80.アベルくんとベヒーモス。
80.アベルくんとベヒーモス。
「ベヒーモス!私も聞いたことがあります。あれを倒したのがローランド卿たちだったのですね。」
王子はもう大興奮。
さっきみたいになるなよ。
「ギルバートがタンクで防御を一手に引き受け、私が遊撃、スカウトがかく乱して、ヒーラーは、まあ、うん、回復していました。」
父さんがパーティーの陣容を明かす。
「具体的な陣容が分かると、ワクワクするな。」
王まで少年のようだ。
「そして切り札はアリアンナの雷撃魔法でした。あれは強力だったね。」
「あれは一撃で魔素溜りの全部を消費したもの。本当の賭けだったわ。」
「母様、それは初めて聞きました。」
おや、ロッティーが食いついた。
まあ、俺も初めて聞いたけど。
「牽制で撃った軽い雷撃が結構効いて、ベヒーモスの足を一瞬止めたの。大きいのに素早くてみんな困っていた時だったから、これしかないと思ったのね。」
「そう、そしてアリアンナが放った極大の電撃魔法が、完全にベヒーモスの足を止めたんだ。そこに、ギルバートが振り上げたハルバートを頭蓋骨に打ち込み、僕が首に深々と剣を差し込む事で倒すことが出来た。」
「ヘビーモスはこの部屋より大きかったの。そのモンスターが馬車より早く突進してきて、私たちを襲ったわ。この素早い足を止めしか勝つ手立てが無いと思ったのよ。」
母さんが、ベヒーモスの大きさと素早さを端的に説明すると、周りにいた人間、王家の人達からメイド達までの目が、驚きで見開かれる。
「この部屋よりも大きく、馬車よりも早いか。」
王が静かに呟く。
「私も概要は聞いていましたけれど、本人たちから戦いの顛末を聞くと、迫力が違いますね。」
王妃も半ば呆けながら感想を口にする。
ちなみに王子と王女は口を半開きにして呆けている。
まあ、刺激のない中で育った子供たちでは仕方ない。
何の知識もなかった人間が、海外エロ動画サイトを見たくらいの衝撃だろう。
違うか。
「久しぶりに、この話をこんなに語ったね。」
「そうね、玄室から帰ってきたころは、何日も同じ話をしなくては行けなくて、げんなりしたもの。」
「父さんたち、その玄室の奥の話はしなくていいの?」
俺がその後があることを父さんたちに促す。
「ああ、そうだね。」
父さんがすぐ反応し、続きを語り始めた。
「玄室の奥の扉が開いたから、そこが深紅の大穴の最奥だと思ったんです。」
「うむ。」
王は、自身を取り戻しつつ、父さんの言葉を引き出す。
「そして我々パーティーは扉の奥へと踏み入れました。」
このあと母さんが続ける。
「そしたら出たんです。」
「なにが!?」
王家全員が食いつく。
「凶暴なアークデーモンが。」
父さんが答えた。
「アークデーモンとは、どのようなモンスターなのですか?」
王妃が聞いてきた。
「そうですね。」
父さんはそう言って一拍おく。
「身長は3m程度、身体は分厚く筋肉質でした。肌の色が暗い青色で気味悪さを高めていましたね。」
父さんは身体にの説明から始める。
「ゴク。」
王家の皆はそろって生つばを飲み込む。
固唾を飲むとはこのことだな。
「顔は凶悪そのもので、口には牙が頭には角が付きだしていました。」
「ひっ!」
王女が想像してしまったのだろう、小さな悲鳴を上げる。
父さんは静かに続ける。
「魔法は効き難く、肌は固い化け物でした。」
「むう、それで倒したのか?」
王が興味津々で聞いてくる。
他の人達も同じようだ。
「アリアンナの魔法が打ち消されて、苦労しましたが、何とか物理攻撃だけで一体を倒しました。」
「おお!」
食堂で聞いている全員がホッとした笑顔になる。
「しかし、通路の奥から何体も湧いてきたのが見えたのです。」
「なんと!そんな奴らが何体も…」
「えぇ…」
王の驚きが周りの皆に波及する。
「既にベヒーモス戦で疲弊していた我々は、もう戦うのをあきらめ、這う這うの体で逃げ出したのです。」
父さんが説明を終えた。
食堂の空気が重苦しい。
そこに母さんが
「日を改めてもう一度その玄室に入ったんですが、ベヒーモスが復活していまして、それ以来入っていないんです。」
と、深紅の大穴での冒険談を締めた。
「それでは未だにべヒーモスがその玄室に鎮座し、その奥ではアークデーモンがうごめいているという事だな。」
王が確認するように言う。
「そうです、まだ玄室にチャレンジする冒険者は名乗り出ていませんね。出てくれば領主の私のところまで聞こえ てきますから。嫌でもギルバートが教えてくれるでしょうし。」
父さんは笑いながら言った。
「しかし、そのベヒーモスを倒した功績があって、ローランドと私、ギルバートはA級冒険者になったのです。」
母さんがA級冒険者になったあらましを告げた。
母さんの話を聞き、王妃が口を開く。
「そうなのですね。アリアンナたちが倒してから、誰も倒せてないのですもの、その実績は計り知れないでしょう。」
王妃は落ち着いた声で母さんをねぎらった。
一旦落ち着いた空気の中、大きく声をる上げた者が居た。
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