63.田中さんと高次元II
63.田中さんと高次元II
こん。
アタ!
なんか頭殴られたような。
「何してんの?おまえ、また来たの?」
ん?何処だって?
ああ、あの糞カインに刺されて、死んだのか。
やあ!Youちゃん、久しぶり。
「やぁ!じゃねーし。久しぶりじゃねーしな。なんで戻ってきちゃったの?いや、見えてたけどさ。」
ありゃ仕方ないよ。後ろからブスリだもん。
居眠り運転のトラックに轢かれるより死ぬ確率は高いでしょ。
「まあなあ、でもお前がこんな死に方するとは思ってみなかったよ。たった3歳だろ。」
そうだね、たった3歳だったよ。
コミュ障だった俺が、頑張って頑張ってそれを克服してさ。
いろんな人に会って、こりゃ成人したらまたいろいろ美味しいぞ、なんて考えていたのにさ。
「ああ、あのハーフエルフの美人さんね。リラだっけか。彼女いいよね。とても素敵だよ。」
ね、良いよね。俺も引かれていたんだよね。
3歳児だから我慢していたけどさ。
でも3歳の俺を憎からず思ってくれるって、どうかと思うんだけどさ。
「あと、あのちっこい狼娘もいたじゃないの。」
ああ、ローズ?
俺はロリじゃないので、遠慮しておきますぅ。
「お前が成人する頃には二十歳か。行き遅れになっちゃうな。」
いや、俺はローズを食う気はないよ。
あれはちゃんとしたところに嫁ぐべきだ。
俺の妾なんかになっちゃいけないんだ。
ローランドやアリアンナに言って、いい縁談先を見つけてもらうつもりだったんだ。
「まあ、お前もう死んでるけどな。」
ああ、そうね。そのとおりね。
「しかしこれで死ぬんじゃ、もったいねぇよね。」
ほんそれ。
「おい、またお前呼ばれてんぞ。」
え?なに?
「今回早いな。糞が、あのトレーサの馬鹿、むやみに力を与えやがってよ。」
なに?トレーサ?
「そうだよ、あいつはまったくよう。何が聖女にしましただよ。自分が外に出たかっただけじゃねーか、なぁ。」
ああ、アンネが聖女って話ね。
トレーサは、あれ馬鹿だよね。
「ああ、大馬鹿だよ。あいつは魂運んでいるだけが仕事だったんだ。それが人間に知恵授けたりしてな。そしたら崇められちまってよ。そのせいで、あの馬鹿に力ついちまった。あの馬鹿、その力をむやみ振りかざしてやんのよ。」
なに?トレーサに辛辣じゃん。
「私は馬鹿が嫌いなんだよ。」
ふうん、でさ、今回はこれと言って俺が生きていくための情報は無し?
「まあな、お前はこのまま生き返れるだろ。またあっち行って楽しく暮らせよ。まあ、これからも色々あるだろうけどな。」
ああそうだ、英雄王ノヴァリスって知ってる?
「ああ、知ってるも何も旧アベルだよ。」
はぁ?この身体が嫌だって言った、旧アベルのこと?
「うん、そうだよ。よく覚えていたな。」
そりゃ覚えているよ。ひでえ話だなって思ったもん。
でも、なんで身体が強力だってわかって怖がったのさ。
「ああ、強力だって言ったのは私だ。しかも産まれるヴァレンタイン家は良いぞってね。でもなんで怖がったのかは私もわかんねぇ。何か前世であったのか、イージーモードが嫌いとかな。」
なに、今の俺、イージーモードなわけ?
「違うのか?前世から比べりゃ、十分イージーだっただろ。」
そりゃそうだけどさ。
で、旧アベルはハードモードのノヴァリス王を選んだわけか。
「そうなるな。」
やっぱ、あいつもやっぱ日本から来たの?
「ああ、あんま言いたくねえけど、まあそのとおりだ。」
そうか。そうだろうな。
本で読んだんだよ。
でさ、彼は1500年前に行ったってこと?
