9.アベルくんと天井。
9.アベルくんと天井。
「のかよって、ん?」気がつくと、ベビーベッドの上で仰向けに寝ている俺がいた。
馴染みの天井だ。
うん?はて?右手に違和感があるな、と思ってそちらを向くと、アンネローゼが小さな手で俺の手を握っていた。
あれ?俺ってば、夢でも見ていたのか?さっきまでYouちゃんと喋っていたよな…
うーん、頭がうすぼんやりしているけど、その空間から誰かに呼ばれていたような気もするんだよな。
「お前が呼んだのか?」と心に思いながらアンネローゼを見つめると、それに気づいたのか彼女は俺の手を離し、ニッコリと笑顔を見せてから目を閉じ、そのまま眠ってしまった。
このおませな新生児はいったい何者なんだろうね。
「まあ、俺もなかなかに変わった存在だけどさ…」と、紅葉のような自分の小さな手のひらをじっと見つめ、心の中でつぶやいた。
相も変わらず、俺も新生児のままだ。
さて、これからどうなることやら。
そんなことを思っていると
「さあ、大きく深呼吸を繰り返してみましょう。魔素の気配を感じながら、深呼吸を続けると、きっとロッティーも胸の中で小さな力を感じられるわ。繰り返し深呼吸よ。」
アリアンナ母さんの綺麗な声が耳に入ってきた。
その付近で、ロッティーのものだろう深呼吸の息遣いが聞こえる。
そうだった、魔素の取り込み練習だった。まずは周りに漂っている魔素を感じられるか、そこから始めてみよう。
あはは、漂ってる、漂ってる。
これだよ。
なんだか暖かいような感じがする物質。
こんなんが身近にあったんだな。
これを体内に取り入れるってわけか。
ちょっと深く吸い込めば、すぐに入ってくる感じだが、どうなんだろう?と俺もアリアンナ母さんの言葉に従って深呼吸をしてみる。
うん、魔素が確かに体に入ってくる。左右両方の肺あたりで力を感じるぞ。
さて、この魔素が体内でどんな変化を起こすんだろうねっと。
俺は唇をすぼめて、深呼吸をしてみた。おお、入ってくる入ってくる。あはは、まるで掃除機のようだな。
などと魔素を吸い込むことに懸命になっていたら、肺の中で違和感があった。
へ?なんだろう?
魔素が肺から漏れている?
不規則に漏れている感じじゃない。
血管ではない何か管があって、その管を通って腹部の方に流れて行っている。
どうやら、へそと股間の中間、丹田って言うんだっけか?
そこらへんに貯まっているらしい。
なんなんだ?これっ!
と、短い手足をジタバタしながら、ちょっとしたパニックを起こしてしまった。
そんな俺の状況も知らずに、ロッティーの魔素吸引レッスンは続いている。
「あっ!母様!何かお胸に入ってきているわ。なんでしょう、ちょっと暖かい感じがする。」とロッティーが言った。
「それ!それよ。その感じが魔素なの。魔素感覚を感じ取るのに早くて三日は掛かると思ったのに、さすが私のロッティーね。」
と、言ってロッティーを抱き上げ、その豊満な胸にギュッと押し付けた。
そんな二人の姿をパニック中の俺はベビーベッド上から眺めてる。
おお、ドレスの胸の中に、ロッティーが挟まれ埋まっとる。
「母様、苦しい…」
とロッティーがつぶやくと
「ああ、ごめんなさい」
と、言って、慌てて床にロッティーを下ろすアリアンナ母さん。
そりゃそうだよ、あなたの胸部装甲は並の人より分厚いんだから、気を付けないとね。
ちょっと気恥ずかしそうな顔をしたアリアンナ母さんは
「魔素を感じ取ることが出来たなら、あとはたくさん吸い込んで肺の中に満たされた感覚を感じて。それが出来たら次の段階。」
と、言ってロッティーの鼻先を人差し指でチョンと突いた。
「はいっ!」
と、元気なロッティーの声が聞こえた途端、子供部屋の扉が開いた。
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