70.アベルくんと首都セイナリア。
70.アベルくんと首都セイナリア。
やっと着いた。
首都の城壁までだけどね。
俺たちが進んでいる左隣はキャンプしたり、ただ疲れて座ったりしている人たちが、ひたすら行列を作っている。
うちの馬車隊はそれをスルーで進んでいく。
まあ、貴族の紋章が入っている馬車だしね。
まして騎士が10騎も護衛している馬車隊にだから、茶々を入れてくる人もいない。
おかげで、詰まることなくスムーズに貴族専用のゲートへと向かっているわけだ。
これが階級社会だって言われればそうなんだが、どうにも左側の行列を見ていると釈然と来ない。
城塞都市のゲートを広げるなんてことは、もっての外なんだろうが、なんとかならんもんなのかね。
あとね、この馬車の中の雰囲気が悪いわけだ。
何故かと言うと、この前の盗賊騒ぎの時の俺の扱いについて、母さんが父さんを許してくれないんだよね。
俺はというと、なんとか自分の心の折り合いはつけた。
まあ前世でも酷い目にあっていたしね。
この世界で人より恵まれているのに落ち込んでもいられない。
ただで奪われるのは御免だってことにした。
と言うわけで、ロッティーと俺は二人でババ抜きをして、馬車の中の緊張感をしのいでいたわけだが、いい加減腹が立ってきたので、二人の間に入ろうと思うわけだ。
その前にリーサはどこへ行った?
もう一台の馬車に居るのかな?
大変な時に居ないのが神様って奴らだよね。
「二人とも、いい加減にしなよ。もう済んだことじゃないか。」
お互いそっぽを向いている両親の間に立って、勇気ある一言を言った。
「あんたが何言ってんのよ。」
あ、母さんA級冒険者に戻っている。
「もう止めなって言ってんの。」
俺は負けない。負けてやらない。
「あんたのせいでしょう。」
はあ?俺のせいかよ。確かに俺のせいかも。でも仕方なかったろ!
「そうだよ、あんたたちの息子だよ?」
だからお前らで折り合いつけろよ。俺たちを巻き込むな。
「だから質悪いのよ。こんなふうになっちゃってさ。生意気なのよ。」
今一番質悪いのあんただよ、母さん。
「母さん、言うこと聞かなくて悪かったよ。だから一方的に父さんに当たるのやめてよ。」
「当たってなんかないわよ。話すことがないから話さないだけじゃない、何が悪いの?」
母さんは、クッソ不貞腐れた顔で言い捨てる。
「それが悪いんだよ。」
「なんで私だけ攻めるの?アベル!男同士だから?」
糞ジェンダーみたいなこと言ってんじゃないよ。
「そうじゃない、あの時の判断は父さんが正しかった。母さんだってわかっているだろ。僕を使ったから、誰一人かける事無くみんな無事だった。」
「はいはい、アベルはすごい魔法使いよね。」
「なんだよその言い草。」
「だってそうじゃない、アベル一人でほとんどの盗賊やっつけたんだから。私の魔法は、高速移動時に効果が得られるような魔法なんてないですから。」
「たまたま僕がそれに適応できる魔法を持っていたからだろ。」
「そうですね、適応できる魔法を自分で作れるんですもんね。」
腹立つわ~。
「母様!アベルになんてことを言うの!」
あれ?ロッティーいつの間に。
「ロッティー、あなたまでアベルたちの仲間なの?」
あ、追い詰め過ぎたのかな?
「違う!あの時母様と私は役立たずだった!それが悔しいのでしょう?アベルを危険な目に合わせているのに、私たちは役立たずだった。私も悔しかった。悔しかったのよ!!」
そう言って泣きながら、母さんの胸にロッティーは飛び込んだ。
「そうよ、私は悔しかった。何度もアベルが危ない目に遭っているのに、一度は死なせているのに。私は何一つ守ってあげることが出来なかった。私は母親失格なのよ。」
母さんは流す涙を拭きもせず、言葉を紡ぐ。
ふと、父さんが立ち上がり、母さんに近づく。
「アリアンナそれは違う。うちの子供たちはいつも君に守られていたじゃないか。こんなに伸び伸び子供たちが生活できたのは君のおかげだよ。子供たちは他の家の子と違って、何でも一人で出来た。でもそれぞれ間違ったこともあっただろ。みんな君がそれを良い方へ導いてきたんじゃないか。母親失格なんて言わないでくれ。俺の大事な妻は、世界一の母親なんだから。」
ああ、父さんもこんな困った顔をするんだって思ったら、胸が苦しくなってきた。
「母さん、失格なんて言わないでよ。僕はこの家族が大好きなんだよ。母さんが大好きなんだよ。父さんも姉さんも爺ちゃんもマリアさんたちも大好きなんだよ。母さんから生まれてきたこと、母さんから抱かれてきたこと、全部僕自身なんだよ。母さんは失格なんかじゃないよ。やめてよ。そんなん言うの、やめてよ。」
そう言って俺は泣き崩れた。
こういう高ぶりがあるときは、身体の年齢に引っ張られる気がする。
泣き崩れている俺の頬を、母さんがなでる。
「ごめんね、アベル。今回はあなたの強さに甘えたのね。たった5歳のあなたに。あなたが生まれてきた日のことを、私は忘れないわ。ロッティーを産んだ日のことも忘れていない。ローランドが手を握ってくれていたもの。私の家族はこんなにいい家族なのに、なんで私はあんな風に考えたのかしら。」
俺は立ち上がり母さんにしがみつく。
「かあさん・・・」
俺はそれ以上何も言えなかった。
その俺の頭を母さんはまた優しくなでるのだった。
「ご領主様、よろしいでしょうか。そろそろゲートでございます。」
御者のおっちゃん、微妙なタイミングだな。
「うん、わかった。」
そう言って、父さんが返事をすると、全員が微妙な雰囲気になるのだった。
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