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71.アベルくんとゲートのおっちゃん。

71.アベルくんとゲートのおっちゃん。




 微妙な雰囲気の中、みんな顔を拭いたり、化粧を直したり、身支度を整えたりとさっきの余韻を楽しむことなく、首都に入る準備をしていた。


 父さんはゲートのチェックに備えるため、馬車の窓側の席に張り付く。

 

俺は物珍しさから、父さんの隣に座りなおした。


 そんな俺を見て父さんは笑う。


 「アベルは首都が初めだもんな。楽しみかい?」

 父さんはさっきみたいな険しくも困った顔から、いつもの穏やかで落ち着いた雰囲気でたたずんでいる。


 「うーん、母さんから王様や王子様に会わなきゃダメって聞くまでは、何となく楽しみだったんだけどね。」

 俺は率直な気持ちを言う。


 「気持ちはわかるよ、僕も冒険者から貴族の仕事に切り替えるときは憂鬱だった。」

 ちょっとはにかむ様な笑顔を父さんはする。


 こんなちょっとした仕草でもこの人はカッコいい。


 俺はこうは成れないよな、中身が中身だけに。


 「父さんでもそんなこと思っていたの?」

 そういったら


 「父さんでもって何だい。僕だってなんでも順風に適応してきたわけじゃないんだよ。それなりに苦労してきたのさ。」

 へー、この人でもそんな苦労を。


 そしたら父さんは小声で俺に耳打ちをする。

 「一番苦労したのは、アリアンナに結婚を申し込む時だったけどね。」


 そんなことをしていたら後ろの席から


 「なに二人でやってんの?男同士で気持ち悪いわよ。」

 などと母さんが声をかけてくる。


 「父さんと今日も母さんと姉さんは綺麗だねって言っていたんだよ。ね、父さん。」


 「そうさ、アリアンナ。今日も君は綺麗だよ。もちろんシャーロットもね。」


 「なに言ってんの?さっきまで喧嘩していたのに。二人ともズルいんだから。」

 母さんはいつ取り出したのか、扇子で口を隠しそっぽを向く。


 「嫌だわ、アベルに綺麗なんて言われたわ。母様、どうしましょう。」

 ロッティーは両の頬を両手で抑え、身をよじっている。


 女性陣たちは、お互いに照れた様子を作っている。

 作っているんだよね?


 「ロッティー、そろそろアベル断ちしなくちゃね。」

 母さんが言い始める。


 「母様、意味が分からないわ。アベルでしか得られない栄養があるのよ?」

 姉さんが、前世のアレなセリフを言う。


 何故そんなセリフを知っているのだ?


 「しないと学校に入った時に辛いわよ。アベルが騎士学校に上がるのに、後10年もあるし。里帰りもそんなにできないわ。」

 母さんはにべもない。


 「母様」とロッティーが言いかけたときに、「まあ、今は良いじゃないか、そろそろゲートをくぐるし、先のことはまた後で話をすればいいさ。」

 と、父さんが割って入った。


 ナイス!お父様、とても効果的でございますよ。


 「そうね、馬車の中で言う話じゃなかったわ。ロッティーごめんなさい。ちょっと先走り過ぎたかもね。」

 と、母さんが言った途端に馬車が停まる。


 丸顔の騎士が窓から馬車内部を覗いている。


 父さんは馬車の窓を開ける。


 「失礼いたします。検問になります。紋章など見せていただけませんか。」


 馬車に紋章が書いてあるじゃん、とか言ってはいけないんだろう。


 「やあ、ご苦労様。これが紋章だよ。ローランド・ヴァレンタイン辺境伯だ。」


 それを聞いた途端、騎士の全身がブリキで出来たように固くなる。


 「大変失礼いたしました!かの一閃の剣にお会いできて光栄であります。」


 んな挨拶いいから、はよ紋章のチェックしなよ。


 「ああ、ありがとう、チェックはすぐに済むのかい?」


 「はい!すぐ、すぐにいたしますので、少々お待ちください。」


 そう言って紋章を持った丸顔の騎士は詰所であろうところへ駆けて行った。


 本当に少々待っていたら、さっきの丸顔の騎士と一緒に2m以上もありそうな騎士がのっそり近づいて来た。


 「はあ、見た顔が近づいて来たぞ。」

 父さんがつぶやく。


 「ローランド坊主!!」

 デカい身体がデカい声で叫ぶ


 ん?坊主?


