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79.アベルくんと城の食堂。

79.アベルくんと城の食堂。




 目を覚ました王子はガバッと上体を起こし、周りをキョロキョロと見渡し

 

「これはどういう事だ!私はなぜここで寝ていた!」と怒鳴る。

 相変わらずうるさい奴だ。


 もう一回昏倒させようか。と、思っていると


 「あなたはシャーロットとアベルを殺そうとしたのです。」

 王妃がはっきりとした口調で王子に告げる。


 「私がですか?…雪玉が向かってきてから、全然記憶にないのですが。」


 「そこを見なさい、血だまりが出来ているでしょう?あなたがシャーロットに切りつけた跡です。わかりますか?今は意識がはっきりしているのですね。」


 「はい。…」


 戸惑いを見せている王子は、現状把握がまだできていないようだ。


 「それでは、メイドの一人を連れて着替えてきなさい。その濡れた姿でいては風邪を引いてしまいます。」


 「はい、そうします。」


 そう言うと、王子はメイドに付き添われて、トボトボと庭園を出て行く。


 「シャーロットたちのドレスと服もどうにかしなければなりませんが、仕立てるわけにもいきませんし、どうしましょう。」


 そう言っている王妃にメイドの一人が近づき

 「歴代の王子と王女の衣服が仕舞ってありますが。」


 「形が古いでしょう?」


 「多少は。しかし今から仕立てている時間はありませんし、現実的な手だと。」


 王妃はあきらめたように

 「そうですね。シャーロット、アベル、申し訳ありませんが、それでよろしいですか?」


 「私たちはそれで構いません。王妃陛下のお好きの様にして頂きたいと思います。アベルもいいわよね。」


 「はい、私もそれで構いません。王妃陛下のお心使い、痛み入ります。」


 そう言って、ローティーと二人で恭しくお辞儀する。


 「はい、そうですね。そうしましょう。では、二人を連れて着替えさせてください。わたしはローランド卿の元へ説明に参ります。」


 メイドに王妃は告げ、俺たちにも退出を促す。


 俺たちは3人のメイド達の後について庭園を後にする。

 しかし、その後ろから小さな影が付いて来ていた。


 「アベル様、先ほどの魔法は凄かったですね。炎の盾であったり、炎の剣であったり。」


 オリビア王女がトコトコと俺の隣を歩き、言葉をかけてきた。


 「王女様、王妃様と一緒じゃなくてよろしいのですか?それと私は臣下でございます。臣下に様は必要ありませんが。」


 「いいのです、アベル様はいずれ私のお婿様になるのでしょう?むしろ私が王女様と呼ばれる方がおかしいくらいではないですか。」


 いやいやいや、その話は、王の冗談みたいなものだろ?


 隣でロッティーが睨んでくる。


 さっき、王太子になれるなんて言って場を荒らしたのはロッティーじゃないか!


 「滅相もありません。そのお話は、王のお戯れで出た話。本当に私と王女様の縁談が決まったことではないのですよ。」


 「お父様の戯れは毎度のことです。それより、これから親交を深めていけば、心変わりもございましょう?そうではありませんか?」


 「ありません。」


 「まあ、そんな意地悪を。アベル様は私のことをオリビィとお呼び下さい。」


 「呼びません。」


 「まあ!」


 「王女様、先ほども申しましたが、このお話は王陛下のお戯れです。あまり真に受けない方がよろしいと思われます。」


 「いえ、お父様によって良い切っ掛けが出来たと思いましたの。こうしてアベル様と近くに居られるのですもの。」


 ヤバい、この子もただの4歳児じゃない。

 俺が追い詰められてゆく。


 「お坊ちゃま、こちらのお部屋で着替えを行いますので、お入りください。」


 空気を読んだようにメイドが部屋に入るように促す。


 よし!これで別れることが出来るな。


 「王女様、それでは失礼いたします。」

 俺はドアの取手に手をかけ、王女に一礼する。


 「私もそのお部屋に入ります。」


 「王女様、殿方が着替えるお部屋に入ることはまかり通りません。」

 メイドがドアに立ちふさがり、王女を止める。


 「何故です!私は王女ですよ。城で行けない場所などないはずです!」


 王女が駄々をこね始める。

 こういう所は4歳児か。

 でも王女としての権利を主張するあたりは、一筋縄でいかない感じはするな。


 「王女様、そのように駄々をこねて、怒気のはらんだお顔をされると、可愛いお顔が台無しですよ。」

 

