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85.アベルくんと気分屋の神様。

85.アベルくんと気分屋の神様。




 登城してから3日ほど過ぎた朝。

 

 

 それまでに観光したり、ヨハンから精霊魔法を見せてもらって喜んでいたり、惰眠を貪ったり。

 有意義な首都滞在を行っていた。


 「ふぁ~~」

 俺は窓から朝の光が入る中、大きく伸びをして己を奮い立たす。


 「ん?何こいつ?」


 俺が起きた横の枕に、小さい妖精がだらしなく、おっぴろげた状態で寝ていた。


 こいつの名はリーサ。

 ちなみに名付け親は俺。


 東の森からやってきた妖精種の中でも希少な部族のフェアリー族だ。

 というのは仮の姿。


 ヴァレンタイン辺境伯領の隣に位置する聖王国。


 隣国であり敵国であるところの唯一神、トレーサ。


 それがこいつの正体だ。


 「おい。」

 俺はリーサの腹をデコピンの要領で弾く。


 流石に思い切りはしないよ。

 チョンって感じで、優しくね。


 「ん・・・おはようぅ・・・」


 「寝るな。」


 「うん…?眠いのよ…。」

 眩しそうに薄目を開け、こちらを睨むリーサ。


 「神の癖に欲望に忠実になるなよ。」


 「あ゛?神だって欲望くらいあんのよ。っていうか、あんたの前世の神たちも欲望に忠実な奴らばかりでしょ。」


 「まあ、否定はできないな。」

 俺は右の口角を上げ、歪んだ苦笑いを作る。


 5歳の表情ではないな。

 神話の神々はエロい神ばかりですからね。


 「でしょ、あんたの前世の神々にも会ったことあんだけどさ、あの一番身持ちの固めで、承認欲求強めな、ヤ・・・なんだっけ?だってさ、自分の言うことを聞かないってだけで2万人以上もヒューマンを殺してんだしね。スケープゴートで作り出した悪魔の方が悪さしてないって、どういうこと?」


 起き上がり、胡坐をかいたリーサが俺に答える。


 仮にも女神が胡坐かくなよ。

 まあ、でも世界一番信者数の多い、神の話はやめた方がいいんじゃないかな。


 「あれって本当なの?」


 二つの都市の話とかで、振り帰ると塩になっちゃうとか、大きい船の話とかね。


 「聞いてみればいいじゃないの。」

 こいつ、知り合いなのか?


 「どこでだよ。」


 「高次元で。」

 リーサは右手の人差し指を天に向ける。


 「へ?居たの。」


 「そりゃいるわよ。思念体が集まる場所なんだから。」


 「知らんがな。」


 「今のあんたじゃ、死ななきゃ行けないしね。」

 リーサはそう言ってニヤリと笑う。


 もう二回も言っているからどうでもいいわ。


 「あーね。でさ、今までお前どこ行ってたんだよ?一緒に登城するはずだったろ。」


 「それ?まあ、いろいろあったのよ。」


 「へー、そう。」


 「何?聞かないの?」


 「聞いてほしいの?」


 「いや、別に。」


 「な、だから聞かないんだよ。」


 「なんかムカつく。」

 リーサは胡坐のまま浮かび上がり、腕を組む。


 「付き合いたてのカップルじゃないんだ、こんな詰んないことで腹立ててんじゃねーよ。」

 「むう」

 と、言ってほっぺを膨らますリーサ。


 「だから神様がふくれんじゃないって。」


 「神じゃないわよ。今は可愛い、フェアリー、リーサちゃん。」


 「はいそうでしたね、私の命の恩人にして、聖女アンネのお師匠様。」


 「わかればいいのよ。」

 リーサは両腕を腰に当て、ニッコリ笑った。


 「でさ、話の続き良い?」

 このままだと話が進まんからな。


 「いいわよ。眠気もなくなっちゃった。」

 ふん!と両手両足を伸びをして、俺の顔まで浮かび上がる。


 「一緒に城に行ってもらいたいんだよ。」


 「王子の事ね。」

 あ!コイツっ!!


