65.アベルくんのこれまで。
この回から第三章となります。
引き続き楽しんでいただけたら幸いです。
第三章
65.アベルくんのこれまで。
おかげさまで生き返りまして。
はい。
アンネとトレーサのお陰なんだけどね。
で、いつの間にか5歳になりました。
生き返ってからが大変だったよ。
生き返ってすぐの3歳まで話は戻るよ。
とりあえず、ローズが泣くわ、泣くわ。
うちの両親を放っておいて、俺に抱き着いて泣くもんだから、途中でマーガレットに引っ剥がされて怒られてたね。
俺の第一発見者にさせて、ゴメンなローズ。
血まみれの俺を抱いて、泣きながら城の中へ運んだってね。
本当にごめん。そしてありがとう。
ローズから解放されたら次はロッティー達が待っていまして、ええ。
本当に心配掛けたんだなと反省しきりなわけですよ、まったく。
いや、俺はまったく悪くないと思っているんだけどね。
俺を殺したカインが悪いんだ。
これ絶対因縁でしょ。
俺は某一神教信者ではないけれども、この話くらいは知っているよ。
アベルはカインに殺される運命だったのかと。
まあ、これは置いといて。
両親もエドワード爺ちゃんも俺が復活して、はじめは信じられむなそうだったけど、アンネが聖女ってことを知っていたからね、受け入れてくれたみたい。
爺ちゃんが本当に心配していたみたいでね。
俺とシャワーとトイレに別々に分かれただけで、爺ちゃんは全然悪くなかったのに、責任を感じて自分を攻めまくったみたいでね。
父さんと騎士団とで必死にカインを探したようだ。
当時はカインが犯人とは知らないんだけどさ。
あの厳つくて渋い爺ちゃんが、生きている俺を見て泣いていたよ。
ローランド父さんも必死で犯人捜しをしたらしい。
でも商人も沢山あの日は登城していたし、容疑者を見つけるのは困難だった。
アリアンナ母さんとシャーロット姉さんは、俺の顔を見るまで、魂が抜けたような憔悴しきった顔をしていてさ、ずっとロッティーの部屋で引きこもっていたって。
あんな優雅で美人の二人が、髪なんてボサボサでさ。
その姿見たら、俺まで泣いちゃったよ。
母さんとロッティーそして父さんも爺ちゃんも囲むように抱き着いてきてさ。
この人たちのこの家族に生れて来て、本当に良かったって思ったね。
うん、そこまでは良かった。
そこから始まったのは、ローランド、エドワード、アリアンナ、ヨハンが俺を囲んでの事情聴取ですよ、はい。
俺が殺された現場検証と、犯人像のすり合わせだよね。
1.商人ヴァーゴ の護衛、3本指の戦士カイン。右手の中指と薬指の欠損。
2.犯行現場は修練場のトイレの中、後ろからブロードソードで一突き。
3.仕返しに、ガストーチ魔法で右手を焼いた。火傷の跡があるのではないか?
