62.アベルくんと商人の護衛。
62.アベルくんと商人の護衛。
今日は倉庫の棚卸をするそうで、使用人たちが騒がしい。
非常時の備えで、食料とかが大量に入っているからね。
古くなった食料、ほぼ穀物だけど、街の孤児院とかに無料で配布をしているんだってさ。
経済的に潤っている、うちの領地だからできるんだろうな。
新しい食料を持ってきた商人たちも、結構な数の馬車を野外の修練場に入れている。
俺と爺ちゃんはそれらを横目で見ながら、素振りをして汗を流していた。
「よし、今日はここまでだな。アベル、良くなってきたなぁ。わしも鼻が高いぞ。」
まだ3歳の素振りに何を言ってんだ。
まったくもって親馬鹿ならぬ、爺馬鹿だ。
「爺ちゃん、俺なんてまだまだだよ。そんな褒めると恥ずかしいからやめて。」
一応、正直な気持ちを言ってみる。
「なに言っとる、十分様になってきておるぞ。子供の頃のローランドを思い出すのぉ。」
またぁ、一閃の剣と比べんなよ、まったく。
「ほら、爺ちゃんシャワーへ汗を流しに行こう。僕は先にトイレに行くけどね。」
城と修練場の間にシャワールームがあるのだ。
魔道具ってホント便利。
トイレはシャワールームより、ちょっと離れているけどね。
小さい子供はトイレが近いのだ。
マジで。
嘘だと思うなら、小さくなってみろ!
「おう、先にシャワーへ入っとるぞ。」
爺ちゃんは走ってトイレに行く俺に手を上げる。
漏れちゃうようなんて思いながら、トイレへ向かうとなんだか屈強な戦士と思われる人が立っていた。
誰?見たことないなぁ。
などと考えていたら、向こうから話しかけてきた。
「坊やはこの城の子かい?」
大きい身体ながら、人懐っこい笑みを浮かべた優しそうな人だ。
「そうですよ。ローランド・ヴァレンタインが嫡男、アベルと申します。」
そう言ってお辞儀をする。
「おお、次期領主様でございましたか。これは失礼。私、商人ヴァーゴ の護衛を務めさせて頂いております。カインと申します。」
カインさんは丁寧に挨拶をして、深々とお辞儀をしたする。
「カインさん、申し訳ない。今のっぴきならないんだ。ちょっと先に進んでいい?」
俺は強まる尿意をこらえ、カインさんに言葉をかける。
「ああ、申し訳ない。私もこらえているところでした。一緒に行きましょう。」
そう言って一緒に歩きだすカインさん。
魔道具の明かりが薄暗いトイレに入った途端。
鈍い色をしたブロードソードが俺の背中から胸へと貫いた。
「あれ!?」
という声が俺の口から洩れる。
「お前の命は俺の無くなった二本の指より軽いが、あいつが嫡男を亡くして慌てた姿を見られるなら、幾分留飲も下がるってもんだな。坊主、お前の父親を恨むんだな。俺の中指と薬指を綺麗に断ち切ってくれた恨みだ。存分に俺の剣を味わえ。」
カインはそう言ってブロードソードを鞘にしまい後ろを向く。
糞、肺に血が回って息ができない。
燃えるように胸も熱い。
でも、このまま何もせずに死んでは駄目だ。
こいつになんとか一太刀浴びせたい。
俺は右手を上げ魔力を集中させる。
炎と酸素だ。
ボッ、という音とともに炎が指先から燃え上がる。
酸素大量注入。
まるでガストーチの様に強力な青白い炎が燃え上がる。
魔力操作、伸びろ。
そうして魔力操作を使い、炎を伸ばす。
炎で出来た剣のようだ。
狙いは首すじ。
あわよくば、炎が巻いて鎧の中を蹂躙してくれたら。
「カハッ」
しかし、炎が背中に届くその前に、吐血してしまった。
そのせいで炎の剣ががぶれる。
ぶれた炎は首筋から大きくそれて、カインの3本指の右手を高熱で焼いた。
肉の焼ける臭いとともに、俺の意識は遠のいて行く。
「このガキ!」
とカインの声と同時に
「アベル様―!」
俺を呼ぶローズの声が遠くで聞こえる。
集中力をなくし、魔力生成も事象の昇華もできなくなった俺の右手は、力なく地面に落ちる。
「クソ!」
と言葉を残し、走り去る音が聞こえた。
「アベル様―、どちらですかー!」
相変わらずローズは俺のことを捜してる。
「ゴメンなローズ。そっちいけないや」
そして俺の意識はなくなった。
ここまで読んでいただき、有難うございます。
続き読みたいなぁって思ったら、是非ブックマークしてやって下さい。
作者が喜びます。
外されると病みます。
嘘です。
とにかく気に入ってくださると幸いです。