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72.アベルくんと都の別邸

72.アベルくんと都の別邸




 バルドさんに送り出された俺たちは、セイナリアの城壁内へ入ってゆく。



 ゲートから直進すると住宅街、左に行くと商業街らしい。

 俺は商業街のほうを見てみる。


 人や馬車、荷車が引っ切り無しに動いている。

 なるほど、これは賑わっている。


 でもここに行きたいっていうランドマーク的なもの今のところは見当たらないなぁ。


 根っからの陰キャ引きこもりは賑やかなところが苦手なのだ。


 真っすぐに来たので、住宅街に入った。


 だいたい何処の城塞都市も城を中心に丘のようにできているので、丘の下、現在いるようなところは一般市民の住宅だ。


 これはヴァレンティアでも変わらない。


 「もうちょっと上がったところが別邸た。」

 父さんはなんだか楽しそうだ。


 爺ちゃんの仕事についてきて、ずっと住んでいたそうだから、仕方ないのかもしれない。

 「今日から別邸ってところで過ごすんだね。」


 俺は父さんに聞いてみた。


 「そうだね。もちろんヴァレンティアの城より小さいが、みんなでゆっくりできると思うよ。アベル、疲れたんじゃないか?野宿もあったしね。今日はゆっくり休むといいよ。」

 父さんは優しい瞳で俺を見ながらいたわってくれる。


 「ありがとう、父さん。多分ベッドに入ったら即落ちだね。」


 「なんだよ、即落ちって。」

 朗らかに笑い始める父さん。


 父さんは笑いの沸点が案外低い。


 「楽しそうね、何がおかしいの?」

 母さんが僕らのシートの近くに来た。


 「僕が、ベッドに入ったら即落ちだねって言ったら、父さんに受けちゃってね。」


 「だって、おかしいじゃないか。即落ちだよ?そんな言葉聞いたことなかったけど、まったくその通りだなって思ったら、おかしくて。」

 父さんはとうとう腹抱えている。


 「アベルはいつでもなんでも面白おかしく話をするんだから。ローランドも笑い過ぎよ。」


 「母様、人を笑わせるのも才能なのよ。」

 おお、ロッティーが大御所芸人みたいなことを。


 「旦那様、別邸に着きます。」

 御者のおっちゃんは、相変わらず微妙なタイミングで声をかけてくる。


 「ああ、わかった。聞いたとおりだ。みんな降りる準備をして。」


 母さんは自分の身支度を素早くすると


 「アベル、こっちに来なさい。ほら、シャツを入れなおして」

 と、俺の身支度を直して行く。


 自分で出来るんだが、まぁ、いいか。

 何でも子供が一人で出来てしまうと、親としては寂しい物なんだよ、多分。


 などとやっている間に馬車はロータリーから玄関前で停止した。


 馬車の扉の前に、おっちゃんが踏み台を出してくれて、父さんが一番先に降り、次に母さんを父さんがエスコートする。

 

 この流れが実に自然だ。


 姉さんは踏み台を使うと思ったら、父さんが抱きかかえて降ろしてあげる。


 俺はその脇をピョンピョンと踏み台をジャンプして降りた。


 「アベル、行儀が悪いですよ。」

 と、母さんに怒られたが、織り込み済みなので気にしない。


 降りてすぐ、玄関のひさしの脇に別邸の使用人たちが並んでいる。


 黒い制服を着ている執事っぽい人はドワーフだ。


 後は妙齢のメイドが一人と若いメイドが二人。


 今回、ヴァレンティアから4人連れてきたから、トータル7人か。


 女子トークで盛り上がるのだろうか?


 俺はそんなとこに入らないけど。いやマジで。


 「やあ、アーサー、世話になるよ。」

 父さんがドワーフに挨拶する。


 アーサーか!苗字はペンドラゴンに違いない!

 湖の精霊から剣を貰ってんのか?


 などと、くだらないことを考えていると、俺の肩に何かが止まる。


 「リーサ、お前はどこ行ってたんだよ。」


 「高次元へ。ちょっと用があってね。でもあんたたち見てたわよ。良く何度も痴話げんかできるわね。」


 「痴話げんかじゃねーしな。あれ?お前高次元に行ったら戻るのに依り代が必要なんじゃないの?」


 「今はこの身体があるから平気なのよ。」


 「便利な世の中だな。」


 「そうよ、便利な世の中なのよ。」


 「Youちゃん嫌いじゃなかったのか?」


 「奴の所は行かないわよ。その手前って言えばいいのかしら。あそこは次元が入り混じっているから手前とか奥とか無いから説明するのは面倒なのよね。」


 「へぇ、まあいいや。ここが今日からの住処だってさ。暴れんなよ。」


 「アベルじゃあるまいし、暴れないわよ。」


 「俺がいつ暴れたよ。そうだ、お前がいないときに盗賊に襲われてさって、後にするか、入らなきゃな。」


 「そうしましょ。ロッティーの後ろに行きなさいよ。


 「はいはい。」


 俺たちが他愛の無い話をしている裏では、


 「ローランドの旦那、ようこそ御出で下さいやした。」

 なんともドワーフらしいフランクな挨拶をしていた。


 そして父さんがメイド達の前を通ると

 「旦那様、ようこそいらっしゃいました。」

 3人そろった挨拶が飛んでくる。


 それを右手を上げて答えながら進む父さん。


 アーサーは

 「奥様、ようこそ。」

 「お嬢ちゃん、ようこそ」

 で、俺の番は

 「坊っちゃん、ようこそ」

 な感じで、極めてフランク。


 俺は嫌いじゃない。


 ネスなんてもっと態度と話し方が酷いし。


 というわけで、玄関に入る。


 良く転生アニメなんかで見る玄関ホールだ、これ。

 ヴァレンティアの玄関は元が砦だから狭くなっているんだよね。

 