こんな事を皆に話をした。
あ、大事なことが一つ。
父さんに指を切られたことを恨んでいた。
俺の命はそれより軽いとも言っていた。
今聞くと腹立つな。
野郎、酸素過多で気を失わせた後に水攻めにしてやる。
いや、マジでやるよ。死なない程度に。
この内容を聞いた時の父さんの狼狽の仕方かちょっとね。
聞くところによると、俺が新生児だったころ、大規模な山賊の集団が現れて、幹線道の一つを抑えられ、道行く商人と護衛の冒険者がことごとくやられた事件があったんだ。
それは俺も新生児だったけど覚えてる。
で、父さんと爺ちゃんは、騎士団、それから冒険者の討伐隊を指揮して現場に向かった。
だけど、なかなか相手もやり手だったらしく、山から追い込む冒険者サイドに罠を仕掛けられ、分断させられて、山賊の頭にまんまと逃げられた。
その逃げた頭に父さんが一太刀浴びせたんだけど、切ったのは指だけだったと。
あとで分かったらしいんだけど、その頭はどこかの領の騎士崩れだったらしく、腕はたったからその領で好き勝手やっていたらしい。
しかし、あまりの素行の悪さに、その領主に追放を食らって、山賊まで身を落としたとのこと。
それで、その作戦で罠にかかった冒険者が何人か命を落としたんだよね。
それもあって、冒険者サイドを指揮していた父さんは、すごく荒れたんだ。
あの母さんが困るほどにね。
そこに来ると、爺ちゃんは騎士団サイドの指揮とはいえ、ケロッとした顔で帰ってきたんだよね。
流石、元王室近衛騎士団長ですよ。
「あいつだったか。」
父さんはそう一言言って母さんが止めるのも聞かず、取り調べをしていた執務室を出た。
爺ちゃんは
「放っておけ。」
と、一言。
「あ、父さんは出て行っちゃったけど、紹介したい人がいるんだよ。」
あいつのことを忘れていた。
「あなた、元気になったばかりじゃないの。それなのに紹介したい人って?」
そりゃ不思議だよね。
「ああ、希少種のフェアリーでリーサっていうんだけどさ、アンネの回復魔法の指導をしてくれたんだ。彼女とアンネが僕の命を救ったといってもいい。」
トレーサをリーサって呼ぶのは慣れないな。
「ヨハン、たぶんアンネと一緒にいると思うから、探してきてくれない?」
まあ、頼めるのがこの部屋の中にはヨハンしかいないからな。
「承知いたしました。」
「よろしくね。」
「そのリーサさんはどこから来たの?」
母さんが全うの質問をする。
「それは俺もわかんない。気が付いた時には、アンネを指導して回復してくれたんだ。」
気が付いた時には、アルケイオン様と喧嘩していたなんて言えない。
「そう、十分お礼をしないとね。アンネちゃんとマリアさんにもね。」
母さんは俺の頭をなでながら言った。
俺が死んでから、スキンシップ多めだ。
嫌ではないんだけど、心配かけたんだろうなとは思う。
母さんの後ろから
「わしもフェアリーは見たことがないの。どんなお人だ?アベル。」
と、爺ちゃんが聞いてきた。
「自由気ままな人だよ。あまり振り回されない方がいい。うん、甘やかさない方がいいよ。」
調子に乗せないほうがいい。
「アベル、命の恩人にそんなこと言っていいの?」
母さんが心配する。
トレーサなんて馬鹿だからほっときゃいいよ、とまで言ってないので、俺は優しいものだと思っているが、周りはそうではないからね。
「気のいい妖精さんだから大丈夫だよ。」
と出鱈目を言う。
そこで、一つ懸念が。
アンネにまだトレーサをリーサという名のフェアリーだってことにするんだよと教えていない。
リーサを見て、アンネの口からトレーサ様とか言われるといろいろ困るんだよな。
かん口令とか戒厳令とか敷かれそうだし。
そうするとトレーサはなおのこと自由がないとか言い出して、どこかへプイっといなくなっちゃいそうだしね。
「本当に自由気ままだからね。俺を助けたのだって気まぐれみたいだったし。」
この件については、本当に助けようと思ったらしいが。
出まかせ言わないと、切り抜けられないからな。
「それでも大事な息子の命の恩人ですもの。礼は尽くさないといけないわ。」
また母さんは俺を抱きしめる。
俺はなすがままにいる。
今はこれが一度壊れかけた母さんの心には一番の薬なんだろう。
そんなことを思っていたら、執務室のドアが開いた。
「お連れいたしました。」
ヨハンが連れて帰って来たらしい。
「ハァーイ、皆さんこんにちは。可愛い、フェアリー、リーサちゃんよ。」
俺の顔を横切って、ちっこい妖精が飛んで来た。
こいつ!
