、とノックの音がした。


「居残り組の1年生?

大きな声出してどうしたのー?」


遠慮がちに開かれたドアから覗いたのは、

長い髪をひとつにまとめた、ほんわか女子だった。


しかもよく見ると、すっごい大人っぽい。いろいろな意味で。


心愛とソーニャは途中で一時停止ボタンを押された動画のように、

ピタっと動きを止めて、首だけ彼女の方を向いた。


「あ・・・どうも。

騒がしくしてすみません」


これがもう1人の居残り組である、

松本まつもと 由美子ゆみことの出会いだった。

ありがとうございました。

もしよかったら、感想や評価もお願いいたします。

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