67.アベルくんと街道と新魔法。
67.アベルくんと街道と新魔法。
ヴァレンティアを出てセイナリアに続く街道を2台の馬車が走っている。
護衛では10騎の騎士のみんなが固めてくれてる。
頼もしいね。
馬車は大型の4頭立ての馬車が1台。それより少し小型の2頭立ての馬車が1台。
これでみんな乗れるのかな?って思ったけど、割と隙間も出来る程度には乗れた。
馬車は独立懸架ではないけれど、板バネのサスペンションが装着されているので、極端な揺れや突き上げはない。
でもなれないとやっぱきついよね。
三半規管が敏感なやつとか。
思っているそばから後ろの馬車が止まり、小さい影が飛び出した。
ローズだ。
草むらに潜った。
お花摘みではないな。
吐いているんだろう。
狼の機能が備わっているから、つらいんじゃないかな。
自動車に乗せられた犬のように、窓から顔を出していれば楽になるかもしれない。
わけない。
出てくる前に、偽薬でも飲ませればよかったかな?
プラセボは偉大だ。
あ、戻ってきた。
まだ元気そうだな。
あとで普通の水を酔い止めポーションと偽って飲ませてあげよう。
あいつ単純だから大丈夫だろう。
しかし、こういうトラブルでもないと暇なのだ。
本の虫の姉は、ひたすら本を読んでいる。
果たして何冊持ってきたのだろう?
馬車だって最大積載量はあるはずだ。
荷物の半分は本でしたなんてことはないよな。
出かける前に司書のハンスが死んでしまうぞ。
「母さん、暇だね。」
あまりに暇なので、さらに暇そうにしている人に声をかけてみた。
「アベル、今ここで音を上げていたら、もっと大変になるわよ。」
いうて、母さんも冒険者をやっていただけに、旅慣れているんだろう。
俺に説教じみたことを言ってきた。
「そういえば、聞こう聞こうと思ってバタバタして忘れていたわ。アベル、あなたが言っていたガストーチ魔法ってどういう魔法?またどうせあなたしかできない変な魔法なんでしょうけど。」
何たる言い草。自分の息子の魔法を何だと持っているのか。
でもまあ、、暇だからいいや。
「母さん。見る?」
「見るわよ。」
母さん、ワクワクしすぎだよ。
「なんだい、アベルの魔法かい。僕は初めて見るね。」
父さんも僕らのほうに来た。
「あれ?まだ見せたことなかったっけ?」
俺が聞いてみると
「ああ、溶けた鉄板の的は見たけどね。」
あれを見たのか。
父さんはどんな感想だったんだろう。
「あそこまで溶けるって、どれだけ熱くファイアーボールを作れるんだい?」
「とっても?」
言いようがないのよね。2000度近くとか。
「ハハハ、とってもか、そりゃいい。」
父さんには受けたようだ。
「ローランド、その話はあとでいいでしょ。アベル早く見せて。」
母さんの食いつきの良さったら。
やっぱり勉強熱心なんだろうな。
「私も見るわ。」
本を投げ出しロッティーも食いついてきた。
「それでは皆様お待たせいたしました。なんて大した魔法じゃないんよ、本当に。」
「早くしなさい!」
「はいはい」
俺は右手の人差し指を顔の前に差し出した。
「ボッ」っと音を立て炎が灯る。
「馬車の中だと危ないな。いったん止めてもらえる?それとも休憩の時に見る?」
俺が提案する。
「止めましょう。」
母さんの判断は早すぎる。
「チャールズ!!」
父さんが叫ぶ。
「はっ!」
一騎の騎士が近づいてきた。
騎士団長のチャールズだ。
騎乗したまま馬車の窓に近づく。
「御領主!どうかなさいましたか!」
騎乗中なので、どうしても声がデカくなる。
「これからアベルが新魔法を見せるから、みんなを止めてくれ。」
「アベル様の新魔法ですか!そりゃ楽しみですな!了解しました。ぜんたーい、止まれ!!」
チャールズは馬車が震えるんじゃないかと思うような大きな声で馬車2台騎士10騎を止めた。
見事なものだ。
ここまでして見せる魔法じゃないんだけどな。