「母さん、爺ちゃん。こちらが僕の命を救う手伝いをしてくれたリーサさん。こちらが爺ちゃんのエドワード、こちらが母さんのアリアンナ辺境伯夫人です。父さんのローランド辺境伯はちょっと今出ているから、ご勘弁を。」
「アベル、紹介ありがとう。私は東の森からやって来たフェアリー族のリーサよ。皆さん、よろしくね。」
尊大な挨拶しやがって。
でも神が尊大になってもいいのか。
いや、トレーサだぞ、アルケイオン様ならいざ知らず。
しかし、東の森ってつけたのはナイスじゃないか。
トレーサにしては気が利いてる。
「アベル、聞こえているわよ。」
いちいち心を読むなっての。
「まあ、ようこそおいで下さいました。リーサさん。アベルの母のアリアンナでございます。この度ことは、感謝の言葉も見当たりません。しかし、本当に、本当に、アベルを救っていただき、ありがとうございました。何時までもこちらの城に居て頂いて結構ですので、どうぞごゆっくりして行ってください。フェアリー族は小さくて可愛いと聞いておりましたが、本当ですね。愛らしいお姿で感服いたします。」
感服なんてする必要ないよって思っていると
「リーサ殿、初めまして。アベルの祖父のエドワードと申します。孫が大変お世話になり申した。あの時わしが付いておきながら孫を失ったと後悔していたところ、あなたが救ってくださった。本当に感謝の言葉もない。ありがとう。本当にありがとう。」
そう言ってリーサに最敬礼をする爺ちゃん。
俺は彼らを見て大げさだなって感じてしまうけど、息子や孫を一度無くしたと思えばここまで感服してしまうのも仕方ないなと思う。
そういや、俺はお礼言ったかな?
ああ、言った、言った。Ok、Ok
「でも、実行したのはアンネだからね。彼女もいたわってあげて。体内の魔素が空っぽになって寝ちゃうまで頑張ってくれたんだから。
「わかっているわ。もうマリアさんとアンネちゃんには頭が上がらないわね。」
母さんがこう言うと
「うむ、アベルどうせならアンネローゼを娶らぬか?」
話飛んだな、おい。
「爺ちゃん、アンネは騎士爵の娘だけど、さすがに身分の差があるんじゃない?」
「聖女とならば大丈夫であろう?」
「それは最重要機密でしょ。ダメダメ。もう。」
「そうですよ、義父様。アベルはまだ3歳ですもの。」
「むう、そうか。いい案だと思うのだが。」
「聖女で思い出したけど、僕を蘇らせたことで、アンネは聖女の力に目覚めたといっていい。それで、俺を蘇らせたって話も出来るだけ秘密にした方が良いと思うんだ。それがアンネとマリアさんを守ることになると思うんだよね。」
「そうね。今のところは城の人間しか知らないはずだから、使用人達にかん口令を敷きましょう。ヨハン、マーガレットたちと今の手はずをお願い」。
「はい。奥様。」
「じゃ、僕らはいいかな?」
「いいわよ。遠くに行かないでね。」
まだ心配らしい。仕方ないか。
「城からは出ないから大丈夫だよ、母さん。リーサ、アンネのところへ行こう。」
「はーい。お三人ともバイバイ!」
リーサを見送る三人は深々とお辞儀をした。
「リーサさん、他で余計なこと言っていませんよね?」
「言ってないわよ。言ってほしいなら今から飛び回るけど。」
「そんなんだからみんなに馬鹿、馬鹿、言われんだよ。」
「アルケイオンのほかにも誰か言っていたの!?」
「高次元の」
「あのジジィ!!」
「トレーサ」
「あら、リーサじゃないの?」
「うん、俺が死んだら、今度はお前が高次元まで連れってくれよ。」
「なに馬鹿なこと言ってんのよ、私とアンネで何回でも生き返させるわよ。変なこと言わないで!」
「そっか、ありがとな。」
「どうしたの?気持ち悪い。」