「そうだよ。次元が複雑に絡まってるからな。年代飛び越すなんてお手のもんよ。奴はそのせいで、だいぶしなくていい苦労ばかりしたらしいけどな。でも、なんだか満足したみたいよ。」
色町作ってたしね。
「な、あいつがあんなスケベとは思はなかったよ。」
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アベル様が死んじゃった。
あたしは、お城のアルケイオン様の祭壇の前にいます。
ここにアベル様が眠っています。
アベル様が亡くなって3日経ちました。
トイレで血まみれになって死んでいたアベル様を、探しに来たローズちゃんが見つけました。
ローズちゃんは泣いて泣いて泣き疲れる事無く泣いて、マーガレット様とリサちゃんがずっとついていてくれました。
あたしも母さんと泣きました。
泣き疲れて眠って、アベル様が居なくてまた泣いていました。
アベル様は私の騎士だって言ってくれたのに。
もうそばにはいてくれません。
ご領主様とご隠居様は必死になって犯人を捜しました。
御領主様は騎士団を率いてくまなく犯人を捜したそうです。
特にご隠居様は修練のすぐ後だったので、ご自分をひどく攻めておいででした。
でも、あの日は城に商人の出入りが多く、犯人は見つけるのは大変で、結局は取り逃すことになったそうです。
そして3日が過ぎました。
奥様は、悲しみに暮れるシャーロット様と一緒にずっと部屋に引きこもっています。
奥様は魂が抜けたようで、あの元気で優雅なお姿ではなくなりました。
アベル様が死んでから、この城から笑い声が消えました。
いつもアベル様が笑わせてくれました。
いつも笑いかけてくれました。
いつも心配してくれました。
いつも自信をもってと言ってくれました。
あたしはトレーサ神の巫女で聖女だそうです。
アルケイオン様の祭壇だけど、トレーサ神にお願いしたら、アベル様を生き返らせてくれるかな?
「何言ってんの、あんたが生き返らせんのよ。」
小さい妖精さんがいつの間にか目の前に居ました。
「あなたは誰?」
「あなたが呼んだんでしょ。私の巫女さん。」
「トレーサさま?」
「そうよ、聖女アンネローゼ。」
「トレーサさま、トレーサさま、アベル様を、アベル様を!」
私は一生懸命トレーサさまにお願いしようとするのに、言葉が上手に出てきません。
「だから、あんたがアベルを生き返らせんのよ。しかしこの子も赤ん坊の頃は殺しても死なないようだったけど、やっぱり人の子ね。あっさりしたもんだわ。」
トレーサさまがアベル様を悪く言うので、ムッとしてしまいます。
「わかったわよ、この子のことはもう言わない。ほら、準備するわよ。その椅子に上がればアベルが見えるでしょ」
「はい。」
そう言ってあたしは椅子に上ります。
アベル様の真っ青なお顔が見えた途端、また涙があふれてきました。
「ほら、今泣いてんじゃないわよ。アベルの胸に手を当てるの。」
「こうですか?」
アベル様の服からは、まだ血がにじんできます。
「そうよ。いいわね。そしたら、治れって祈りなさい。」
「それだけ?」
「ええ、それだけよ。ああ、アベルが約束守ったのね。あんた、身体中を魔素でいっぱいにしているじゃない。これなら余裕だわ。ほら、祈るのよ。」
「治れ、治れ、治れ。」
吸い込んだ魔素が腕を伝って魔力に代わり、アベル様の身体に流れていきます。
「治れ、治れ、治れ、」
どんどん魔力がアベル様の身体の中に流れると、アベル様の身体の中から光が漏れてきました。
「ほら、もうちょっとよ。祈りなさい。私に届いているから。」
アベル様なら、お前かい!と突っ込むでしょうが、私はそれどころではありません。
「アベル様!帰ってきて!!」
次第に光が大きくなり、アベル様の身体全体を包んでいきます。
ふわっと暖かい光が散ってゆくと、ゴホンと咳が聞こえてきました。
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「呼ぶ声が聞こえる?」
おお、聞こえた。
アンネの声だ。
「ああ、トレーサが聖女にした娘だな。」
うん、そうだね。
まだ力は使えなかったはずだけど。
「トレーサの馬鹿がアルケイオンの祭壇でその聖女様にレクチャーしてるぞ。」
トレーサがレクチャーねぇ。
なんで?
「お前を生き返らせるために決まってるだろ。こりゃトレーサとアルケイオンはバチバチになるな。」
なんでアルケイオン様とバチバチに?
「お前、自分が祀られている城の祭壇で、ほかの神に好き勝手やられて放っておく神はいないよ。しかもお前の城はアルケイオンの礼拝堂があるんだから、お前もアルケイオンの氏子になるわけだろ。」
そういうもんなの?
「そう、そういうもんなの。」
さて、なんか行かないといけないみたいだ。
身体が引っ張られるわ。
「ああ、もう来るな。まじで。次来るときは老衰にしろ、な。」
出来たらね。
では、視聴者のみなさまぁ!See You Bye Bye~!」
うおい、お前、またYouちゃんのお別れ挨拶を…
ここまで読んでいただき、有難うございます。
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