82.アベルくんと密談。
82.アベルくんと密談。
「昼はそちらの子供たちに王子が粗相をしてしまって済まなかった。」
王は部屋に到着して、皆が落ち着いたと見るや謝罪に入る。
多分この部屋は、他の人の目や耳が完全に入らないようにしてある部屋なのだろう。
密談にはうってつけってわけだ。
「陛下、おやめください。シャーロットは王妃の適切な治療のおかげで傷も目立たず治っておりますし、アベルもこの通り元気ですので、王が気に病むことは何もございません。」
父さんは王の謝罪に対し過剰に反応する。
って、そりゃするよね。
「うむ、ローランド卿にそう言っていただけるとありがたい。しかし、シャーロットよ、痛い目をさせてすまなかったな。傷も目立たず良かったが、心に傷を負ったやも知れぬ。その場合の補償はいくらでもしよう。」
この人メンタルの配慮までするの?
本当に封建主義の王なのか?
「陛下、お心遣いありがとうございます。しかし、私の心は大丈夫なようです。こう見えてお転婆ですのよ。」
ロッティーは笑顔で王に言葉を返した。
「そうか、しかし何か困ったことが有ったら王城に来るのだぞ。何でも聞くからな。なあ、王妃よ。」
「もちろんです。シャーロットはうちの娘のように扱いましょう。」
「有り難うございます。もしそのようなことがございましたら、王城へ伺うようにさせて頂きます。」
「うむ、気兼ねしないで良いからな。」
王はそう言うと、俺の方に向き直った。
「それでだ、アベルよ。」
「はい。なんでしょう?」
「その時のオスカーの様子を詳しく教えてくれぬか。」
王子と決闘の時のことか。
俺はざっくりと雪玉をぶつけたまでのやり取りを説明した。
それを聞いていた向こうの席に座っている母さんが、渋い顔をしてる。
今はそれを気にしてるわけにはいかない。
「その雪玉が全弾当たると、王子様が埋まり小さの雪山のようになったのです。」
「その様子を見てみたかったが、今はそれを言っている場合じゃないな。で、どうした。」
王が自ら話の腰を折ろうとし、立て直す。
「そこから、王子様の持っていた剣が正確に私を狙い、雪山から突き出てきました。」
「うむ、それで?」
「雪山から出てきた王子様は別人でした。まるで剣術上級者のような殺気を放ち、私に対峙してきたのです。その殺気にたじろいた私は、剣を振り上げた王子様に何も出来ないでいると、姉が私の上に覆いかぶさり助けてくれたのです。」
「そこでシャーロットは怪我をしたのだな。」
「はい、王子様の剣が私のふくらはぎに皮を削ぐように切ったのです。」
ロッティーが怪我の状態を報告する。
「うむ、そうか。オスカーよ、その時の事はまるで覚えておらぬと言ったか。」
「はい、全然覚えておりません。シャーロット嬢にそんな怪我を負わせていたなんて、なんて愚かな事をしたんでしょう。もう求婚なんてできない。」
こいつ、諦めていなかったのか。
「もう一度王子様が剣を振り上げたので、私は特殊な魔法を使い、王子様の剣を焼き切り、そしてもう一つの魔法で、王子様を昏倒させました。」
「鋼鉄を切る魔法か。是非とも見てみたいものだが、それも後にしよう。そこから王妃に聞いたとおりだな、クラウディアよ。」
「はい、アベルとそのあと話をして、オスカーが何者かに操られている恐れがあると思い至りました。今回はたまたまアベルの雪の魔法がきっかけになりましたが、他のきっかけが原因でその凶刃が我々に向いていたかもしれません。」
「ふむ、オスカーにはいまだその術に掛かっている恐れがあるわけか。で、アベルよ、それを解いてくれるやもしれない御仁がいるそうだが、それは本当か?」
「はい、東の森から参った、フェアリー族のリーサというものが、我が家の食客でおります。回復系の魔法に通じておりまして、実は私の命の恩人でもあるのです。彼女なら王子をなんとかできるかもしれません。」
「おう、その方はセイナリアにおられるんだな。」
「はい、一緒に首都入りしましたが、何分行動が不規則の御仁でありまして、一緒に行動することがなかなかありません。捕まえ次第、こちらにお連れするという事でよろしいでしょうか。」
「むう、フェアリー族は気分屋と聞くからな。それも仕方あるまい。それではリーサ殿のこと、よろしく頼むぞ。」
「はい、かしこまりました。」
リーサがフェアリー族の代表になったら、フェアリー族がかわいそうなんだが。
気まぐれな神様にも困ったもんだぜ。
「よし、これでこの話は終わりだ。堅苦しい話で申し訳なかったの。さて、ローランド卿、一杯やろう。」
その王の言葉で歓談が始まった。
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