「俺、前世で一度死んでんだろ。今回はアンネとトレーサが居てくれたから生き返れたけれど、そう毎度同じことは続かない。お前らが間に合わなくて、俺の魂だけを見つけたら、俺を高次元に運んでくれよ。」
「止めなさいよ、ヒューマンだからって、死ぬ死ぬ言って!アベルこそ馬鹿じゃないの!もう言わないでよ…」
「ああ、急に悪かったな。今回のことは俺もうまく消化できていないんだよ。これをキチンと言葉で言えるのはお前しかいないからな。甘えちまった。ゴメンな。」
「いいわよ、私は心の広い神様だからね。ちっぽけなヒューマンの愚痴くらい聞いてあげるわ。」
「ありがとな、頼りにしてるよ。」
「けど、もう言わないでね。寂しくなるから。」
そう言って、トレーサは泣き出した。
俺は相変わらず、女の扱いが出来てない。
俺は泣いているトレーサに右手を差し出す。
彼女はその掌に乗り、俺はそのまま左肩まで手を運んだ。
するとトレーサは左肩に乗りそのまま定位置のように座った。
「もうトレーサって呼ばないからな。」
「いいわよ、アベルの相棒リーサで行くもの。」
「相棒か。」
「相棒よ。」
「ハハハ、神様を相棒にしてるのは俺くらいなもんだな。」
「そうよ、敬いなさい。」
「相棒を敬うやつもいないよな。つか、転生者の相棒を持つのも珍しいだろ?あいこだな。」
なんてことをリーサと言い合いながら子供部屋に行ったらアンネが字の書き取りをしてました。
あんなことがあっても勉強。
えらい、えらい。
「あ、アベル様。それとトレー」
「あーーー!!!っとアンネそこまで。いいかい、このフェアリーさんはリーサという名前だ。リーサだよ。ほかの名前なんてないんだからね。」
「そうよ、アンネ、あなたの回復魔法の師匠、リーサよ。この名前を忘れては駄目よ。誰かの聖女だけど、それも忘れちゃだめだけど。」
「バカか!お前が混乱してどうする。」
俺は静かな声でアンネを諭す。
「アンネ。ここにトレーサがいると、みんなが困るんだよ。だからこの子はリーサ。わかったね。」
「アベル様、なんでトレーサ様がいると困るの?」
「トレーサ神は、隣の聖王国の神様なんだよ。だからここに居るってわかっちゃうと取りに来ちゃうんだ。多分、無理矢理にトレーサ神を取りに来ようとするから、父さんや爺ちゃんが騎士団や軍隊を使って聖王国の人達を追っ払なければならなくなるんだよ。アンネは喧嘩したいかい?」
「したくありません。」
「だから、この子はこれからリーサなのさ。わかったかい。」
「はい、トレーサ神はここに居ないし、この可愛い私の師匠はリーサちゃんです。」
「さすが聖女。いい子だ。」
てなことがあったりね。
その夜、寝ようとしていたらドアが開くわけですよ。
で、立っていた人はロッティー。
枕を持ってんの。
何しに来たか分かったから、部屋に招き入れて一緒に寝ましたとも、ええ。
仕方ないじゃないか、ポロポロ涙を流しながら、ずっとアベルどこにも行かないでって呟いてるんだもの。
ヘラってなんて軽い言葉じゃ片付けられなかったよ。
一緒のベッドに入って姉さんが落ち着くまでアンネとリーサが頑張ってくれたんだって話をしてた。
そしたら私は役に立たなかったってまた泣くのよ。
ああ、地雷踏んだと思ったね。
自分の枕を持ってきたのに、俺を抱きしめるために、俺に近づいて俺の枕を使うもんだから、枕がビシャビシャになっちゃってさ、困ったけど仕方なかった。
明日、マリアさんに変えてもらおう、てなことを考えて、その日は眠ったよ。
ロッティーの吐息が近くて困ったけどね。
他には、エレナがデカい胸で抱きしめてきたり、かん口令敷いてたのに、どこから聞きつけたか、楼閣主の婆ちゃんが、デカい胸で抱きしめてきたり、事あるごとに母さんがデカい胸で抱きしめてきたりと、3歳児としては災難な出来事ばかりだった。
