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75.アベルくんと母さんの実家のひと時。

75.アベルくんと母さんの実家のひと時。




 宰相宅のメイド達に案内され、食堂へ着いた。


 ここもまあ、煌びやかでね。

 領地経営をやっているわけでもないのに、どこからお金が沸いてくるのでしょうかって感じだよ。


 それぞれ椅子に案内され、俺はいつものように子供用の椅子を用意されてね、座ったわけです。


 大人たちは何かの果実酒をつがれ、ロッティーはリオラのジュースかな。


 俺は飯の時、甘いものが飲めないという癖があるので、水をお願いした。


 「ではいただこうか。」

 爺ちゃんの音頭で食事が始まる。


 ああ、上手い。首都に来てから、食事にハズレ無しだ。


 「どうだ、食事はうまいか?」


 爺ちゃんは好々爺然とした顔で俺とロッティーの顔を窺った。


 「お爺様、とても美味しいですわ。調理もですけど、素材もよろしいのでしょうね。」


 「僕もそれを思ったよ。首都に来てからハズレがない。各地から新鮮な食材が集まってくるんだろうなって思った。爺ちゃん美味しいよ。」


 俺たちは思い思いの事を言う。


 「ほう、そうか。素材の味の。アベルが言ったとおりだ。国中の素材がセイナリアには集まってくる。ヴァレンタイン領からも魔石だけだは無く、良質な穀物が入ってくるな。のう、アリアンナ、この子らは口が肥えているの。」


 爺ちゃんは笑いながら母さんに語り掛ける。


 「そうね、うちの料理人も腕が立つのよ。アベルなんて厨房に行って何か珍しいものを作って食べているらしいわ。」

 あ、バレてましたか。

 

 「シャーベット。あれは美味しかったわね。」

 ロッティーが言ってきた。


 結構評判で、エレナ以外のメイド達にも作る羽目になって、ロッティーにももちろん作らなければなったってわけ。


 「アベル、シャーベットってどんなお菓子?婆ちゃんにも教えてくれる?」

 婆ちゃんはシャーベットに興味を持ったようだ。


 古今東西のご婦人方の、スイーツ好きは変わらない。


 「いいですよ。多めの氷とリオラのジュースが人数分あれば作れるから。あ、あと塩だ。」


 「その程度の材料でできるのか?」


 爺ちゃんも、興味あるの?


 「そうだよ。作り方は簡単なんだけど、ちょっと時間がかかるんだ。今料理人の人にちょっと指導すれば食事が終わってみんなでお茶を飲むころには出来上がっていると思うよ。」


