表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/362

56.アベルくんとギルド長。

56.アベルくんとギルド長。




 「あの餓鬼ども何やってんだ?」

 「馬鹿、ご領主の御子息たちだぞ、めったなこと言うな。」

 周りの冒険者たちは騒然としている。


 そりゃそうだ、領主の息子にこんな茶番見せられたら、そりゃこうなる。


 その騒がしさの中、ギルドの扉が「バタン!!」と大きな音を立てて開いた。


 「おい坊主!何してる、早く入ってこんか!」


 いかつい顔が乗った、でかい筋肉の塊が現れた!


 周りで騒いでいた冒険者も一瞬ビクッとする。


 出てきたのは、ノヴァリス王国冒険者ギルドヴァレンティア支部ギルド長ギルバートその人である。

 

 「はーい!今、行きますよ。」

 俺はドアからこちらを覗き込む筋肉の塊に、軽い調子で返事をする。

 

 「なんだ、ギルド前で女の子を泣かせて。やっぱりお前もローランドの息子だな!わっはっは!」

 まだグズって涙を拭いているローズを見て、豪快に笑い始めるギルおじさん。


 「なに、その話教えて。それって母さんにも言っていい話?ねぇ、おじさん、教えてよ。」

 俺がこう尋ね始めると、やべぇって顔をして


 「ほら、馬鹿言ってねぇでギルドに入るぞ。」

 そう言ってごまかし、逃げるようにギルド内に入っていった。


 あれ?いつの間にかソフィアさんはギルド長の横についていたな。

 

 さて、これ以上目立っても仕方ないから行こうか。

 「ローズ、泣き止んだか?行くぞ。マリアさんもいいね。」


 気を取り直した俺は二人に聞いてみる。

 「はい、アベル様。」


 泣き止んだローズとマリアさんは俺に向かって返事をする。


 「待って、アベル様。」

 俺の横に来たアンネが俺を呼ぶ。


 「なしたよ?アンネ。」

 「ローズちゃんと仲直りに、手をつないで。」 

 アンネがなんとも子供っぽいことを言う。

 子供なんだが。


 ここでまた茶番?

 うーん、どうしたもんか。

 

 「そうだな。じゃ、みんなで手をつなごうか。ローズおいで。」

 俺はそう言ってローズに右手を差し出す。


 ハッとした顔で俺の目を見た後、すぐに目を伏せ、一瞬の逡巡の後、ローズは左手で俺の右手を握る。


 ローズの空いた右手をアンネが笑いながら握る。

 そして、アンネの右手をマリアさんが包み込むように握った。


 みんながそれぞれの顔を覗き込み、全員がニコッと笑った。

 「行こうか。」

 俺がみんなに言うと


 「はい。」

 と元気に返してくれた。


 なんだか彫刻が施された大仰な扉をくぐり、ギルドの中に入った。

 こういうハッタリが必要なんだろうな。


 ギルドに入ると、まず長いカウンターが目に付く。

 右側からランクの低い冒険者用なのかな?


 行列の長さが違う。

 ランクの優劣を示すためなんだろうけど、俺から見ると全くもって不合理だね。

 アホらしい。


 ぐるりと見回すと、案内板があって、もう一つ、あれは依頼張り出し用の掲示板のようだ。


 天井は吹き抜け。

 天井から豪奢なシャンデリアがぶら下がっている。

 むさい冒険者ギルドには、無駄に豪華な作りだ。


 キョロキョロしてる、そんなお上りさんな俺達をソフィアさんが待っていた。


 「ギルド長のお部屋は3階になっております。昇降台にご案内しますね。」


 エレベーターね。

 そういや、こういうテクノロジーは久しぶりだ。

 とはいっても魔道具なんでしょ。

 

 魔力を上下させる動力にする?

 どうやって?


 だってさ、四大元素に則ったものしか魔法は事象にできないはずなのに。

 テレキネシス的な?