ハイティーンなら事案になっているところだ。
まったく。
その頃、父さんはというと、公務にも打ち込んでいたけれど、さらに剣術の修練に打ち込んでいた。
鬼気迫るって比喩があるけど、本当に鬼が宿っているようだったよ。
俺と爺ちゃんが剣の修練をしているとき、父さんが近寄ってきて
「アベル、済まなかった。」と最敬礼した。
「何、どうしたの、父さん」
俺がアタフタしていると
「僕がカインを取り逃がしたせいで、お前が死ぬような羽目になってしまった。幸いアベルは生き返ることができた。しかし、カインがいつ襲ってくるやもしれない。その時、アンネローゼが助けてくれるとは限らない。だからその前に僕が命に変えてでもカインを殺す。」
そう言い切った父さんの目は狂気が取り憑いていた。
「駄目だよ父さん。父さんの命はカインなんかよりもずっと重いんだから。それに、あっさりこの領地を僕に渡されても困るよ。」
と、俺は言った。
「しかし、アベル」
と、言いかける父さんに
「ローランド、アベルの言うとおりだ。お前が私怨で動いてはならんぞ。わしら家族だけではない、お前の肩には三十余万の領民が乗っている。それを忘れてはいかん。」
爺ちゃんの言葉をかみしめるように父さんは黙り込む。
「そうだな。アベルが殺められた怒り、討伐時に取り逃がした怒りで、我を忘れていたよ。ふたりの言葉で目が覚めた。二人とも、ありがとう。」
そういった父さんの目は、さっきの狂気が抜け落ち、優しくなっていた。
「そうだよ、また馬車馬のように領主として働いてもらわないと。」
「こら!アベル!!」
父さんは俺を笑いながら追いかけるのでした。
ま、ここまでが俺が死んで直近の出来事だったわけだが。
幸い城の中意外で俺が一度死んだという情報は流れていなかったらしく、それからは何事もなく過ごしてきたんだけどね。
ほんと、リラはどこで俺が死んだと聞いてきたんだろう?
地獄耳め。
カインは不思議だったろうね。
だって城で葬儀をしないんだもの。
教えてやる必要もないから、放っておいたんだけどさ。
色々あった3歳のころと違い、4歳になって本当に何事もない穏やかな日々を過ごせた。
リーサがいろんな悪戯やトラブルを起こしたけれど、些細なことだった。
俺らは仲良かったよ。
学校計画も順調に進み、文官も多く採用してセクションごとに人数もとりあえず整った。
ヨハンとネスが頑張ったんだ。
おかげで父さんの仕事がずいぶん楽になったようだ。
今は学校の校長に母さんを据えるのに説得中。
なぜかすごく嫌がっている。
ピッタリなのにね。
母さんも随分落ち着いた。
でもやっぱりスキンシップは多めのままだ。
俺なんかよりも精神的ダメージが大きかったんだろう。
俺はあの時、魂で高次元のYouちゃんと話をして、帰ってくればトレーサとアルケイオンが喧嘩していて死んで落ち込む暇さえなかったから。
母さんのことは大事にしてあげたい。
ロッティーも落ち着きを取り戻し、いつもの優雅な生きるノヴァリス大百科になっている。
相変わらず記憶力と頭の回転がいい。
何がとは言えないけどさ。
近くで過ごしていると、敵わないなって事ばかりだよ。
一つ年を取り、さらに磨きがかかっている。
ただね、ひとつ気掛かりがある。
どうも首都セイナリアにある、魔法大学校から進学のオファーが来ているらしい。
母さんはまだ自分で魔法を教える気満々なので、そのオファーはけっているが、12歳くらいを超えてロッティー自身が行くっていえば送り出す計画みたい。
しかし、どこかでロッティーの魔法のうまさが漏れたのやら。
母さんが手紙でセイナリアに住むクリス婆ちゃんに自慢したとかなら目も当てられない。
十分ありそうだけどね。
父さん?
