73.アベルくんと首都の陰謀。
73.アベルくんと首都の陰謀。
風呂に入って一息ついていたら、ミーが呼びに来た。
「アベル様、お食事の時間にゃす。」
「うん、ありがとう。すぐ行くよ。」
俺は答えて、ローズから服を出してもらいながら着る。
新しい服に着替えた俺はローズを従えて食堂に向かった。
食堂でそれぞれ食卓に着く。
俺の椅子は子供用に嵩増しされたものが用意されている。
頭が出ないと食えないしね。
母さんに抱っこされて食べるのもね。
みんな風呂上がりのようで、小ざっぱりとした衣装に着替えていた。
「さあ、始めてもらおうか。」
父さんがそう言うと、料理の皿が次々と出てくる。
父さんと母さんには果実酒が、ロッティーと俺のグラスには水が入っている。
出された大皿の料理を、手際よくお姉さんメイド達が取り分ける。
エレナ、ミー、クラリスと後二人、別邸在住のメイドだ。
リサとローズはいない。
背が届かないからな。
多分、今頃は二人とも風呂に入ってご飯を食べていると思う。
さらに盛り付けてある料理はとてもきれいで華やかに盛り付けてある。
ジョージも中々だけど、別邸の料理人もやるな。
いや、問題は味だ。
エレナが盛り付けてくれた皿の料理を一口食べてみる。
「おいしい。なにこれ?何の何処の部位か分からないけど、おいしいね。」
「これは城壁の外の農場で飼っている、タークの肉だな。」
父さんも一口食べて、肉が何か分かったようだ。
タークとは食用に飼育されている家畜で、育てやすく収穫量も多いという動物だ。
「ここにも専属の料理人がいるの?」
気になったので聞いてみた。
「料理はアーサーが作っているのよ。」
母さんが答えてくれたが、へ?あの気の良いドワーフが?
「アーサーって執事でしょ?」
「そうだよ、ヨハンもだけど、アーサーもオールラウンダーなんだ。」
と父さんが一口お酒を飲んでから答えてくれた。
「へ~。」
そう言って、俺は食事に専念する。
あとは姉さんや母さんと他愛の無い話に父さんが入ってくる、そんな団らんだった。
最後にお茶が出されたタイミングで話をする。
「この前の盗賊団、おかしくなかった?」
「おかしかったな。」
そう答えたのは父さん。
「そうだよね、始めは20の騎馬で追いかけて、三差路でまた20の騎馬の伏兵でしょ。奴らも今回こちらをうまく分断できたけど、いくら騎士の4倍の人数だからって、正規騎士10騎護衛に着いた馬車隊を襲うっておかしいよね。」
「うん、そうだね。」
「そうだねって気づいてたの?」
父さんは紅茶を一口飲んでから
「その前に斥候が出てたからね。伏兵が居なければチャールズ達が右から回り込んでやってしまうはずだったんだけどね。」
「て、ことはやっぱり盗賊じゃなくて、組織的にうちの馬車が狙われた?うちって嫌われてる?」
父さんはブッ!と紅茶を吹きそうになるのをこらえて
「まあ、全部が全部に好かれるのは無理だよ。それにうちは田舎なのに人より稼いでいるからね。そこらへんは前からいろいろあったさ。」
「じゃ、今回はうちへの妬みってこと?」
「いや、盗賊だよ。証拠がないからね。盗賊がやったんだ。わかったね、アベル。」
父さんは暗に余計な詮索はするなと言っているんだろう。
俺も藪蛇になりそうなのはわかる。
「うん、今回のは盗賊ね。」
「ああそうだ。だからお前は首突っ込むなよ。アリアンナが泣きそうな顔しているからな。」
えっ!本当だ。涙をためていらっしゃる。
「母さん、大丈夫だよ。危ないことに首突っ込んだりしないから。ね、余計なこと口出ししないよ。」
「あなた、今、口出ししていたわよね。」
母さんはふくれっ面だ。
「疑問に思ったことを聴いただけさ。その奥を調べようとか、政治的思惑面白そうとか、思ったことないから。」
俺がこう言うと
「アベル、それ以上は藪蛇だわ。」
ロッティーが俺の口を止める。
「だから、その政治的思惑とかを考えちゃダメでしょ。なんであなたは普通の子供でいてくれないの?」
母さんが俺を追い詰めようとする。
「いやだなぁ、どうも見ても普通の子供でしょ?」
「もう、そう言う所が普通じゃないよね。」
父さんは笑いながら否定する。
「ええ、そうね。」
母さんは苦虫をかむような顔で否定。
「私はそんなアベルも素敵だと思っているわ。」
ロッティーは肯定してくれるけど、あまりうれしくない肯定の仕方だ。
うーん、自分が招いたと話いえ、この雰囲気を打開する術は無かろうか?