だんだん恥ずかしくなってきたぞ。
「これから、アベル様が新魔法をご披露してくださるそうだ。みんな注目するように!」
チャールズが余計なことを言っている。
やめてくれ、勘弁してくれよ。
「あ、そうか、ガストーチ魔法ってカインの手を焼いた魔法だったね。」
父さんが余計なことを思い出す。
「ああ、そうね、それよね、あのにっくきカインを焼いた魔法ね。」
母さんが一人で盛り上がる。
多分馬車の中で暇をしていたんだろう、メイド達も集まってくる。
その中の一人、エレナがニマニマ笑ってる。
エレナは何故か俺の心を読むのがうまい、憔悴しているのを気付いているんだよな。
騎士団副官のユーリがエレナの隣を確保してる、
エレナとは婚約者といってもいい中だ。
ちゃっかりさんめ。
片やローズとリサは魔法なんてめったに見ないから目の輝きが違う。
その隣でミーも興味津々だ。
ヨハンは相変わらず全体を見渡せる場所で、いい姿勢で立ちながら見張っている。
プロ意識高すぎだよ。
「アベル!みんな待っているわよ。」
一番待っているのはあなたでしょ、お母さま!
「あれ?みんな何してんの?」
リーサが馬車から出てきた。
「リーサちゃん、黙って、これからアベルが新魔法見せるのよ。」
「あ、そう、アベルがんばれー(棒)」
クソッ!!こうなりゃヤケクソだ。
「やるよ、俺の目の前の人はみんなどいて。脇の人も離れてね。すごく熱くなるから。」
こうなりゃ、魔力と酸素全開だ。
さっきと同じように人差し指を顔の前に差し出す。
「ボンッ!!」魔力全開のデカい炎が立ち上がる。
そこにめいっぱい酸素を注入。
「ボボボボォー」
太い炎のトーチが出来上がる。
もっと酸素を。
赤から青へ、だんだん白へ。
炎は変色していく。
俺はその炎が付いたままの指を前に向けるて魔力を前方に伸ばす。
太い炎がそのまま前に伸びて行く。
20mくらい伸ばしたかな、そこでいったん止める。
そして手を振り上げる。
青白い炎が剣のように振りあがる。
上がった腕と炎をそのまま振り下ろす。
「ボボー」
と音と共に振り下ろされる炎。
ここで俺は魔力を切った。
指先から炎がスッと消える。
そして周りを見る。
「キャー、アベル様、凄い!!」
一番初めに反応したのはローズだった。
その他の人達は、ポカーンとしている。
しかしやはりこの人が反応する。
「アベル、あの炎の色、魔改造最強ファイアーボールXと同じ色よね。」
「そうだよ、母さん」
「それなら、今ので鉄を溶かすことが出来るの?」
「そうだね。出来ると思うよ。」
「えーーーーー?!」
周りのみんなが驚きの声を上げる。
地味な魔法科と思っていたら、思いのほか派手で自分でも驚いた。
そりゃ周りの人達も驚くだろう。
炎魔法と言えば、ファイアーボールが基本で、当たって爆発とかが普通だった。
それを見たこともない色に炎を変質させ、剣のように操った。
しかも魔法の第一人者が、鉄をも溶かすと太鼓判を押した。
しかし燃費わりぃな、魔素タンク5分の1くらい減った感じがする。
普通の魔改造最強ファイアーボールXなら50発程度打てるんだが。
「アベル、凄い!凄いじゃないか。うちの息子はとんでもないな。」
父さんが大絶賛している。
「ありがとう父さん、喜んでもらえて嬉しいよ。」
「アリアンナから、魔法の才能は聞いていたんだ、でもまさかここまでとは思わなかったよ。あの炎であの溶けた鉄板のように本当にできるのかい」
流石の父さんも興奮気味だ。
「うん、出来ると思うよ。試さないと何とも言えないけどね。」
父さんの相手をしていたら、ドスンと抱き着かれた。
「どうしたの?姉さん。」
「私の弟は凄いわ。とても私は追いつけない。」
「そんなことないよ。姉さんの魔力操作は一級品だ。」
「でも私はアベルのように新魔法を作れないわ。」
「まだわからないじゃないか。姉さんも僕と同じで研究好きだ、これからどんな魔法でも作れるさ。」