 また魔法がわかんなくなっちゃうよ。


 とりあえず、乗ってみよう。

 Don't think! Feel.ってやつだ。


 「こちらです。」


 ソフィアさんが案内してくれた昇降台の扉は、シャッターのような両開きの扉だ。

 昔見た洋画に出てきたビルのエレベーターのような感じのやつね。

 「ガシャガシャ」と、開ける時に割と派手な音がした。あ、閉めるときはもっと派手な音だね。


 ソフィアさんと俺以外のメンツは、緊張した面持ちだ。

 機械に乗るなんて、なかなかこの世界ではないことだからね。


 乗るとソフィアさんがレバーを操作する。

 「へー、レバーなんだ。」


 俺は思わず口にしてしまった。


 「レバーって何ですか?」

 相変わらず耳のいいローズが俺に聞いてくる。


 「そのソフィアさんが操作した棒のことだよ。」

 「へぇ、アベル様は何でも知っていますね。」


 ローズがそんなこと言うから、俺は思わず

 「何でもは知らないわ…何でもってわけじゃないさ。」

 「?」


 ローズは俺の答えを聞いて不思議そうな顔をしてる。

 うん、それでいい。オタ要素なんてものはスルーが一番だ。


 そんなことを言っている間に、昇降台が動き出した。

 上昇した時の体重が下に引っ張られる感じ。

 これはエレベーターと同じか。


 「シュー」という空気漏れのような音とともに、昇降台は登り始める。

 まだちょっとしか上がっていないのに、気圧の変化を感じる。


 あっ!風か。

 風の魔法で持ち上げてるんだ。

 下りはどうするんだろう?


 風を徐々に弱めて下がる?

 まあ、そんなところなんだろうな。


 おっと、3階に着いたようだ。

 ソフィアさんがまたガチャガチャと扉を開ける。


 「こちらです。」

 そう言って歩き出すソフィアさん。


 え?風が切れたら、昇降台は落ちるんじゃないの?

 どうなっているんだろう?


 「落ちませんよ。」

 後ろからソフィアさんの声がした。


 「昇降台の籠の骨組みとその周りの支柱には、歯車のような籠を停める装置がつけられているんです。ですから、魔法の力が無くなっても停まったままなんですよ。」

 なるほどねぇ。


 ソフィアさんがレバーをガチャコンやっていたのは、階数指定だけじゃなくて、その留め具の取り外しもやっていたんだろう。

 だからこそのレバー操作ってわけね。


 赤絨毯の敷かれた廊下をソフィアさんの後ろを歩いていると、観音開きの扉の前に着いた。


 コン、コン、とノックをするソフィアさん。

 「おう!」という声が聞こえると、おもむろにドアを開け

 「お連れしました。」

 そう言ってソフィアさんは俺たちを中に入るように促す。

 

