9. 目標への第一関門
「ふふっ♪」
全ての授業を終え、部活へと向かっていたのだが、愛花がずっと嬉しそうにしている。俺が秘密を打ち明けた昼休みからずっとだ。
何がそんなに嬉しいのだろう。
「嬉しそうだな」
「まあね。同居のことは私たちだけの秘密、なんでしょ?」
「そうだな」
「それに、同居しているけど付き合ってるわけではないんだよね?」
「そりゃあな」
結局、愛花はテニスコートまでスキップしながら向かっていた。
まあ、ずっとムスッとしているよりも今みたいに嬉しそうにしてくれている方が良いか。
「それじゃ、また後でね」
「おう!」
テニスコートに着くと、愛花は女子テニス部のほうへと走って行った。
隣のコートが女子テニス部の練習場所なので話そうと思えばいつでも話せはするんだけどな。
「わりぃ! 遅くなった!」
「お、ようやく来たか」
「先生に大量の資料を職員室まで持っていかされてよ~」
「頼られてるってことじゃん」
「そうなんだけどさぁ……」
少しばかり遅れてから海斗がやってきた。
どうやら、先生から頼みごとを受けていたらしい。
海斗が来てから数分後には監督が部員全員を集合させる。
「全員、集合~」
「「「はい!」」」
全員が集まったのを確認すると、監督は話し始める。
「えー、今日から新入生も加わるということで1~3年生全員での練習を行っていくことになるわけなんだが、来週から総当たりの部内戦を行います」
え!?
もう部内戦を行うの?!
驚いているのは俺だけではないようでほとんどの1年生が目を見開き驚きの表情を見せていた。
隣にいる海斗だけはワクワクしているような表情だったんだけど。
「この部内戦は、インターハイ予選出場メンバーを決めるためのものです。この部活は実力至上主義なので、勝ち数が多ければ1年生でもメンバー入りさせますし、逆に3年生で負け数が多ければメンバー入りは出来ないようにします」
さすが強豪校と言ったところか。
上級生だからとメンバー入りできるわけではない、と。
俺たち1年生にとってはチャンスだ。
もし、この部内戦で多く勝つことが出来ればメンバー入りできる。
香澄さんと立てた目標へ近づくことが出来る。
「明日までにシングルスとダブルスのどちらに出るか伝えるようにお願いします」
明日までに監督にシングルスとダブルスのどちらでエントリーするのか伝えないといけないんだな。
俺はシングルスでエントリーするつもりだ。
ダブルスも魅力あるが、ダブルスというのは相方との連携力が大事になってくる。
その点、新入生である俺たちにとってダブルスで先輩方を超えるというのはかなり難しいだろう。
もちろん、シングルスが簡単というわけではない。
シングルスはコート上たった1人で相手を倒さなくてはならないのだから。自分がミスしたときにカバーしてくれる仲間などいないのだ。
俺はこのプレッシャーがシングルスの好きな部分でもある。
「なあ、涼はどうするんだ?」
「俺は、シングルスかな。海斗は?」
「結構悩ましいけど俺もシングルスかな」
「強い先輩たちだらけだけど絶対に勝とうな!」
「もちろん! 1年生2人がメンバー入りしたらだいぶ凄いよな!」
海斗も俺と同じくシングルスに出るようだ。
監督はまだ話していなかったが、団体戦のメンバーはたしかシングルスが3人、ダブルスが2組(4人)だったはずだ。そして、個人戦もほとんど同じメンバーで出ることになるだろう。
そうなると、俺と海斗がメンバー入りするということはシングルスの3枠のうちの2枠を俺たちで取るということだ。
かなり大変な道のりだ。
だけど、不可能というわけではない。
そういう考えを巡らせていくうちに部内戦が楽しみになってきた。
「俺たち新入生は今日から部活参加なのに、もう来週から部内戦かよって思ってたけど、よく考えたらインターハイ東京都予選が始まるのが5月下旬だから今のうちにメンバーを決めておくのも普通だよな」
「まあ、そうだな。メンバーを今のうちに決めて、メンバーに合った練習を行うんだろ。そのメンバーに俺と涼で入るんだぞ」
「ああ、頑張るよ」
その後、俺たちはすぐに監督のもとへ行き、シングルスでエントリーすることを伝えた。
その時の監督は、「1年生だからと上級生に遠慮せず倒してしまえ、はっはっは~」と笑っていた。
「よし、監督に伝え終わった人、もしくはまだ決めていない人は練習を始めるぞ。まずは運動場を10周からな。行くぞ!」
「「「はい!!!」」」
キャプテンにより最初の練習メニューであるランニングを伝えられ、皆一斉に運動場へと向かって走る。
俺たちの学校の運動場は1周400メートルほどあるので10周で4キロということになる。やはり、テニスは試合が長引くこともあるので体力は必要だ。そのための練習だろう。
皆、先輩たちの後ろについて走るが先輩たちはかなり速いペースで走るので途中からついて行けない1年生が続出した。
「俺たちは最後までついて行こう」
「ああ」
俺と海斗は少しキツかったが最後まで先輩たちの後ろにつきながら4キロを走りきることが出来た。