 「頭ん中読むなよ。」


 「こっちの方が早いでしょ。」


 「プライバシーってのが人間にはあんの。会話のコミュニケーションも楽しいでしょ?」


 「そうね、あんたと話していると楽しいと思うわ。他の神ったら、堅苦しくてダメなのよ。」


 「へー、他の神の所に呼ばれて行っていたのか。」


 「あっ!ああん、そうね。ここはいろんな神の神殿があるからさ、呼ばれんのよね。顔見せろって。」


 「ほう、田舎の親戚みたいな?」


 「そうそう、田舎の口うるさいおじさんが呼びつけるみたいなね。」


 「行かなきゃいいじゃん。」


 「そうもいかないのよ、行かなきゃいかないで、周りの神にその話が回って、またうるさくなるのよね。」

 「神の世界も厄介だな。」


 「特に私はね。この国には私の神殿が極端に少ないでしょ。そのおかげで力が弱くなっちゃうんだけど、ほかの神が融通してくれんのよね。」


 敵国の唯一神の神殿があるだけでも普通は奇跡。


 「リーサは敵国の唯一神だからな。神殿の連中も差別を受けながらよくやってるよ。お前、ちゃんと面倒見てやれよ。」


 「あんた知っていて言ってると思うけど、あいつら聖王国の間諜よ?」


 「まあ、知っているさ、でも敵国でバレてもやるって覚悟いるじゃん。よくやってるよ。尊敬するね。」


 「あんた本当に貴族の長男?そんなん言ってるってバレたら殺されるわよ。」


 「心配してくれんの?」


 「べ、べつに。」


 「ほっほう。」


 俺は厭らしい笑いを浮かべていたに違いない。


 「ほっほう、じゃないでしょ、王城に行くんでしょ。」


 「リーサ自ら話を戻すとは珍しいな。まあ、そのとおりでさ、王子がマインドコントロールか、他の呪術的なもので操られてるっぽいんだよな。」


 「あんたの記憶見ていい?」


 「俺が王子とやらかしたころの?」


 「そ、とりあえずそこだけ見るわ。」


 「了解。どうぞ。」


 俺がそう言うと、リーサはしっかりと目を瞑り、唸りだす。


 「ん~~~~~、あぁぁ。」


 「どした?」


 「こりゃ、やってんね。」

 リーサは、目をあけ首をひねりながら軽い口調で話し出す。


 「やってるか。」


 「うん、まじやってる。」


 「何をだよ。」

 いい加減、進んでください。


 「あ、ごめん。これ魔神の呪術だわ。」


 「へ?初めて聞いた単語なんだが、魔神?」


 「書いて字の如く。魔の神よ。私たちの対になるものよね。」


 「魔神ねぇ。敵対してんの?」


 「え?敵対なんかはしてないわよ。」


 「あ、そうなん。てっきり魔神と言えば悪の存在とかってイメージしてしまうが。」


 「あーねぇ、さっき話してたあんたの前世の神が、二元論でばかり布教するからそういう考えしか浮かばないのよね。」


 「あー、でも俺の前の国は二元論ではなかったんだがな。」


 俺は苦笑いを浮かべながら前の世界に思いをはせる。


 「そうよね、あんたの前の国は特殊よね。このノヴァリス王国に近いかもね。アニミズムの多神教って感じだし。」

 「災害自体や左遷させた官僚が神様だからな。で、結局魔神て何なの?」


 「だから魔の神よ。この国に神殿がないからマイナーな存在なんでしょうね。もっとも神だから、私たちと向かっているところは同じ。自分の信徒や近しいヒューマンたちが死ねば高次元に送ってやったり、神託与えてやったりさ。ちょっとでも暮らしを良くしてあげようとしたりね。だけど、どの神も同じなんだけど、みんな平行線なのよ。パラレル。」