 中はダークブラウンの家具で固められ、使用者の身体に合わせたようなデカい執務用の机と、中央に応接セットが置かれている。


 率直に言おう。地味。


 もっと、ギルド長の部屋なんだから、けれんみが有るのだとばかり思っていた。


 とはいうものの、部屋の床には毛足の長い絨毯が敷き詰められているし、家具自体は良い物のようで、重厚感がありギルド長の部屋にはぴったりだ。


 何気に部屋の奥には高級そうな酒瓶が並んだ棚と、バーセットらしきものが置かれている。


 こりゃ、この部屋は地味なくせに金掛かってんな。


 その部屋の主は執務机の椅子に座って俺たちを出迎えていた。

 デカい身体がデカい机に収まっている。


 どうせ移動するんだから、応接セットで待ってりゃいいのにと思ったのは内緒。


 「坊主、よく来たな。お前が今思っている事を答えて当ててやろうか。地味な部屋だなってな。」

 残念、応接セットで待っとけって思ってたんだよ~だ。


 草。


 とは、流石に言わないよ。


 「さすが元百戦錬磨のA級冒険者にして、登録者数2万人を超える冒険者ギルドのギルド長。読心術はお手のものってことですかね。」

 まあ、当たり障りのないことを言っておいた。


 「ふふん、だろう。まあ、ソファに座れ。」

 ギルおじさんは得意げに鼻を鳴らす。


 「じゃあ、失礼して。アンネもこっちおいで。」

 俺とえっ?て顔をしたアンネだけがソファに座る。


 「お母さんは?」

 アンネの至極まっとうな疑問。

 さてどう返そうか。


 「マリアさんは僕と同じ椅子には座れない。これが決まりさ。僕は嫌なんだけどね。主人と従者が同じ席にいられないって誰が決めたんだろうね。」

 俺は腑に落ちない顔のアンネを見て微笑んでみる。


 「アベル様、私もお貴族様じゃない。だから立って待ってる。」

 アンネならそう言うなぁと思ってたよ。


 「私はそばにいますから、座っていなさい。」

 マリアさんがアンネの方に手を掛け、優しく諭す。


 「アベル様、お母さん。なんで私はアベル様と座るの?」

 アンネは不思議そうに聞いてくる。まったくそのとおり。


 「アンネはね、これからこのおじさんと話をすることの中で、中心になる大切な人なんだよ。だから、おじさんの前で座っていなければならない。」


 「でも。」

 アンネがまだ不安そうな不満げな声を上げる。


 俺がアンネを諭してみたが、まだ納得はいかないらしい。

 その時、野太い声がアンネに声を掛けた。


 「嬢ちゃんの疑問はもっともだ。おじちゃんが解決してやろう。おい!」

 同時にアンネがビクッてする。


 そりゃ、こんなおっさんが大声だしたら怖いよな。

 ギルおじさんの掛け声にこたえて、ギルドの職員らしい人が部屋の中に入ってきた。


 「そこに立っておられるご婦人とお嬢さんに、会議室から椅子を2脚持ってきてくれ。」

 ああ、ありがたい。

 気を使ってくれるとは。


 「はい。」

 そう言って職員さんは部屋の外に去って、すぐに2脚の椅子を持って現れた。

 

 ローズとマリアさんの後ろに椅子を置いて

 「どうぞ」

 と進めてから素早く去っていった。

 

 椅子を持ってきた職員にローズとマリアさんはそっと一礼して、ゆっくりと椅子に腰を沈めた。

 

 それをみたアンネは俺とギルおじさんを見回し、ニッコリと笑い

 「おじちゃん、ありがとう。」と言った。

 この笑顔を見られれば十分だ。

 帰ろうか。

 いやいやいやいや。

 