 時間的はそんなものかな。もうちょっと掛かるか。


 「爺ちゃん、食事中だけど席立っていい?」


 「わしも旨いものは食べて見たいからの、行儀は悪いが仕方ない。行っといで。」


 「はい、ちょっと言ってきます。」


 そう言うと、後ろについていたメイドが、俺を抱きかかえ子供用の椅子から降ろしてくれる。


 人の手を借りずに済むのはいくつになるものやら。


 そのメイドについて、厨房に行き、材料と作り方をざっと教える。


 一回目が凍るまでかな。


 あとはそれを3回に分けてやればいいだけだから、ね、簡単でしょ、ってなもんだ。


 という所で食堂へ戻る。


 「ただいま。」


 「あら、もう終わったの?」

 母さんが聞いてくる。


 「あとは料理人さんが出来るから任せてきたんだ。」

 俺がそう言うと


 「僕も楽しみなんだよ。アベルのおやつって何だろうとずっと思っていたんだ。ヨハンもネスも食べたがっていたんだぞ。」


 ほほう、男衆も甘いものがお好きで。


 「言ってくれればいつでも作りますよ、ジョージが。」


 「ジョージがか。」

 そう言って父さんと母さんが笑う。


 爺ちゃんたちがキョトンとしていると思ったら


 「ジョージというのはうちの料理人なの。」

 と、ロッティーが解説をした。


 「なるほど、もう料理人が作れるから、そちらに言いなさいってことだな。うちの孫は案外策士かもしれん。」


 いやいや、この程度で策士って。


 そんな会話を聞きながら、厨房に行っていた分の料理を急いで口に運ぶ。


 うめーなこれ。何の肉だろう?などと思っていると、他の皆は食事を終え、お茶の時間になっていた。


 「お爺様、伺いたいことがあるの。」

 いきなりロッティーが切り出す。


 「なんだい、シャーロット。」

 爺ちゃんはあくまで優しい態度だ。


 「お爺様が行われた行政改革。何かヒントがありまして?」

 ああ、これを聞きたかったのか。


 確かに関係あって、もう終わったことだよな。


 「わしが全部考えた。」

 と言った爺ちゃんの顔を笑顔で凝視するロッティー。


 その顔は笑顔じゃないって。

 「わかった、わかった、シャーロットやもうそんな顔をするな。城の図書館で見つけたのだ。あまり大っぴらに言える本で無いでの、他の者には黙っておった。」 


 「そんな大切な本なのですか?」


 こう聞いたのは父さん。

 父さんも本好きなんだよ。


 「爺ちゃん、それを発案した人を僕は当てられるよ。英雄王ノヴァリスでしょ。」


 「アベル、一番いいところを言っちゃヤダ。」


 珍しくロッティーが怒っている。

 かわよ。


 「なんじゃ、アベルたちは知っておったのか。」

 爺ちゃんは物珍しそうな顔をして聞いてきた。


 「ノヴァリス王の蔵書がうちの図書室にもあったんだよね。姉さんなんだっけ?」


 「大長老の語るノヴァリスよ。」


 「あ、それだ。最初に爺ちゃんの行政改革案を見て、これは凄いな、ヴァレンティア城でもやらないと父さんが潰れちゃうぞって思ったんだよ。で、草案が出来たころに、大長老が語るノヴァリスを読んだんだよね。」


 「そうね、ほとんどアベル一人で紐解いてしまったのだけれど、ノヴァリス様は技術と思想が当時としてはずば抜けて、というより他の時代から来たんじゃないかって思うほどの人なのよ。」


 まあ旧アベルさんは異世界人だからね。


 「今の王様を一番上に掲げて、その下に貴族たちを配置する制度を作ったのもノヴァリス様なのよね。でも、他の制度も試そうとなさっていた節があるの。その中で、官僚制が出てくるのよ。」


 そう、英雄王ノヴァリスは民主共和制を掲げようとした節がある。その中で出てきたのが官僚制だ。


 「おぬしら凄いの。その年より下の時にそこまで行きついたのであろう?アリアンナ、アベルを家に置かんか。」


 「駄目よ、アベルはヴァレンタイン家の跡取りなんですからね。」


 「うーん、ここに置いて、宰相としての教育をすれば、ノヴァリス国は安泰だと思うのだがなぁ。のう、ローランド君。」


 いきなり父さんを名前で呼び出して媚を売って来たぞ。


 「いや、さすがにそれは承服いたしかねます。」

 父さんは嫌な汗をかいてきてる。


 「そこをまげて!」

 わりと爺ちゃんもしつこい。


 「爺ちゃん駄目だよ。僕は剣では無敵、一閃の剣、お転婆魔女の息子でずっといるつもりなんだから。もちろん宰相閣下ご夫妻の孫ではあるのだけどね。」


 「あなた、諦めなさい、この子は宰相という器じゃないわよ。自分の領地があっての器よ。」


 「むぅ、そうか、アベル本人が嫌だというのでは仕方なかろう。」


 そうこうしているうちにシャーベットが届いた。

 皆に配られる。


 母さんと婆ちゃんとロッティーの顔がぱあぁと華やぐ。


 やはり女性陣は甘いものが好きだね。


 「どう?」

 俺は皆に聞いてみる。


 「これは美味しいよ。サッパリしている。冷たいってのがいいね。」


 父さんはこういうの結構好きなんだね。

 知らなかったよ。


 「うむ、これはうまいの。宮廷で出してもいいくらいだ。」

 これは爺ちゃん。


 「おかわりあるかしら。」

 これは母さんと婆ちゃん。


 「美味しいわよ、アベル。また変わったお菓子作ってね。」

 要求から入るロッティー。


 俺も一口食べて見る。


 「うん、上手いけど、もっと酸っぱい柑橘系の果物のジュースと、砂糖を加えるともっと美味しくなるかも。」

 と、口から洩れた。


 「アベル、それを作ってもいいのよ。」


 「婆ちゃんも是非食べたいわね。」


 「私も食べたいわ、アベル。」


 女性陣の食への渇望は留まるところを知らない。


 「今日はよそうよ。もう帰る時間でしょ。」

 俺はそうやってしのぐことにした。


 「そうね、まだ期間はあるんだし、それまでにアベルはレシピを確定しなさい。」

 母さん、俺は何しに来たんでしたっけ?