 俺がそう言うと


 「まあ、アベル様に可愛いと言われたわ。どうしましょう。」

 と王女は頬に手を当て、身体をくねらせる。


 「入りましょう。」

 俺が言うと


 「はい、どうぞ。」

 と即座にメイドが対応しドアを開けた。


 そして俺とメイドはドアの中に滑り込んだ。


 「お坊ちゃま、お上手でした。」

 メイドがそう言って会釈をする。


 「いえ、フォローありがとうございました。」

 二人でねぎらいながら着替えの準備をするのだった。


 着替えは、上がジャケットにシャツとタイいういでたちは前と変わらない。


 下が、白タイツとニッカボッカの似たパンツといういでたちが妙に恥ずかしい。


 俺が着替えて、メイドから出されたお茶を嗜んでいる頃、別のメイドが入って来た。


 「食堂にてお食事の用意がされております。皆さんお集まりになりますので、どうぞおいで下さいませ。」


 ちょっとだけ、お年を召した貫禄のあるメイドが、ことさらに恭しく俺を食堂へと促す。


 「はい、では案内をお願いします。」


 「ではこちらへおいで下さい。」


 扉を開け待っているメイドの脇をとおり廊下に出た。


 その途端、スッと人影が俺に寄せてくる。


 「アベル様。」

 そこにはオリビア王女が俺の横を歩いていた。


 またかよ。

 待っていたとかはないよな。

 

 「お待ちしていたのですか?」


 「フフ、まさか。こちらのメイドが、アベル様を呼びに行くと言うので付いて来たのです。」


 しかしなんだ、この執着は。

 

 今日会ったばかりだぞ。


 更に王女が横に詰めると、彼女の右手が俺の左手を掴む。

 

 この娘、マジ大丈夫?


 おい、王族ども!王子といい、王女といい、ちゃんと教育してる?


 「王女様、お戯れが過ぎます。」


 「あら、子供同士のスキンシップに、誰が異議を唱えましょう。」


 こいつは不味い、悔しいが向こうが上手のようだ。


 「しかしながら、子供とはいえ、王族と臣下の身でございます。ある程度の距離は必要だと愚考いたします。お分かりください。」


 そう言うと、王女はパッと手を放し


 「そうですわね、妻と成る身ならば、旦那様を立てねばならないですわね。」


 そう言って一歩引いたところを歩きだした。


 こいつ怖い。


 前を歩いていた貫禄あるメイドが、俺のことを睨みつける。


 いやいやいやいやと、俺は細かく首を振る。


 そうこうしているうちにメイドが立ち止まった。


 「こちらが食堂でございます。」


 メイドは既に開けはなれていた豪華な観音開きのドアの脇に立ち、俺たちが入るのを促した。


 中に入ると、長いテーブルの上座に王が座り、王から見ての右手に、王妃と王子が並んで座っている。


 その対面にうちの家族が並んで座っていた。


 俺の隣に来た王女がコソリと


 「それでは。」


 とだけ言って王子の隣に座る。


 「遅くなりましたようで、申し訳ありません。」


 俺は一言謝罪を入れ、ロッティーの隣に座る。


 「いや、オリビアが迷惑をかけたのであろう。気にすることはないぞ、アベルよ。」


 「王女様は付いて来ていただいただけでございます。お気遣い、ありがとうございます。」


 王が、場をとりなしたので、俺は一言、挨拶をした。


 「何やらローランド卿と私の会談の間に騒ぎがあったようだが、皆無事でよかった。今夜は王家と臣下ではなく、家族ぐるみの付き合いだと思って、気兼ねなく食事をしてくれ。」


 王はそう言って杯を手に取り


 「両家の今後へ、乾杯。」


 と、言って杯を上にあげた。


 食事が始まると、王子が父さんに質問を始めた。



 「ローランド卿とアリアンナ夫人は、A級冒険者だったと父から聞いたが、どのような功績でその地位に上り詰めたのだ?」


 おお、王子らしくない、いい質問だ。


 「そうですね、大小さまざまな依頼の積み重ねがほとんどでしょうか。皆さんが思われている派手な功績はなかなかないものなのですよ。」


 「ほう、そうなのか?」

 王子はなおも興味津々だ。


 「そうです、最初は首都でゴミ集めから始めました。」


 「なんと、一閃の剣で有名なローランド卿がゴミ集めから始めただと。」


 「そうです、そのような依頼をこなし地道にランクを上げ、それに見合ったまた依頼をこなす、その繰り返しの生活でした。ランクが上がれば剣を使った依頼、例えば商隊の護衛なども増えます。これはとても危険で、しかし実入りもいい依頼でした。」