 「魔の概念が分からんのだが。」


 「そこ?あんたも魔法使ってんでしょうよ。もとは魔素なんて言っているけど、あれを司ってんのが魔神よ。」


 「魔神が魔素を司っているなんて、誰もそんなこと言ってないぞ?」


 「あんた空気を司っている神が居るの知ってんの?」


 「いや、知らん。」

 俺は首を振った。


 「ね。」


 「そゆこと!?」

 俺はことさら驚いて見せた。


 「人の生活なんてそんなもんでしょ。」


 「このシャツ作っている人なんて知らないもんな。」

 俺は着ていたシャツの首元をつまみ上げる。


 「そうそう、だから何事にも感謝するのよ。」

 リーサは俺の鼻の前まで飛んできて、わざとらしく合掌する。


 「お前はお母ちゃんか!まあ、あれだな。神もハサミも使いようで、要は信者が神の力を善にも悪にも使えるのが問題なんだな。」


 前世の母親は、こんな躾はしなかったな。

 あるのは自分の欲望のみのクズだった。


 「使う者によるのよね。で、質が悪いのは、使っている本人たちの殆どが、自分は善だと思っているところよ。」

 言った後に、リーサは肩をすくめた。


 「王子は何とかなりそう?」


 「うん、それは大丈夫。私が行けば解呪は簡単。なぜなら私は神様だから。」


 「可愛い、フェアリーじゃなかったっけ?」


 「そうとも言う。」


 ウインクをしながら俺に言うリーサ。


 俺はそれを片手で振り払いながら


 「アイテムとか要らんの?」

 と、聞いた。


 「神の力を使った、呪詛だからね。」


 「神の力って、魔素とかと違うんだ。」


 「そうね、あんたならこの言葉で通じるかな。神気っていうの。」


 「あ、なんとなくわかるわ。神々しい気って事かな。」

 俺は天井を見上げ、出てくるイメージを咀嚼する。


 「まあ、そんなとこね。祈祷とか毎日の祈りとか、こちらにくれる者たちに与えることが出来る。あと使うのはその受け取った者によるってところよ。」


 「まあ、原因が分かって、リーサが解呪できるとなれば一安心か。で、防衛策ってある?」

 「王族でしょ?しかも王子。誰も会わせず幽閉ってわけに行かないわよね。」

 顎に手をやり、考えている振りのリーサ。


 ん?神って思考が必要なの?


 「そりゃないよな。魔神てことはさ、その信者が居るってことだよな。」


 「そうね、前に説明したでしょ。信仰が強くなると力も強くなるって。その信仰心にも縛られるんだけどさ。」


 「んじゃ、その信者たちが犯人でOK?」


 「OK、まあそうなるわよね。」


 「問題はそいつらをどうやって炙り出すか。あと、魔人信者の所業で有るってことを王族たちに説明しなければならないが、言語化が難しくねぇか?これ。」


 「そうね、5歳のあんたが説明したら、なんでそんなん知ってんだって言われるわよね。」


 「な、そこだよ。今更なんだけどさ。」


 「フェアリー族のあたちが説明してもいいけど、説得力と根拠が必要よね。」


 「あたちじゃねー、ま、しったかぶった感じで、軽くいなしてもいいが、王と王妃は見抜いちゃうだろうな。」


 「やり手?」


 「かなりな。」


 「味方のはずなのに厄介ね。」


 あくまでリーサは伏し目がちに考えている振り。


 「性格が単純だけに、一番簡単なのが王子なんだよな。だから狙われたのか。そっか、そうだな。」


 「そんななの?」


 「そんななの。直情型っていうの?思い込んだら一直線。今はロッティーにご執心。」


 「あら、ロッティーかわいそう。」

 口に手を当て、プッと吹く。


 おい!ロッティーに失礼だろ!


 「そうだな、どっかの神が枕元に立って進言するのは…って駄目か。トレーサ神が王の枕元に立ったなんて言ったら、聖王国が攻め込んでくるって思われてお終いだな。」


 「嫌だ、もう聖王国に神託なんてしないわよ。」


 「わかっているよ、考えてんだから混ぜっ返すな。」


 「はーい。」


 「スピリチュアルな方向で進むのは、やはりリスクの方がデカいよな。」


 「そうね、協力してくれるような神が居れば簡単だろうけれど。」


 「そんなホイホイ協力してくれる神がいるものなのか?」


 「わからないわよ、かわいい氏子が困っていると思えば、どこでも30分以内で駆けつけてくれるかもしれないわ。」


 「俺の氏神様ね。あまり頼りたくないなぁ。アルケイオン様こそ固い神の代表じゃねぇの?」


 「そうよ、だから私もあまり会いたくはないわね。」


 「お前、2年前に口喧嘩で負けていたからな。」


 「いいのよ、あんなのは。どうすんの?王城行く前に、アルケイオンの神殿行ってみる?」


 「どうすっかな~。」




 俺は天を見上げ、しばし思考を止めた。



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