68.アベルくんと宿場町にて。
68.アベルくんと宿場町にて。
ヴァレンティアを出発して1週間と半分くらい経った。
今回は大きな宿場町に着いた。
これまで、小さな村で家を借りたり、やはり宿場町で宿をとったり、どうにも間に合わなくて、野宿もあった。
でもね、水とお湯が出る魔道具があるおかげで不便はあまり感じない。
お風呂に入れないけれど、お湯で身体は拭けるしね。
明かりも魔道具が活躍してくれる。
電池のように魔道具を使うと魔石が必要になる。
だが魔石採掘No.1のヴァレンタイン領の領主さんは、売るほど魔石を持っているので、切らしたことがない。
料理はメイド達が頑張っている。
ビックリしたことに、エレナの料理が美味い。
そしてミーがそれに追従する。
猫獣人は何もできないってことないじゃないか。
俺はどこで刷り込まれたのだろう?
宿場町が大きいと、妙に豪華な貴族用の宿泊施設もある。
まあ、こういうのが好みの家もあるのだろう。
父さんたちは旅慣れているので、野宿だろうが気にしない。
でもこういう宿になると貴族然とした佇まいになるから不思議だ。
宿場町はただ途中で泊まるだけの町なのだが、お土産屋さんとか子供向けの屋台なんかが立ち並んでいたりする。
ロッティーも俺もあまりこういうものに興味を示さないので、逆に親の方が不思議がっている。
それより、魔力を飛ばして、手元から離れた遠くで事象を昇華できるようになりたいんだ。
母さんはそれで雷を落としたりする。
俺の魔素食いの力任せの魔法とは違い、効果的に実績を作る。
流石だよ。
そんな話をロッティーとしていたが、さすがに飽きてくる。
うちのご両親は子供たちが傍に居るのに、いい雰囲気だ。
まあ、この二人はいつもの事なので仕方ない。
で、俺は自分のバッグをゴソゴソあさる。
「アベル、何をやっているの?」
「ちょっと待って、今出すから。」
手元に固い手触りを見つけて取り出す。
「あったよ。これ。」
「これはなぁに?」
ロッティーは可愛く小首をかしげる。
あなたはホント可愛くていらっしゃって。
「カードだよ。」
「カード!?」
おや、うちのご両親が釣れた。
「そうカード。」
「賭場で使っているカードかい?」
父さんが聞いてきた。
「もとはそうなんだけど、僕なりにちょっと変えたものを持ってきたんだ。」
「アベル、どんなの?」
母さんも興味があるらしい。
「賭場のカードって木で出来ているじゃない、僕の考えたカードは模様が違うから、削ってもらってまっさらにしたものをマリアさんとローズに買ってきてもらったんだよ、そして僕が模様と絵を描いたのがこれ。」
まあ、トランプだ。
「変わったカードの模様だね。」
父さんが何枚か手に取って見比べている。
模様はトランプだから、ハート、ダイヤ、クラブ、スペードで、A、2~10、J,Q,Kとジョーカー。
「どうやって遊ぶの?」
ロッティーも興味が出たらしい。
「簡単な遊びを考えてきたからやってみよう。各模様13枚ある、1~10と王子が11、王妃が12、王様13だよ。ここまではいいよね。」
「ああ、いいよ。」
父さんが真っ先に返事をする。
かなり食い気味だ。
「4つの模様が各13枚だから52枚のカードがある。この中に、この道化師のカードを入れる。」
「道化師って、あの笑わせるのが仕事の人よね。」
「母さん、正解、そしてこれをよく混ぜる。で、みんなに1枚ずつ配るよ。周りの人には見えないようにしてね。」
俺はカードを配り始める。
「みんなカードを持って。見えないように自分のカードを見て。2枚同じ数字のカードがあったら、それらを真ん中に捨てる。」
みんな真剣に場にカードを捨てる。
「そうしたら座っている右回りにカードを1枚ずつ取って行く、僕から姉さんのカードを1枚引くよ、あ、その前にみんな黙っていてね。しゃべらないで。」
うずうずしている家族を一旦止める。
このカードね、なんて言われるとまた説明し直しだもんな。
「この中で道化師のカードを持っている人が居ます。さっき言ったように右回りに相手のカードを引いていきます。そして同じ数字のカードが2枚一組になったら場に捨てます。そして、最後に道化師のカードを持っていた人が負けです。道化師が来たからって騒いじゃダメだよ。持っているってばれちゃうからね。じゃ、姉さんのカードを引くよ。」
と、ババ抜きが始まったわけだが。
「はい、ここまで。最後に1枚持っている、母さんの負け。」
「なんでよ~、アベル、なんでしれっと私に渡すの。」
「母さん、そういうゲームなんだよ。」
「アリアンナ、大丈夫だよ、次は勝てるさ。」
父さんが母さんをなだめる。
あ、次もやるんだね。
「アベル、これ面白いわ。私ドキドキしちゃって、父様に道化師を渡したときは叫びたくなったわ。」
ロッティーが珍しく興奮してる。
「喜んでいただき恐縮至極。」
「次は負けないわよ。アベル早く配って!」
「ちょっと待って、僕らの席もシャッフルしよう。」
俺が今度引くのは、母さんのカードだ。
「アベル、あなたが道化師を引く運命にあるのよ。」
母さん、入れ込み過ぎだよ。
そんなんじゃ、俺は絶対ババ引かないからね。
そして。
「敗者は母さん。」
「なんでよ~、アベルあんた私の道化師引きなさいよ。」
母さん、口が冒険者になって来てるよ。
「だって母さんバレバレなんだもん。口と目と手元を見ればどれが道化師かわかっちゃう。」
「悔しいぃ~、もう一度よ、アベル早く配って。」
「他の二人もやる?」
「もちろん!」
「はいはい。」
こうして夜は更けていった。
次の朝。
「うーん、寝不足だ。」
結局夜中のお昼は回ったんじゃないかな?
「おはよう。」
寝起きでもバッチリ決めてる母さんが、今朝は、頭はボサボサ、寝間着ははだけて、あられもない姿で洗面台に来た。
「母さんおはよう。」
「アベル、今日もやるわよ。」
「ああ、うん、いいよ。」
「今日はエレナ達も入れましょう。」
エレナは人の心を巧みに読むから、絶対強いと思うけどね。
「そうだね。みんなで楽しくやろうね。」
「楽しく?アベル、勝負の世界に楽しくはないの!」
「あ、はい。」
ここまで読んでいただき、有難うございます。
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