などと考えていると
「母様、明日はウイリアムお爺様の家へ行くの?」
ナイス!!
ロッティー素晴らしい切り替え!
「ええ、そのつもりだったけど、アベルがあんなこと言うから行く気が無くなっちゃったわ。」
母さんは目を伏せてそんなことを言った。
「そんな!まだ僕は会ったことがないんだよ。」
俺は目一杯、母さんに抗議をする。
「私も会ったかどうか微妙ね。お爺様だけが視察でヴァレンティアに数日来ただけですもの。」
姉さんも不満そうだ。
父さんは笑って紅茶から蒸留酒に切り替え、香りを楽しみながら俺たちの様子を楽しんでいる。
「うーん、どうしようかしら。ロッティーはいいとして、アベルは言うこと聞いてくれそうもないし。」
母さんは、俺を試して遊んでいる。
「わかった。行かないよ。2か月間この家で引きこもる。王城も行かない。ごちそうさま。」
俺はそう言って椅子から降りて食堂から出ていく。
いつの間にかローズが後ろにつき
「いいんですか?あんなこと言って。」
と諫める。
いつの間にか肩に乗っていたリーサが
「あんな安い挑発に乗るなんて、あんたもまだまだね。」
などと挑発してくる。
「お前、今迄どこへ、ってまあいいか。俺自体はさほど外に出なくても痛みは無いからね。爺ちゃん婆ちゃん に会えないのは楽しみにしていたからあれだけど、まあ仕方ない。」
部屋で魔法の実験し放題じゃないか。
「これだからヲタはモテないのよ。」
リーサが俺の心を読んで前世の言葉を使って煽ってきたが
「この世界ではモテてるらしいぞ?」
と返しておいた。
「ふん!誰によ!」
と言ってくるので
「お前。」
と返したらリーサは肩から廊下に落ちた。
「私はあんたなんかに!あんたなんかに!」
と怒鳴りながら抗議しているのか?これ。
「あんたなんか大好きってか?」
と言ったら、また落ちた。
「フェアリーさんとは結婚できないから、残念だなぁ。」
と俺が言うと
「そんなもんしなくていいわ。種さえもらえれば。」
はぁ?その気はあったのか。
「お前、生々しいこと言うなよ。ほら見ろ、ローズの顔が真っ赤だろ。」
ローズは顔を真っ赤にしてうつむきながら、俺の後をついてくる。
というか、ローズも子種なんて知っているんだね。
まったく、10歳のくせに耳年増だなぁ。
3人でギャーギャー言いながら部屋に入った。
***********
「いいのかい?」
「なにが?」
「アベルが頑固なのは君に似たんだろうね。」
「私、あなたが言うほど頑固かしら?」
「母様は頑固よ。」
「ロッティー、あなたまで。」
「ちょっと拗ねて遊び過ぎたのは君なんだ、ちゃんと謝るんだよ。あれは小さな大人だ。そう思って接しないと何を起こすかわからない。君だって十分わかっているだろう?」
「わかっているわ。5年間ずっと見てきたんですもの。でもアベルは見てきたと思って来たものを、あっさり飛び越えて行くのよね。それが嬉しいのか悲しいのか分からなくなるのよ。あの子、そんなに生き急いでどうするんだろうって。」
「アベルは3歳?もっと前から深い知識を持っていたわ。私が覚えた知識と違った、礼儀とか生活に必要な知識。自分と人を傷つけないようにする処世術的なものまで。だから使用人たちに絶大な人気を誇っている。マリアやマーガレットのアベルへの溺愛ぶりはビックリするほどだもの。」
「そうなんだよ、今ロッティーが言うように、ヨハンがアベルをからかっているんだけど、老成しているんだよね。まるで僕より年上のように感じるときがある。その考えは深く、それでいて僕たち家族を自らで守ろうとするように。そう言う所も含めてリラに気に入られちゃったのかな。」
「「その人の名前は出してほしくなかったわ。」」
