表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/361

69.アベルくんと盗賊軍団。

69.アベルくんと盗賊軍団。




 馬車が凄い速さで疾走する。



 護衛の騎士たちの顔も強張っている。

 後ろから盗賊団が追いかけてきているのだ。


 その数20余り。


 騎乗した盗賊なんてよほど潤っているんだろうなぁ。

 乗馬慣れている感じはする。


 よほど今まで上手いこと盗賊業をやって来たんだろう。



 これまでの状況としてはこうだ。


 セイナリアまであと3日に差し掛かったころ、林に囲まれた街道で、猛スピードで追いかけてくる騎馬軍団がこちらの馬車隊をめがけて走ってきた。


 衣装が揃っている感じではない、むしろ汚い、よれよれだ。


 見るからに盗賊団。


 連中は剣を振り上げながら、停まれと大声で叫んでる。


 お前らの呼びかけで止まるほどやわな馬車隊ではない。

 約200m先に三叉路が見えた。


 チャールズは右と指示する。

 ところが右の道をふさぐように盗賊どもが現れた。


 チャールズは即、左に馬車隊を転進させたが、道をふさいでいた盗賊はすぐにチャールズ達の先発の馬車隊を追いかける。


 後発の馬車隊は道の空いた左に行くしかなく、見事に分断された。

 俺らは後発の馬車に乗っていた。


 追手は約20。

 決して少なくはない。


 「母さん、人を殺すことになるかもしれないけど、この状況だと僕がやった方がいいよね。」


 「何もあなたがやる必要はないわよ。私がやるわ。」


 「いや、僕の方が圧倒的に効率よく輩を仕留められるよ。」


 効率で人殺しはしたくはないけど、状況が状況だし、先発隊も心配だ。


 「効率で小さいあなたに人殺しはさせたくないのよ。」

 母さんは心配そうに俺を見つめる。


 「アベル、あなた一人で無茶しちゃダメなのよ。前みたいになったらまた私…」

 そう言ってロッティーは不安そうにしてる。


 父さんは御者台のに上って様子を見いってる。

 いくら剣豪と言っても、一人で相手が出来る人数ではない。


 だから俺がある程度減らさなきゃ。


 「後ろの窓を開けて、そこからファイアーボールの連射をするよ。けん制だけでも御の字だから。」

 当たらなくても、連中の足止めが出来るだけでもいい。


 「母さん、やるよ。出来るのは僕しか居ないから。」


 「分かったわ。無理はダメよ。矢が飛んできたらすぐ戻りなさい。」

 母さんの表情は固い。


 「了解、じゃ、バラまいてくるよ。」

 俺は母さんとロッティーにサムズアップして、最後列のバックウィンドウを開ける。


 この前撃った時と同じだ。

 魔力の距離を延ばすだけでいい。

 

 俺は右手を窓から突き出す。

 中指の魔力を輩の先頭に照準、他の指は中指を中心にばらけるように。


 「行け!」


 俺の手から腕が赤くファイアーボールの光に照らされる。


 そしてファイアーボールが次々連射されてゆく。


 先頭の盗賊は初弾を交わした。

 しかし次弾がすぐに来るとは思っていなかったのだろう。


 2発3発と当たり、小さな爆発を受けて落馬した。


 次は狙いを馬の胸に。


 馬には罪はないけど、仕方ない。


 先頭の馬を中心にして縦と横に満遍なくばらまいた。


 馬は嘶きとともに、前足を上げその場に停まる。


 騎乗していた盗賊たちは次々振り落されて行く。

 これでほぼ全員の盗賊たちの足が止まる。


 馬車の横を並走していたユーリが「アベル様やった!!」と叫んだ。


 俺はバックウィンドウを占めて馬車の先頭やってきた。


 心配していたんだろう、母さんとロッティーが俺を抱きしめる。

 「母さん、姉さん、苦しいよ。でもやれたよ。良かった。」

 と抱きつかれていたら、御者台から飛び込むように馬車の中へ父さんが入ってくる。


 この人は本当にこういう行動が様になる。

 いちいちカッコいいんだよな。


 「アベル、よくやったな。」

 そう言って俺の頭をクシャクシャにする。


 「でも一人で危ない橋を渡るな。皆いるんだから。」

 俺に注意をする父さん。


 「そうだね。でも今回はこの方が効率が良いなって思ったんだよ。先発隊を救う以外、もう危険なことはしないさ。」


 「そうだな、先発隊が心配だ。アリアンナ、さっきの三差路から左はどこにつながっている?」


 「向こうは小さな村につながっているわ。この道でも林を抜けたら左に向かう道があるから、その道を使えばその村へ向かえるわね。」

 セイナリアが近いだけに、母さんはここら辺の地理に詳しい。


 「よし、また僕は御者台に上がって先発隊を見つけるよ。」

 そう言った父さんはまたドアから飛び出していった。


 ここからは時間の勝負だ。

 先発隊の騎士はチャールズ含め5人。


 あとはヨハンとメイド達。


 チャールズ達とヨハンだけならぶっちゃけ心配はしない。


 おそらく盗賊20人程度なら退けるくらいの連中だ。


 ただ、メイド達を守りながらというと話は違う。


 ベストは俺らが後ろについての挟撃だ。

 御者台の上から、またファイアーボールを連射することになるだろう。


 ローズ、待ってろ。


 4頭立ての馬車は可能な限り早く進んで行く。

 どうしても生き物が引っ張っている関係上、無理は出来ない。


 歯がゆい。


 そんな時間が過ぎてゆく。


 「見えたぞ!!」

 父さんが声を張り上げる。


 見えた2頭立ての馬車は盗賊たちにへ並走されそうになるが、チャールズ達がそれを阻む。


 時々馬車の窓の隙間から、キラリと何か光ると同時に、盗賊が落馬する。


 暗器を使った奇襲が得意なヨハンだろう。

 ん?いや違う。影がちっこい。


 ローズだ。


 なんであんなことが出来んの?