父さんは相変わらず領畜として働いているよ。
さっきも言ったけど、だいぶ楽になったとはいえ、まだまだ本稼働とは言えないからね。
専門分野の文官も育っていないし。
その分は御領主様が頑張らないとね。
爺ちゃんと俺は一緒に剣の修練だ。
ただここにきて一つ問題が出てきた。
これが結構と大きな問題でね。
俺が剣を受けられないんだ。
爺ちゃんが剣を俺に向かって振り上げると、自然と俺は頭を手でガードしてしまう。
自分が木剣を持っていることすら忘れた感じで。
何故そうなるかはわかっている。
前世での虐待のトラウマだ。
前世ではネグレクトと暴力の虐待を受けてきた。
中学1年生で125㎝、30㎏しかなかった。
学校でもいじめの対象だった。
俺はどこへも行く場所がなかった。
一人だけ、ゆう君という子が何故か俺に知恵をくれた。
住所と電話番号の書いたメモを渡し、ここに行けば逃げることが出来ると児相を教えてくれた。
児相の職員は俺の身体を見て息をのんだ。
煙草を押し付けた痕、何か刃物で切りつけた痕が背中にびっしりついていた。
でも、施設のほかの子も同じような子ばかりだった。
全部ではないけれど、虐待を受けて入った子が多かった。
友達と呼べる子も出来たが、施設内もカーストがあった。
俺はやっぱり底辺に居た。
施設では高校もいかせてくれた。
施設から通っていたのでやはり腫れ物に触るような扱いを受けた。
でも俺はここで必死に勉強した。
模試で希望大学に入れる点は取れるようになっていた。
しかし、奨学金を借りて大学に入っても、先に払うべき入学金がなかった。
18歳で施設も出なければならなかった。
施設は幾ばくかの生活費とアパートを紹介してくれた。
俺は汚い、臭い。きついといわれる仕事を掛け持ちで働いた。
他人から、臭い、汚いと言われたが、気にしなかった。いや、気にできなかった。
金になればいいのだ。
空き時間は勉強をした。
入学金は余裕でたまった。
奨学金は卒業した高校の担任が色々教えてくれて、なんとか受給できた。
希望の大学に受かった。
ここから4年生までは俺にとって平穏な日々だった。
ただバイトは続けた。
就職し、ちょっといいアパートに住むことが出来た。
しかし、コミュ障は治らず、恋人どころか、友人も出来なかった。
でもこの頃は幸せだった。
あの日までは。
親が俺のアパートに来た。
誰にも教えなかった。
連絡先も知らなかったはずだ。
しかし、あの連中は玄関のドアの前で俺の名前を大声で叫び続けた。
警察を呼んだ。
家族のことだと断られた。
民事不介入だと。
俺は折れた。
言うとおりに金を渡した。
次の月も現れた。
貯金がみるみる無くなった。
起業した先輩がいた。
その人に誘われた。
「住むとこなら俺が用意してやる。」
その言葉に甘えた。
会社を変え、きつかったが順調だった。
趣味が出来た。
Vtuberを見るようになった。
Youちゃんだけが全てだった。
青スパを送った
赤スパは無理だった。
しかし、また連中は現れた。
また金をせびられるようになった。
そのしばらく後だった。
俺は死んだ。
そして
ここに生まれて、そして、ここで初めて愛情を知った。
思い出したくもない過去を思い出しちゃったじゃないか。
糞が。
とりあえず、このトラウマを乗り越えなければ先に進めない。
何とかしなきゃなんて日々が続いていたら、5歳になっていました。
ここまで読んでいただき、有難うございます。
☆の評価ポイントとブックマークで得られる作者の栄養があります。
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どうかよろしくお願いします。
この作品を気に入ってくださると幸いです。