 ホールはあるんだけど、ここまで入って開けるって解放感はもちろんない。


 シャンデリア、大理石のような床にカーペットが敷き詰められている。


 なんだかどこの建物に行っても同じことを言っているようだが、こいつは金がかかってんな。


 うちの領地はどんだけ稼いでんだよ。


 まあ、冒険者ギルドが現ナマで220億円も持っているんだから、それを商業ギルド経由で買い取っているるんだから、そりゃあるか。


 「父さん、別邸って言葉を使うのがはばかられるんだけど。」


 父さんはしみじみとしながら

 「そうだな、ヴァレンティアのお城は地味だからな。」


 「アベル、それは仕方ないわ、あそこは砦ですもの。」

 ロッティーもシャンデリアを見ながらつぶやく。


 パンパンと拍手の音がしたと思ったら

 「はい、見とれるのも後にしなさいな。2ヶ月も住むんだから見とれ放題よ。ほら、メイド達についてお風呂行ってらっしゃい。ロッティー、アベルと一緒じゃないわよ。もう別で入りなさい。」

 それを聞いたロッティーが「チッ!」と舌打ちをした。


 「へ?シャーロット?」

 こんな態度のロッティーを見たことがない父さんは唖然としとる。


 さて俺は風呂に行こうかね。


 と、思っても渡していると、JKくらいのメイドとローズが寄ってきた。

 「アベル様、クラリスと申します。これからよろしくお願い致します。お部屋までご案内します。」


 そう言って、どこかのお姫様と同じ名前のメイドは、俺を二階へと案内する。

 当然ローズもついてくる。


 「こちらが、アベル様のお部屋となります。こちらにお風呂が用意されております。湯を張りますので、どうぞ部屋でおくつろぎ下さい。」

 そう言ってクラリスが風呂へと向かった。


 バストイレ付きの部屋か、俺は入ったことはないけど、スイートってこんな感じじゃないのかな?

 

 「ローズ、お茶を飲もう。3人分だぞ。」

 そう言ってローズにお茶をリクエストする。


 「はい、3人分ですね。」

 ローズは俺に確認をして部屋を出て行った。


 俺はベッドに座り、紐タイを外してシャツの上のボタンを2つ外す。


 そして「あーー!」と大きく伸びをしながらベッドに後ろから倒れこんだ。


 やばい、このまま眠っちゃいそうだ。と思っていたら


 「アベル様、お持ちいたしました。」

 そう言って、ローズがティーセットを持ってきた。


 「お前も疲れているのに、悪いね。」


 「アベル様、私はアベル様のメイドなんですよ?」

 そう言って笑う。


 「そりゃ分かっているけどさ。」

 あれ?またリーサが居ない。


 まぁ神様のことを気にしても詮無きことだ。


 すると

 「湯を張り終えました。」

 クラリスが戻ってきた。


 「クラリス、こっちにきてお茶にしよう。色々話も聞きたいしさ。ローズ頼む。」


 「はい。」

 ローズはお茶の支度をし始める。


 「ローズちゃんゴメンね、来たばかりで慣れないのに。」


 ここでねぎらいの言葉を出すのは、良い娘なのかもな。


 「大丈夫ですよ、私もお話聞きたいですし。」


 ローズは、はいどうぞと、それぞれにティーカップを置く。


 「ありがとう。とりあえず自己紹介から始めようか。僕からね。アベル・ヴァレンタイン。ローランド・ヴァレンタインの息子だよ。5歳だ。よろしく。」


 「私はクラリス・レイモンドです。ヴァレンタイン領の東にあるレイモンド領の男爵家の4女です。16歳です。」


 「ああ、レイモンド男爵家のご令嬢ですか。」

 俺がこう言うと、クラリスはかぶりを振り


 「上に3人兄がいて、3人姉がいるんですよ。冷や飯食いで困っていたら、マーガレットさんを通じてアリアンナ奥様が採用してくださったんです。だから、アベル様もローズちゃんも敬語など使わないで下さい。」

 

 マーガレットや母さんは基本優しいからな。虐げられた若い女の子なんて、絶対放っておかない。

 

 でも、こうやって働けるならいいじゃないか。


 「そうか、なら普通に話すよ。いいね。」


 「はい!お願いします。」

 クラリスは元気よく返事をした。


 「ローズ、次だぞ。」


 「はい、ローズです。ヴァレンティア生まれ、狼の獣人の10歳です。クラリスさん、よろしくお願いします。」

 そう言ってローズはペコリっと頭を下げた。


 「こちらこそよろしくね、ローズちゃん。」


 「私だけ貴族じゃありませんね。」

 馬鹿なこと言ってんじゃないよ、この娘は。


 「余計なことを考えなくてもいい、お前とリサのことは、父さんも母さんも娘みたいに思っているさ。姉さんと俺も兄弟みたいに思っているぞ?」


 「へへ、なんだか嬉しいけど、照れくさいですね。」

 そう言って照れて笑っているローズ。


 そうして笑ってりゃいいのさ。


 「いいですね。仲良しで。」

 クラリスめ、お姉さんブルつもりかな。


 「さて、風呂に入ろうかな。」

 ローズがすかさず


 「はい、お手伝いします。」


 「いや、一人で入れるけど?」


 「恥ずかしいんですか?私はアベル様のおむつも変えたんですよ?」



 こんな二人のやり取りを見ていたクラリスは、屈託なく笑うのだった。




ここまで読んでいただき、有難うございます。

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