 と思ったが、そういえば人づてに聞いたのだが、俺が死んでからヨハンに弟子入りのようなことをしたそうだ。


 俺は見ていないし、聴いてもいない。

 話さないから聞く必要もないと思っていた。


 ホント、あいつは馬鹿だな。

 

 馬車の扉から、父さんが顔をのぞかせる。

 「アベル、来られるか。」


 出番らしい。

 「うん、行くよ。」


 と、立とうとしたら腕を掴まれ、引っ張られた。

 「駄目よ!ローランド!アベルに何させるの!」


 母さんが鬼の形相だ。

 「ここからまたアベルの魔法が必要だ。アリアンナもわかるだろう?」


 父さんが母さんを説得する。

 「母さん、行かなきゃ。ローズたちが危ないんだ。」


 「もう危ない事させたくないのよ。もう、あんな思いはしたくないの。」

 母さんは泣きながら俺を抱きしめる。


 大好きなぬいぐるみを取られまいとする子供のように。


 母さんは、俺の死のトラウマをまだ引きずっていたのか。

 俺は母さんを抱きしめ返し


 「母さん、わかって。僕が行かなくちゃ。ゴメンね。いつも心配かけて。」


 俺は母さんの涙を小さい指で拭いてあげる。


 そうすると、母さんの腕の力が弱まった。

 「じゃあ、行ってくるよ。」


 俺はさっきと同じようにサムズアップをする。


 そして馬車のドアから顔を出し

 「父さん!」


 言うが早いか、首根っこを掴まれ御者台に引っ張り上げられた。

 「アリアンナは大丈夫か。」


 端的に父さんは聞いてきた。

 「あとは父さん頼んだよ。僕じゃダメだから。父さんじゃなきゃね。」


 「生言ってんな。分かっているよ。無理させたな。よし、近づいてきたぞ。馬車で連中を分断する。左の方をアベル頼んだ。右は僕たちで殺る。」


 「了解。」


 「行くぞ!チャールズ!!右だ!右に寄れ!!ユーリは付いて来い!!」


 そう父さんが言う。御者のおっちゃんは必死の形相で盗賊の間に割り込んでゆく。


 俺は御者台に上がり左の盗賊達を上からファイアーボールを満遍なくばらまく。


 髪が焦げる者、目に当たり目を押さえる者、鎧の中に入り煙を出しながら地面を転げる者。


 10人余りの盗賊達は、馬から落ちて地面をはいつくばっているが、俺は馬も含めて容赦なくファイアーボールを浴びせ続けた。


 「アベル!アベルっ!!!」

 ㇵッ!っとしてそちらを見る。


 剣をしまって御者台に上がってきた父さんを見て足の力が抜け、御者台から落ちそうになった。


 肉が焼ける臭いが充満する中、父さんに抱きかかえられた。


 「アベル、すまない。無理させちゃったな。小さいお前にさせることじゃなかった。」


 「いいんだよ。目の前真っ赤になって、途中から訳が分からなくなっちゃった。父さんの方は片付いたの?」


 「ああ、僕と騎士団が居ればあっという間だよ。」


 「ハハ、カッコいいよ、父さん。」

 そう言って父さんの腕から立たせてもらう。


 そして自分の担当した場所を見た。


 完全なオーバーキルだった。


 みんな死んではいない。

 重度の熱傷を負っているだけだ。


 しかし、それが問題だし、自分がやらかしたと思うと気分が暗くなった。


 魔法で手の先に水を生成する。

 火傷を負い、うなっている盗賊たちにかける。


 今の俺にはこれくらいしかできない。

 全くの偽善だ。


 馬はほとんどが逃げていた。

 逃げ遅れた馬は中心付近に居て死にかけている。


 「父さん、この人たちどうするの?」

 「この先の村で預かってもらって、セイナリアの騎士が受け取りに来るようになると思う。」


 「僕がやった方の人達は、このままだと危ないと思う。」


 「でも連れて行くわけには行けない。これはあいつらの責任だ。アベルが負うものじゃない。絶対に気にするな。」


 先発隊の馬車からローズたちが出てきたが、顔を見せる気にはならなかった。




 そして俺は父さんの言葉をかみしめて、馬車の中にもぐりこんだ。




ここまで読んでいただき、有難うございます。

☆の評価ポイントとブックマークで得られる作者の栄養があります。

よろしければ、下にある☆とブックマークをポチっとしていってください。

どうかよろしくお願いします。


この作品を気に入ってくださると幸いです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