 ええい、いいや、やったれ。

 「今からちょっとやってくる。いいよね。」


 「あら、やる気出したの?いいわよ、ゆっくり待っているわ。」

 母さんめ、実家だからって。


 さっきと同じメイドにお願いして付いて来てもらった。

 

 「坊ちゃん、また何か御用ですか?」

 料理人が聞いてきた。


 俺も来るつもりはなかったんだよ。

 「リオラのジュースはさっきと同じくらい有りますか?」


 いっちょ始めたるか。


 「ありますよ。」


 「また作りますから、材料があるか確認お願いします。」


 「はい」


 「それでは必要なものとして、リオラのジュース。3個分のレモーネのジュース、あとは砂糖と氷と塩です。」


 「では確認してきます。」


 料理人さんたちは手際がいい。


 「全部用意できます。」


 「了解です。では始めますね。リオラのジュースを大きめのコップ2杯分ボウルに入れて、そこに砂糖を大きいスプーン、それくらいの奴でいいです、それで3杯入れましょう。そしたら、湯銭にかけて砂糖が溶ける迄かき混ぜます。」


 料理人は指示通りにしてくれる。


 「砂糖溶けましたか?」


 「はい、溶けました。」


 「ではそれを取り出して、さっきと同じことをします。ただ違うのは、凍る一歩手前でレモーネのジュースを入れます。たぶんこれで、さっきより甘いけど、締まった味になると思うんですよね。」


 既に一回作っているから、料理人さんたちも慣れたもんだ。


 「不思議ですね、坊ちゃん。これで中の物が凍るなんで。」


 不思議そうに料理人さんが話しかけてくる。


 「本当ですよね。僕も本で知ったんです。冷凍庫でも出来るけど、こっちの方が手軽だって。」


 「はぁ、本ねぇ。坊ちゃんは勉強家なんですね。」


 「いやいや、そんなことないんですよ。一緒に来た姉なんて、3歳の時に大辞典全部覚えちゃったんですから。あれと比べたら僕なんてゴミみたいなものですよ。」


 「いやいや、そのお年でいろいろ勉強なさっておられる、さすが旦那様と奥様のお孫さんです。」


 「そう言っていただけると恐縮ですけれど。」


 なんだか本当に恐縮してしまう。


 「凍りましたね。」


 ボウルを覗いたら、凍っていた。


 「はい、では取り分けます。」


 「余るでしょうから、皆さんも食べてください。そちらのメイドさんもどうぞ。」


 俺は連れてきたくれたメイドにもシャーベットを勧める。


 「よろしいのですか?」


 メイドが慎重に聞いてくるので


 「大丈夫ですよ。ここの人しか知らないことです。でもさっさと食べて下さいね。婆ちゃんたちが待っていますから。」


 「はい!」


 と、彼女はニコニコしながら一口、二口食べる。そしてしゃがみこんだ。


 まあ、初めて食べるなら仕方ない。

 アイスクリーム頭痛ね。


 「お坊っちゃま。頭が痛いです。」


 「最初一口だけですよ。あとは慣れます。」


 「あ、本当ですね。慣れてくると美味しさが引き立ちます。」


 などと、厨房で和気あいあいしゃべってから、食堂へ向かう。


 「時間がかかったわね。」

 母さんのド直球。


 「時間がかかるって言っておいたでしょ。さあ、持ってきましたよ。改良版です。」

 メイドから全員に配ってもらう。


 「さっきより酸っぱい。でもさっきより甘い。そうね、アベルが言ったように引き締まった感じがするわ。」

 ロッティーが感想を洩らす。


 「本当ね。アベルは凄いのね。婆ちゃん感心しちゃった。」


 さっきの改革の話は無関心だったのに、現金なことで。


 「アリアンナ、満足したかい?」

 父さんが母さんに問いかける。


 「そうね、時間も時間だから帰りましょうか。」


 「あら、寂しいわ。シャーロット、アベルまた来るのですよ。」


 「はい、お婆様。」


 「はい、婆ちゃん。また来るね。」


 「アベルはずっとここに居てもいいのだぞ?」


 爺ちゃんはまだあきらめてなかったか。

 「あと10年経ったら、セイナリアに住むことになるだろうか、その時はたくさんお話を聞かせてね。」

 俺は当たり障りのない事を言っておく。


 「それでは、失礼いたします。」

 父さんが言うと、皆でお辞儀をして馬車に乗り込む。


 「3日後、城で待っておるぞ。」


 そう言って爺ちゃんは手を振る。


 「すぐまた来るのですよ。待っていますから。」


 婆ちゃんも手を振って送り出してくれた。


 そして馬車は走り出す。

 



 まさか首都に来てまでシャーベット作りをさせられるとは思わなかったよ。


ここまで読んでいただき、有難うございます。

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