1. 同居人
高校入学の一週間前、俺――鈴川涼は実家を出て大きめのリュックサックとキャリーケースを持ってとあるマンションに向かっていた。
高校はあらゆるスポーツで東京都内トップクラスの成績を収めているスポーツ強豪校の春風高校で、俺は中学のテニスでそれなりに良い成績を残していたので運良くスポーツ推薦で合格させてもらえたのだが、学校が実家からは遠すぎるという理由で実家からは通えないという事になってしまった。
だが、そんなとき、母親からとある提案をされた。
それは、母親の親友の子も同じ高校に通っており、マンションで一人暮らしをしているらしいのだが同居するのはどうかという内容だった。
俺は、相手が良いのであればむしろお願いしたい、と答えておいた。
この高校に通えるなら同居でも良いと考えたのだ。
というような感じのことがあり、俺は今、そのマンションに向かっている最中なのである。
「母さんの親友の子って言ってたけど、どんな子なんだろう。たしか1歳年上だったはず」
これから2年間は、同居することになるのだから仲良くしていけるように頑張ろう、と心の中で呟いた。
そんなことを考えながら歩いているうちにいつの間にか目的地のマンションの前までたどり着いていた。かなり大きいマンションという訳ではないが、外観は綺麗で良さそうなマンションだ。
今日からここに住むことになるんだよな。
俺は母さんから教えられた部屋番号を確認する。
「えーっと、201号室か」
一刻も早く荷物を置きたいのもあって急いで201号室の前まで向かった。
「おっと、これを忘れちゃいけない」
リュックサックからクッキーの詰め合わせを取り出す。
一緒に住まわせてもらうんだからこれくらい持っていきなさい、と母から渡されていたものだ。
「よし、押すか」
一度だけ深呼吸をしてから緊張で震える指でインターホンを鳴らす。
すると、透き通るような美しい声が聞こえてくる。
「はーい、今出まーす」
ん、おかしい。
今の声は完全の女性の声だ。
ちょっと待てよ?
俺の同居人の母親の親友の子って男じゃないの?
確かによく考えてみれば親友の子としか言われてないかも。
いやいや、まさかそんなわけ……。
そんな風に混乱していると、ドアが開いた。
そこには、明るめい茶髪のポニーテールが特徴的な女性が出てきた。
まさか今日から同居することになる相手がまさかの女の人だったなんて思いもしなかった。
「もしかして、鈴川涼くん?」
「はい、そうです」
「私は、青井香澄。よろしくねっ」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
香澄さんが全く驚いている様子のないところを見るに、俺が男だってことは聞いていたみたいだな。
つまり、知らなかったのは俺だけ、か。
まあ、今更引き返せないし、この現実を受け止めるしかないみたいだ。
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