84.アベルくんと帰宅の夜道。
84.アベルくんと帰宅の夜道。
「それは私から答えましょう。その日はヴァレンティア城の倉庫の入れ替えをやっておったのです。」
父さんが説明を始める。
あの日のことは忘れたいが仕方ないだろうな。
「古い物資、新しい物資の入れ替えをする関係で、幾人もの商人が来ておったのです。」
俺はそれを横目で見ながら、爺ちゃんと剣の修練をしていたんだ。
その中に、以前私が取り逃がした山賊の首領が紛れておりまして、復習にかられた奴は、たまたま近くに居たアベルに刃を突き刺したのです。」
れもしない、カインの野郎、どこに居やがる。
「ここからは僕が話すね。」
父さんを制して俺が話し始める。
「私は生死をさまよいましたが、そこにたまたま現れたのがフェアリー族のリーサだったのです。彼女は強力な回復魔法でもって、私を蘇生と言ってもいいでしょう、ええ、蘇生してくれました。」
「それほどまでの、強力な回復魔法か。ぜひ会ってみたくなるの。」
王がコソリと呟く。
リーサ、逃げられねーぞ。
「はい、必ず連れてまいります。」
俺がそう言うと、王は嬉しそうに笑った。
あとは普通の歓談だった。
普通?
王子がロッティーを傷つけたことをずっと嘆いていたり、王女は虎視眈々と俺の言質を取るよう言葉巧みに仕向けてきたり、王と父さんは肩を組んで近衛騎士団の団歌を歌い始めたり、母さんと王妃は大人の女性でしかわからないような話をしていたりと、それは和やかな雰囲気で交流を終えた。
すっかり夜の帳も落ち、俺たちは馬車に揺られて別邸への帰り道を行く。
馬の蹄の音と馬車の車輪の音が、暗い夜道に溶けて行く。
父さんはすっかり酔っ払い、気に入ったお酒を王から頂いて、上機嫌に馬車に乗ると、あっという間に寝てしまった。
「こんな無防備な父さんも、珍しいね。」
俺がそう言うと
「そうね、ヴァレンティア城に居ても領主としての緊張の糸は切れないわ。ここに来て羽が伸ばせたのかもね。」
母さんは、しなだれかかる父さんの頭を優しくなでながら静かに言った。
「今日は疲れたわ。色々あり過ぎたもの。」
ロッティーがふぅと溜息をつきながらつぶやく。
「ホントね、あんたたちはどこでも騒ぎを起こすのね。」
ん?母さん、口調がきつくなっていますよ。
「アベルはどこに行ってもアベルよね。」
「いや、そりゃそうでしょう?いちいち変わっていられないよ。」
俺は反論する。
「王城くらいは、おとなしくしなさいって話よ。」
母さんがそう言うと
「今回は王子様に絡まれたから仕方ないわよ、母様。王妃様も王子様にお灸をすえるつもりでアベルをけしかけた感じがしたわ。」
ロッティーがフォローしてくれる。
「そうは言うけど、あんたたち二人なら切り抜けられた状態じゃなかったの?どうせ、要所、要所でカチンときたから、王妃に言われるがままにやりましたってところなんでしょ?」
うん、よくご存じで。
「あんたたちは人より頭が良いのだから、もっと争いから身を引くことを覚えなさい。争いに勝つよりも、争いを起こさない。それが元気に生きるコツよ。」
ふむ、心理だね。
しかしだ
「争いを吹っ掛けられたら?」
「全力でやりなさい。あとくされ無いようにね。」
荒事専門の元冒険者は言うことが違う。
文句言われなくなるまで叩き潰せってことだからね。
「まあ、私はお淑やかだったから、そんなことにはならなかったけどね。」
バチコン、と俺にウインクしながら言い放つ母さん。
ああ、そうですかー。
父さんは苦労したに違いない。
「けどさ、僕らがここに来た時の盗賊団といい、王子の状態といい、セイナリアはキナは臭い事がたくさんあるね。」
「そうね、だからっていちいちあなたが首突っ込まなくてもいいのよ。わかるわね。」
まあ、そのとおりだが。
「大人しくしておくよ。」
「そうしておいてね。お願いよ。」
そう言って母さんは口をつぐみ、俺たちは暗い夜道を窓から眺めた。
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