「二人同時に責めなくてもいいだろう?でもアベルも気に入っている節があるよね。まるで長年連れ添った夫婦のような会話をしていることがある。アベルの最初はやっぱり…」
「「むー!」」
「だから二人同時で怒らないでよ。観察してきた事実として述べただけさ。とりあえず、様子を見に行ってきなよ。案外ケロッとしているとは思うんだけどね。」
「それはそれで腹が立つのよね。」
「アリアンナもアベルに対して前のめり過ぎるように感じるな。僕は寂しいよ。わかった、皆で様子を見に行ってみよう。」
そう言って3人はアベルの部屋に向かった。
***********
「あんた、あの魔法で盗賊やっちゃったの?」
「あれでファイアーボールを両手使ってばらまくことが、一番効率が良かったもの。」
俺はリーサに盗賊撃退の話をしていた。
「あんた、有名人になるわよ。」
「なんでさ。」
「あんたね、5歳の男の子が騎馬の盗賊30騎を退けたんでしょ。しかもほぼ新魔法で。」
「まあ、新魔法って言っても魔素が潤沢にあれば誰でもできるし。」
「出来なかったから、新魔法なんでしょ。」
あれ?俺ってばリーサに言い返せない。
「再来年、ロッティーと二人で魔法大学校へ入学なってことになるんじゃない?」
ハッ!馬鹿なことを。
「そんなん嫌だよ、爺ちゃんに剣を教わらなきゃならないんだし。」
「でも、あんたトラウマ克服して、そこから魔法のイメージ克服の実験しないと両立できないでしょ。」
「わかってんだよ、わかってるから魔法大学校なんていけないだろって話。」
「問題はあんたのトラウマよね。あんな不確定要素はなかなか取れないわよ。」
「リーサでも無理か。」
「あんた、私に脳の中いじくりまわしてもらいたいの?」
「やだ。」
「でしょ。」
ここでノックが聞こえてきた。
ローズがドアを確認する。
しかし、よくローズはリーサと俺の会話を聞いていられるよな。
前世と魔法の単語てんこ盛りの会話をしているのに。
「僕らだ。」
父さんと他二人出来やってきた。
「入っていい?」
「父さん達に閉ざすドアを僕は持っていないよ。」
「生言っちゃって。」
そう言って母さん達が入ってくる。
「どうしたの?」
まあ分かっているけど取り敢えずね。
「ああ、さっきの話よ。ゴメンね。私も頑なだった。」
母さんが珍しく誤った。
「ああ、いいんだよ、僕も頑なだったし、母さんも頑なだっただけだから、お相子だね。」
「なんだか棘のある言い方するわね。」
「いやそんな、馬鹿な。」
「まあ、いいわ。明日は予定通りお爺様の家ね。」
「はい。わかりました。」
「ところでアリアンナ。」
リーサが会話に割り込んできた。
「あら、リーサちゃん、さっきいなかったわね。ご飯食べなくても平気?」
母さんがリーサのご飯を心配してる。
まあ、神だから食わなくても平気らしいが。
「私を気遣ってくれてありがとう、それより大事な話よ。」
さっきの話をするつもりか。
まあ、遅いよりいいのかもな。
「アベルが盗賊を魔法で退けたんでしょ?」
「ええ、そうよ。アベルから聞いたのね。」
「ガストーチ魔法と一緒に見せた、ファイアーボールの連射魔法だったんでしょ?」
「そうね、ファイアーボールの連射だったわ。私がやったら、魔素呼吸やりながらでも、魔素ががあっという間になくなっちゃうわよね。」
魔素タンク状態を保持で気ならば、それくらいなんだろうな。
「それよ、アベル魔法大学校に狙われない?」
「ああ、それを心配してくれていたのか。リーサ有り難う。それは先手を打ったよ。」
これは父さんが答える。
へ?いつの間に。
「どうやって?」
「私が主導で、アベルとロッティーが補助で魔法を使ったって報告したのよ。」
ん?
