81.アベルくんと冒険の悲哀。
81.アベルくんと冒険の悲哀。
「お父様、いずれ私もヴァレンティアに行って、深紅の大穴に潜ってみたいです。」
王子がまた興奮を取り戻し、王にわがままを言う。
「では王子もまず最初はゴミ拾いから始めねばなるまいな。」
「私がですか!?」
「そうだ。深紅の大穴に入るには、まずD級冒険者に上がる必要がある。そうだったな、ローランド卿。」
「そうですね。ルール的にはそうなっています。上級ダンジョンはアリアンナが先ほど言ったように、ダジョン内は大変危険ですから、まずは地道に実績を積み、初級、中級のダンジョンを攻略していって、初めて深紅の大穴のような 上級ダジョンに入れる流れになっています。
」
「王子様、冒険者で一番大事なことは、死なないという事です。その危険性を知らないうちは、上級のダンジョンには入ってはなりません。おごりと無理は若者の特権ですが、それは死に直結しますから。」
母さんが王子を諭す。
冒険者としての助言を、王子だけではなく母親としての言葉として、俺とロッティーにも言っているんだろうな。
「母様はそう言う人たちを見てきたのですか?」
ロッティーが母さんの言葉に対して、さらなる厚みを持たせようとする。
「そうね、知り合った若い冒険者がダンジョンから帰ってこないなんてことは、日常茶飯事だったわ。貧しい状況の打破を、無理をしてでも挑んでしまうのが冒険者なのよ。武器、防具の整備、宿代にポーションなんかの消耗品。こまごまとした物にわりとお金がかかるのよね。」
「そうだね、ランクが低ければ実入りが寂しいから、どうしても初級のダンジョンの腕前なのに、中級に挑んでしまった、気のいい仲間が帰ってこない寂しさは、その場に居合わせなければわからないものだからね。」
母さんと父さんはその頃を思い出したのか、寂しそうな面持ちで語った。
「以前から深紅の大穴には、うちの騎士団と国の駐屯軍が合同で潜っているよね。」
俺が話を変える。
だって暗いんだもん。
「ほう、話には聞いていたが、ヴァレンタイン辺境伯騎士団と、国王軍で潜っていたとはな。皆無事で帰ってくるのか?」
「無事に帰ってきますよ。生身の人間同士の命を賭けた演習は出来ませんが、モンスター相手ならひりついた戦闘が出来ますから。」
「ローランド卿の発案なのか?」
王が聞いてくる。
「私と父ですね。父は領主だったのにダンジョンなどは潜ったことがなかったのですが、一緒に潜ろうという事で父と騎士の数名と潜ったことがあったのです。そしたら父が痛く感銘しまして、これは実践演習にすればいいのではないかと。」
「はっは、エドワード先生らしいな。アベルもいずれ潜るのか?」
王の急なフリだが
「そうですね。やはりゴミ拾いからでしょうね。」
そう言って俺はみんなの笑いをとった。
「食事もみんな済んだようだし、ちょっと部屋を変えよう。ローランドもまだ飲むだろ?奥方たちも近くで話した方が話に花が咲くだろう。」
部屋を変えようと王が提案してきた。
まだ時間は早いようだからいいのかな?俺は父さんたちの動向を観察する。
「はい、陛下にお任せいたします。」
父さんが王に同意したようだ。
「ではこちらにどうぞ。」
先ほどの貫禄あるメイドが俺たちを別の部屋に連れて行く。
連れていかれた部屋は、さっきの食堂と打って変わって、小ぢんまりとした部屋だった。
まるで密談でもするような。
まあ、そういう事か。
そして王が語り始める内容は…
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