 「やあ、バルドおじさん、元気かい?」


 「おうよ、久しぶりだな。」


 このデカい騎士が馬車の窓を覗くと馬車が低くなったような錯覚に陥る。


 「バルトさん、お久しぶり。」

 母さんが俺の脇から顔を出し、挨拶をしてる。


 「よう、アリアンナ嬢ちゃんも元気そうだ。」


 ん?嬢ちゃん?


 母さんは苦笑いを浮かべている。


 バルトと呼ばれた騎士は馬車の中をぐるりと眺め、俺とロッティーを見とめると


 「こんな大きな子供がいるんなら、坊主や嬢ちゃんて呼んだら怒られちまうな。」


 「紹介するよ。シャーロット、アベル。こちらがセイナリア騎士団長のバルド・レグナートさんだ。バルドおじさん、こちらの女の子が長女のシャーロット。」


 父さんはロッティーに手招きする。


 「シャーロット・ヴァレンタインでございます。以後お見知りおきを」

 ロッティーはきちんとカーテシーをして挨拶をした。


 「シャーロット嬢ちゃんか、キチンと挨拶が出来て、良くできた子だな。可愛くて賢そうだ。よろしくな、嬢ちゃん。」


 「そして、こちらが我が家の長男、アベルだ。」

 父さんは手のひらで俺を紹介する。


 「アベル・ヴァレンタインです。よろしくお願いします。」

 椅子から降りて最敬礼をする。


 「こっちの坊ちゃんも利発そうで良い子ですね。どっちもローランド伯とアリアンナ夫人に良く似ていますな。」


 「おじさん、敬語はやめてよ。ローランドでいいさ。」


 「ん?そうか?じゃあ、そうさせてもらおう。ヴァレンタイン辺境伯御一家の皆さん、ようこそセイナリアへ。」

 バルトさんは大きく大きな両手を広げ、歓迎してくれた。


 父さんはそれを見て、嬉しそうに笑みを浮かべ


 「バルドおじさん、ありがとう。セイナリアも久しぶりだからね。変わったかい。」


 「どこかの領がしっかりした量の魔石を仕入れてくれるおかげで、みんな潤っているし不便も無いんじゃないか?」


 「そうかい?それなら良いんだが。」


 「父さん、バルドさんとはどういう語関係なの。」


 父さんと母さんがセイナリア騎士団長と知り合い、しかも父さんと母さんが、坊主と嬢ちゃんと呼ばれることにピンとこなかった。


 「ああ、バルドおじさんは親父いや、爺ちゃんと友達なんだ。アリアンナのお父さんは宰相閣下だろ?そこでセイナリアの治安維持をしているのは?」


 「ああ、バルドさんだ。」


 「そういう事だ。」

 父さんは満足そうに頷いた。


 「はっはっは!エドワードは爺ちゃんか!そりゃいい!アベル坊主!エドワードは近衛騎士団長、俺はセイナリア騎士団長で張り合っていたのさ。」

 バルドさんは豪快に笑っている。


 「はへ~。おっちゃん、剣では無敵と張り合っていたの?」


 「そうさ、悔しいことに坊主の爺ちゃんって壁はとてつもなく高かったがな。おっと、後ろが詰まってきたな。ローランド、これ紋章だ。」

 さっき丸顔の騎士が持って行った紋章をバルドさんは父さんに渡す。


 「おじさん後で別邸にきてよ。飲もう。」


 「おう、じゃ後で先触れ出すわ。アリアンナもまた後でな。」


 「はい、奥さんも連れて来てくださいね。」


 母さん馬車の中で屈みながら、窓を覗き込むように、バルドさんに話している。


 「あいつが一緒だと煩くて飲めねぇんだが、わかったよ。じゃ、通ってくれ。」


 それを聞いた御者のおっちゃんが鞭を入れる。


 「じゃ、また後で。」


 と、父さんが言うと


 「おう、後でな!」




 そう言ってバルドさんは手を振ってくれるのだった。









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