 「なるほど、盗賊などに襲われたのか?」


 王子は身を乗り出して聞いてくる。

 おい、王族、行儀悪いぞ。


 「そうです、大きな商隊では、それだけ高価な物や売れる物を運んでいましたから、狙ってくる盗賊、山賊は多かったですね。」


 「うむ、それは危険であったろうな。」


 「ええ、そうですね。しかし一番危うさは、人を切らねばならにという、己の戸惑いでした。これをもっては商隊を守ることが出来ませんから。初めての時は今でも覚えています。」


 「盗賊とはいえ、人を切らねばならんか。それは戸惑うのもわかる。」


 へー、さっき庭でありえない殺気を持って、剣を振り上げていた輩は誰だっけ?


 「それらの危険な依頼をこなしていったら、周りから自然と名前を知られるようになりました。父も有名でしたしね。」


 父さんは笑いながら爺ちゃんが有名だったことを、さらりと披露する。


 「エドワード先生は、当時最強の剣士だったからな。」

 今度は王が口をはさんでくる。


 「そして自分に見合ったダンジョンに潜り始めたんです。そしてその頃にアリアンナと出会い、パーティーを組みました。アリアンナはその当時から冒険者で有数の魔法使いとして名をはせていましたから、後ろを任せていた安心感があり、ありがたかったですね。今も家庭を守ってくれているのでありがたいですが。」


 などと、相変わらず、母さんのフォローを忘れない我が父。


 そして母は珍しく俯いて照れている。


 「まあ、その当時からお二人はお互いを気遣い暮らしていたのですね。その当時はローランド卿とはどのよう仲だったのです?アリアンナ、聴かせてくださいな。」


 王妃が今度は食いついた。


 まあ、女性陣はこの手の話が好きだからね、仕方ないね。


 「どのような仲と言われましても、当時は冒険者仲間でパーティーの仲間という間柄でした。私も若く、はねっかえりでしたから、ローランドには迷惑もかけました。剣で救われたことも何度かありましたね。」

 「まあ!女性でありながら、そのような危険な目にあいましたの?」


 今度は王女。


 「冒険者とはそういうものなのです。ダンジョンも初心者向けのダンジョン内は魔素が薄く、出てくるモンスターも少なく弱いです。しかし中級、上級となると魔素の濃度が濃く、それに伴いモンスターの種類、強さが大きく変わります。そんな中を、ローランドと私、あと現在、冒険者ギルドのバレンティア支部長をやっているギルバード、あとはヒーラーが、うん、まあ、居ましたけど、スカウトが何人か代わる代わるパーティーに入って、モンスターたちを倒したり、凌ぎながら、探索とドロップアイテムの取得に勤めていました。」


 王子や王女は目を見開きながら聞き入っている。


 俺らは何度か聞いた話だけど、はじめての人には刺激的な話なんだろうな。


 「そのような命のやり取りをする中で、自然とローランドとの仲が深くなっていきました。」


 そう言いながら、また俯きだす母さん。


 かわよ。


 「まぁ!そのような冒険の中で育む恋。素敵ですわね。」

 王妃の目は恋に恋する乙女のそれだ。


 王よ、浮気されんなよ。


 「そしてあれか、深紅の大穴でのベヒーモス戦になるのだな。」

 王が強引に話題を変える。


 気持ちはわからんでもない、気まずいよね。

 ここからは父さんが話し始める。




 「そうです、実績を積み進め、深紅の大穴も何度か潜って、誰もがチャレンジしようとして、跳ね返された玄室に入った先に居たのが、大型モンスターのベヒーモスでした。」


ここまで読んでいただき、有難うございます。

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― 新着の感想 ―
作者さんの中では一環してるんだろうけど、いまいち主人公の性格がつかめない。 前世の親には訪問されて騒がれるだけでお金渡す位の弱気なのに、王様や王妃には強気な言動だし、自分陰キャラで引きこもり好きって言…
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