83.アベルくんと結婚観。
83.アベルくんと結婚観。
「お父様、ちょっとよろしいですか?」
王女が父さんとサシで飲んでいた王の隣に座る。
「なんだ、オリビア、申してみろ。」
「私とアベル様の縁談のお話ですか。」
ん?
「ん?貴様、アベルに懸想したか。」
「嫌です、お父様。恥ずかしい。」
王女ってば、外堀埋めるつもりかよ。
「で、どうだアベルよ、オリビアは貴様に懸想しているらしいぞ。」
「いえ、滅相もございません。王女様と臣下なる私が釣り合うはずもございませんから。」
「うむ、貴様は真面目よの。ローランド卿よ、この二人どう見る。」
俺の隣で機嫌よさそうに父さんは飲んでいた。
さぞ、その酒はうまいのだろう。
蒸留酒っぽい酒だ。
この世界では珍しい。
いや、今はそんな話ではない。
「オリビア王女がアベルに懸想ですか。アベル、お前モテモテだな。」
この人、酔っ払って変な事言い始めたよ。
「あら、アベル様、そんなにオモテになるのですか?」
王女がすかさず食いついてくる。
「年のころが同じような女の子にはモテているように見えます。600歳を超える、妖艶な美女にもモテてますね。」
おーい、リラのことまで話さなくてもいいだろうに。
「まあ、そのような方とどうやってお知合いに?」
「いや、待て、600歳を超える妖艶な美女だと?ローランド卿、リラ殿ではあるまいな。」
王と王女の食いつきが良すぎる、話の転換をする暇がない。
困った。
「陛下は、リラに城で会われましたから、ご存じですよね。そうです、あのリラにどうやら惚れられているようなのですよ。」
どっからそんな話を聞いてくるのやら。
城の領首とは地獄耳でいけない。
「アベルがあの女傑にのう、オリビア、あきらめた方が良いかもしれんぞ。」
「なんでです?それほど魅力的なお方なのですか?」
「そうだ。遊女だったはずなのだがな。あらゆる領主、あらゆる豪商が全財産をもって通おうと、自分の眼鏡にかなわぬ者は、一切相手にしないと言われておった。しかしそれが庶民であっても、スラムに住まう、その日暮らしの輩であっても、リラが気に入った者は、あらゆる立身出世が叶ったと言われるな。ゆえに女傑よ。」
あまりあの婆ちゃんを神格化しない方がいいと思うけどね。
「わかりました。その方に負けないよう、魅力的な女性になって見せます。」
王女の可愛い決意表明。
だが
「そうですね。その頃には私など忘れて、他の素敵な男性が横に立っておられるでしょう。」
俺がそう言うと
「むう!」
と、むくれ、王女は両手に握り拳を作り、か弱い力でポコポコと俺を叩き始めた。
「ハハ、アベルは罪な奴じゃ。これが大人になったら、本当にあらゆる女を泣かせるかもしれん。ローランド卿よ、今から慰謝料の貯金でもしなくてはならいぞ。ハッハ!」
俺たちを見ていた王と父さんは豪快に笑いだす。
今まで空気だったロッティーが俺の隣にドカリと座り
「アベルは誰にも渡しません!」
と言い放つ。
今まで黙っていたのに、あの病気が発症してしまったか。
「おい、アベルよ、姉にもか。」
王が、ニヤリと笑いながら聞いてくる。
「いやいやいやいやいや」
俺必死。
つか、ロッティー、今その病気を出さなくてもいいじゃない。
いやしかし、今だからなんだろうな。
ここまで具体的な縁談話なんか、無かったから。
でも、俺より5歳上のロッティーの方が、もう縁談組まないとおかしいんだからね。
「ハハ、シャーロットは、アベルが赤ん坊のころから溺愛していましたからね。大人になれば良い思い出になるでしょう。」
いい加減に酔っぱらってきた父さんが、いい加減なことを言ってくる。
まあ、俺もそうあってほしいけどね。
「まあ、という事は、お義姉様もライバルという事ですわね。」
おい、お義姉様にすな。
「シャーロット嬢は、アベルに懸想しておるのか!?」
王子が聞き捨てならないとこっちに来た。
またややこしいのが来たよ。
「懸想なのではありません。アベルは私の一部。半身なのです。」
「半身…」
周りに居た一同が、ポカンとする。
「ね、この娘はそう言うところがあるのよ。首都に入る前に私がアベル断ちしなさいねって言っていたでしょ。しなければこれがもっと酷くなるわよ、どうするローランド。」
そういえば、馬車の中で母さんがそんなことを言っていたな。
的確にロッティーの反応を見ていたんだ、母親ってスゲーな。
「それでもアベルは二児の母である私から見ても、お人形のようにかわいいですからね。これで剣術、魔法、勉強と何でもできるのでしょう?それは周りの女の子と600歳を超える女傑ですか、が色めき立つのも仕方ありませんよ。まして、ずっと一緒に育ってきた姉が溺愛するのも当然でしょう。私がアベルの母親なら溺愛しますとも。」
王妃がフォローなのか煽っているのか、わけのわからんことを言い出す。
俺にそんな意識はまるでないのだ。
元が陰キャ、キモヲタだったからな。
今でもインターネッツが懐かしく思えるもの。
現時点で、俺の目標は爺ちゃんなのだ。
今の父さんのように領地経営で馬車馬のように働いたとしても、50代には隠居としてのんびりと暮らす。
これがベストじゃね?って思うわけよ。
だから、今から周りの女性陣が色めき立たれても、そうですかー(棒)、くらいにしかい思えない。
ロッティー、ローズ、リラ、アンネたちなんかの過剰な愛情は、俺にとって今はまだ鬱陶しいんだよね。
これが思春期に入ればどうなるかわかんないけどさ。
性欲モンスターになるやもしれんし。
今はとにかく、彼女らの愛情には答えられません。ってこった。
「ん、どうしたアベル。」
俺が意識の中で思考しているのがバレたのか、王がせっついてくる。
「いえ何でもありません。ただ今は御婦人方に愛情を向けられても、歳も歳ですし、答えることはないかなって考えていたのです。」
「アベルはそう言うところが老成しているよな。」
父さん、ほんと余計もんだよ。
「それは私に対してもですか?」
王女が言ってくる。
「そうですね、今までに何人かの方々が、私のような半端者に愛情を向けて下さっていたことは気が付いておりました。それでも、私はまだ5歳という若輩者ですから、皆さんの気持ちには答えることはできません。まして、数か月前には死ぬ思いをしました。生というものの儚さを自ら知った身として、中途半端な決断は下せないのです。わかって頂きたく存じます。」
「死ぬ思いとは、何があったのだ?」
またこの王子は興味ありげに聞いてくるのだった
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