「3人で分担して退けたって言ったの?」
「そうよ。まあ、何とか通ったわ。昔の実績って案外役に立つものなのね。」
なるほど、さすが父さんと母さん。先手を打ったのか。ありがたい。
「なるほどね。良かったわね、アベル、これでエドワードと剣の修練が出来るわよ。」
「うん、良かった、二人とも気を遣ってくれてありがとう。
「お爺様から剣術を習いたいんでしょ。」
母さんが改めて聞いてくる。
「うん。ヴァレンタイン家の男だからね。」
「僕が見てやってもいいんだけどね。」
父さんがすかさず言ってくる。
「ローランドは仕事があるでしょ、アベル、でもいずれどちらかを選ばなきゃならないわよ。」
「英雄王様はどちらも使えたらしいんだよね。僕と英雄王様は幼少の状況が似ているんだ。だからうまくすればって思ってる。」
「まったく、魔法があれだけ凄いんだから、欲張らなくてもいいのに。」
「僕は欲張りなんだよ。」
エッヘンと腰に手をやる。
「まあ、いいけど。女の子に対しても欲張るんじゃないわよ。」
「ああ、そうだね。」
父さんは楽しそうだ。
「むー!」
姉さんはおかんむりだ。
「僕はね、理想は父さんと母さんたちなんだよ。ただ、父さんと母さん達みたいに恋愛で結婚できるかどうかは微妙だと思っているんだけどね。」
「あら、おませさん。でもそうね、貴族は政略結婚が当たり前だわ。アベルはヴァレンタイン家の長男だもの、縁談は凄く来るわよ。」
「僕の時も凄かったらしいけどね、アリアンナとすぐ結婚したから、断るのは楽だったよ。」
「父さんはモテただろうね。でも僕は、欲張るなと言われてもそうはいかないよ感が凄くするんだよ。母さんも予感がするでしょ。」
「もうね、今からそんな予感しかないわよ。というか、予感じゃなくて確信に近いわね。」
父さんと母さんはチラッとローズを見る。
ローズは気づかないふりだ。
姉さんはむっとした顔をしたまま僕を見ている。
姉さんはローズと友達だからね。釈然としないのはわかるよ。
俺も釈然としていないもの。
困るんだよな、フラグ立てんの。
「父さん、母さん、怒るかもしれないけどあえて聞くよ。さっきの話なんだけどさ、どう思う?」
「盗賊に裏があるんじゃなかって話ね。」
「そう、俺はもう背中から刺されるのは嫌だからさ、今のうちから気を付けないと。」
正直これはホント。
ましてここにはアンネが居ない。
「そうね、アンネが居ないもんね。」
とリーサが会話の補完をしてくれる。
そう、アンネの蘇生魔法はここにはない。
「僕が言ったろ、証拠がないうちは何もできない。ましてうちより大きな家の仕業だったらなおの事ね。」
「うちより大きな家か。」
「はい、考えない。今は幼児らしく楽しくしておきなさい。わかった。?」
「そうだね。それがいいな。」
僕はしみじみそう言った。
ところが
「さあ、トランプやるわよ!」
「はぁ?」
「明日は午後からだもの、ゆっくりできるわよ。」
母さんはすっかりババ抜きにはまっている。
「ローズ、リサとエレナとミーも呼んできなさい。皆でやりましょう。」
「ヨハンは呼ばないの?」
「強いでしょ!」
かわいそうに。
「別邸組子達も呼べばいいのに。」
「アベルいい事言うわ、でも何人か順番になるわね。」
「まあいいじゃないか、僕は見ながら飲んでるよ。」
父さんが珍しく飲む気だ。
「僕も下がってみてるよ。いつでもできるしね。」
「あんたたちが下がってみてると、私もそうしなきゃならないでしょ。」
母さんは不満そう。
「母さんがやりたいんだから気にしなくてもいいよ。」
「そう?悪いわね。」
欲望には素直だ。
今度は七ならべでも教えるか。
大富豪がいいかな。
どっちも眠れなくなりそうだ。
ここまで読んでいただき、有難うございます。
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