「アベルがそう言うなら。」
そこにリーサが近づいてきた。
「アベル、それ何度も使えないでしょ。」
流石リーサは何でもお見通しだ。
「流石だな。そのとおりだよ。」
そこへ父さんの大声が聞こえた。
「どうだい!みんな!アベルの新魔法はすごかったね!ここで少し休憩にしよう!」
テンションたけーな。
あんな父さん初めて見た。
「アベル様、凄かったですね。」
「あ、ヨハン。ありがとう。」
「私もご領主と同じでアベルさもの魔法の威力は聞いていたのですが、まさかここまでとは。熱風が私のところまで届きました。精霊魔法ではあそこまでの高温は出せません。」
「精霊魔法に興味があるんだ。今度見せてくれるかい?」
マリアさんも使えるらしいけど、ここはヨハンに聞いてみよう。
「よろしいですよ。首都に着いたら空き時間にでも。」
よし、良い物が見れそうだ。
「有り難う、楽しみにしているよ、よろしくね。」
「はい、それでは。」
そう言ってヨハンは離れて行った。
と思ったら、一番の難物が近づいてくる。
「アベル、そろそろあの高温の炎の正体を明かしなさい。」
酸素の説明かぁ。
「母さん、前も言ったとおり概念みたいなもので、人には説明しようがないんだ、別に隠しているわけじゃない、ただ説明できないんだよ。許して。」
「うーん、概念か。アベル言語化できないの?イメージできなければ昇華できないもの。」
「それが出来たら母さんには真っ先に言っているよ、今言えるのは炎を燃やすのに必要で、生きていくのにも必要、目に見えず、匂いもせず、空気の中にあるけど吸い込んでも魔素のようには感じられない、、僕が言えるのはここまでだね。」
「アベルはそれをイメージ出来たって事ね。」
「そういう事になるね。」
「ますます分からないわ。」
このままわからないでいいよ、危険だもの。
「母さん、ゴメンね。」
「あなたを攻めているわけじゃないのよ。自分が分からないものがあるというのが悔しいだけでね、あなたを追い詰めたならゴメンね。」
「うん、いいんだ、もし立場が逆なら母さんに詰め寄っていたのは僕だもの。」
「けど凄かったわね、ガストーチ魔法。」
「今日の大きさで出せたら、カインをやっつけられたんだけどね。」
「あなた刺されていたんでしょ、それでとっさにあの魔法を使ったのは凄いことよ。」
「今になって思えば、普通のファイアーボールを連射してもよかったかなって思っているんだよ。」
「それもありだけど、革鎧の隙間から炎をまくことまで考えていたんでしょ、ならばガストーチが一番だと思うわ、あなたは凄いのよ。ゴメンね、凄いしか言葉が出ない。」
「母さん、ありがとう。」
そう言って俺は両手を広げて待つ母さんの胸に飛び込んだ。
「そう言えばあなたさっき不穏なことを言ったわね。」
「え?何か言ったっけ?」
「ファイアーボールを連射するとか。」
「ああ、言ったね。それがどうしたの?」
「ふつうあれは単発でしょ、連射なんてできないの。」
「出来るよ、見る?」
「じゃ、見せなさい。」
「はーい。」
俺は誰も居な広場所に手を伸ばす。
手のひらを広げて5本指から魔力を前方に照射。
小指から親指まで小型のファイアーボールを作り出す。
そのファイアーボールが常に照射している魔力によって前方に飛ばされる。
それをひたすら続けた。
「アベル、ちょっとやめて。」
母さんが何故か焦ってる。
「うん。」
俺は放射していた魔力をすべて切り、母さんの方を見た。
「今のどうやったの?」
ああ、レクチャーされたいのね、よっしゃ。
「手を伸ばすでしょ、これはいつもの姿勢だよね、そしたらそれぞれの指から魔力をずっと放射し続けるの。」
この時点で母さんはなぜか呆れた顔をしてる。
「ん?続けるよ。」
母さんはうなずく。
「そしたら大きさは好きなようにしていいから、それぞれの指にファイアーボールを出して魔力に乗せて撃つだけ。」
ね、簡単でしょ?
「あなた、それいつ考えた?」
「ファイアーボールを覚えてすぐかな?照射した魔力を切らせないでいれば連射が出来んじゃね?って。」
「呆れた。普通は魔力を飛ばすのも含めて、魔素消費を抑えるためにファイアーボールを撃ったら切るのよ。」
「そんなもんなの?」
「そんなもんなの。アベル、あなたは魔素タンクだっけ?その状態だから魔素の節約って概念が欠如しているんだわ。」
母さんがここまで言い切ったら、父さんが飛んできた。
「なんだい?今のファイアーボール、またアベルの新魔法かい?」
父さんは興奮冷めやらぬ感じでまくしたてる。
「そうよ、アベルの新魔法、誰も真似できないわよ、これ。」
母さんはさっきから呆れている。
「魔力消費ね、でもガストーチ魔法の10分の1も減ってないんだけど。」
俺がこう言ったら、母さんは「はぁ?」って顔をして
「ガストーチ魔法はどれくらい魔素を使うのよ。」
俺に詰め寄ってくる。
「さっきの威力の魔法で、普通の人の魔素溜りの3倍?」
「なんて魔法なの!使いたいと思ったけど私では無理だわ。」
「アリアンナ、そんなにアベルは凄いのかい?何が凄いか説明してよ。」
「簡単に言うわよ。この子の魔素溜りは通常の人の何十倍とあるのよ。」
「えっ!?そんなことって…」
「あるのよ、現にそこに突っ立っているわ、それとアベルが言うにはその体質の人は、あと一人いたんですって。」
「そんな人がまだいるのか。」
「いたのよ1500年前に。」
「まさか。」
「そのまさかよ、英雄王ノヴァリス様だって、トレーサ神から聞いたらしいわ。」
ここで俺が口をはさむ。
「父さん、同じ体質の人が領地内で実は、もう一人いるんだよ。」
「その人は現在いるのかい?」
「そう、アンネローゼなんだ、あの子がこの体質じゃなかったら、今頃僕は土の中だった。」
それを聞いて母さんが口を開く。
「アンネちゃんとアベルはトレーサ神が顕現した時に、この体質にしてもらったらしいのよ。この子はその頃から意識があったから、色々実験していたみたい。私たちじゃ計り知れないわね。」
「いやぁ。それほどでも。」
「褒めてないわよ。」
「アンネは当時3歳という体のサイズだったけど、その身体にいっぱいにした魔素を使って、僕を救うために、魔素が空っぽになるまで回復魔法を使い続けたんだ。人一人を生き返させる回復魔法が、いかに燃費の悪い魔法かわかるよね。トレーサ神はそこまで見越して魔素タンク化を施したんだと思う。たぶんね。」
まあ、あの時リーサはそんなこと考えてなかったけどね。
「私はトレーサ神が凄いってわかっているわよ。」
リーサが来やがった。
「リーサちゃん面識あるの?」
母さん、相手にしなくてもいいよ。
「ちょっとね。いい神様よ。」
自分で言うなよ。
「アベル、うるさいわよ。」
「そっか、いくら敵国が崇めている神様といっても、神様だものね。いい神様なのかも知れないわね。」
母さん、だまされてはいけない。
「そうよ、誰にでも分け隔てなく祝福を授けるのがトレーサ神なのよ。」
はっはっはっは馬鹿馬鹿しい。
「母さん、そろそろお茶にしない?」
「アベル無視しないでよ。」
「そうね、ローランドもお茶にしましょう、アベルの魔法の話はそこで出来るもの。」
「そうだね、では行こうか。」
「私を無視しないでよ!」
「リーサうるさい。置いてくぞ。」
「もう!」
ここまで読んでいただき、有難うございます。
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