 ギルおじさんは妙に神妙な面持ちになり

 「ご婦人たちのためならば、なんてこたねぇさ。」

 そう言ってニカッて笑った。


 「お気遣い、痛み入ります。」

 アンネには後れを取ったが、俺が代表してお礼を述べる。


 「んな堅苦しい挨拶すんなよ。坊主たちは客なんだ。遠慮なんていらねぇさ。」

 そういいながら、俺の正面のソファにどっかと腰を下ろした。


 「じゃあ、早速遠慮なくいくね。今この部屋には俺たちだけ?外で聞く耳立ててる人なんていない?」

 俺はギルおじさんにそう聞いた。


 「おお、いねぇぞ。なんでぇ、藪から棒に。」

 ギルおじさんは、ビックリしたように目を丸くして俺に聞いてくる。


 「ちょっと内緒の話があってね。このアンネのことなんだ。」

 俺は慎重に周りを見てから、アンネの背中に手を伸ばし、ギルおじさんを見据えて言った。


 「その嬢ちゃんがどうした?」

 おじさんは怪訝そうに、アンネの方を向く。


 「このアンネローゼは、トレーサ神の巫女であり聖女なんだよ。」

 俺はなんてことはないんだと言わんばかりに、最重要機密をギルおじさんに叩きるける。


 「なんだと!そりゃ本当か!」

 ギルおじさんはドッカリおろしてた腰をガバッて浮かせ、目を見開く。

 な、驚いた。


 「本当さ。アンネの身体を依り代にして、トレーサ神が顕現したんだ。」

 新生児の頃、隣で寝ながら顕現するのを見ていたとは言えないよね。


 「トレーサ神といえば、おめぇ、聖王国の唯一神だな。はぁ、不思議な人間は、坊主とシャーロット嬢ちゃんだけじゃなく、もう一人いたのか。」

 デカいため息を吐きながら、俺とロッティーに毒を吐くおじさん。


 「なんだよ、俺たちを化け物みたく。」

 俺はちょっとだけむくれてみせる。


 「坊主、なんでそれを俺に話す気になった。ローランドはこのことを知っているのか。」

 まだちょっと混乱しているようで、ちゃんと真っ当な質問を返すのは流石だ。


 「知ってるも何も、ギルおじさんに話しておけって言ったのは、父さんだよ。最初は城の内部だけで収めようと思ったけどさ、こういう事ってどうしてもほころびが出るもんだろ。その時に外部で頼れるのはおじさんと楼閣主の婆ちゃんくらいなもんだからさ。」

 内々で、結構議論は重ねたんだよね。その結論の一つがこの現場ってわけだ。


 「後ろの二人は知って…、そうか、坊主の家族か。知っていて当然なんだな。ったぁ、また面倒ごとだな、おい。」

 マリアさんとローズは俺の告白を聞いていたから知らないわけがない。

 おじさんが言ったとおり、俺の大事な家族だ。

 

「巻き込んだ形になったけど、でも、このことはヴァレンティアはもとよりヴァレンタイン辺境伯領、ひいてはノヴァリス王国全体に係わることなんだ。協力してくれるよね。」

 ギルおじさんは、俺の目を真正面で見てから少しだけ俯き、上目遣いで睨むようにまた俺を見る。


 「坊主、おめぇなぁ。話が大きすぎるって。国全体かぁ、全体なぁ。」

 ギルおじさんは、今度は天井を見上げてつぶやき始めた。


 思考がループしているようだ。

 こんなときはショック両方が一番。


 「ほら、アンネ、お前もお願いしろ。」

 「おじちゃん、お願いします。」

 アンネはペコリとお辞儀をする。


 デカい爆弾が爆発する。

 「坊主、ずっこい。おめぇ、ずっこいなぁ。こんな小さな嬢ちゃんにお願いされたら断れないだろう。」

 あら、ギルおじさんてば、ロリ?


 「わかった、わかったよ。協力するよ、協力しますとも。でもよ、具体的になにをすればいいんだ?戦争ならお前らの本分だぞ。」


 まいったとばかりに、両手を上げるギルおじさん。

 まあ、税をもらっているからね。

 戦争ならそりゃ領主の本分さ。

 冒険者には任せていられない。


 「現時点で何かをやって貰おうってのはないさ。ただ、いざって時のこの娘の脱出ルートとかの確保とかだね。でも多分それは楼閣主の婆ちゃんの仕事になるから、護衛の冒険者の手配とかになるかな。」

 一番のキーマンは楼閣主の婆ちゃん。

 領内の職員でもあるしね、いざってときに働いてもらわないと。


 「楼閣主は顔が広いからな。匿う手立てならあの方が一番か。護衛ってんなら任してくれ。いざって時に優秀なのをそろえておくよ。」


 ギルおじさん得心行ったという顔になってる。

 清々しい、いい顔だ。


 「有り難う、助かるよ。」

 俺は座りながら最敬礼をした。


 「しかし、このちっこい嬢ちゃんが聖女様とはなぁ。お前らも大変だ。」

 ギルおじさんは、一時の緊張が溶けたのか、アンネを見ながらしみじみと言った。


 「まあ、家族のことだから、大変も何もないさ。こっちも出来るだけ事が起きないようにするから、何かの時はお願いします。」


 家族のことに巻き込んでごめんよ。

 とは領主の息子としてなかなか言えないらしい。

 むやみに謝るなだって。

 変な仕来たりだ。


 元日本人の俺の事だから、気づかずにたくさん謝っている事だろうな。

 別に俺としては構わないんだけどね。


 「おう、まかせとけ。嬢ちゃんのためだ、大船に乗った気でいろ。わっはっはっは!」

 やっぱ、ロリじゃん。

 

 「さて、本題に入ろうか。」

 俺はそう言って紙束をカバンの中から取り出す。

 

 「おめぇ本題って、今…そうか、そうだな学校の話だったな。」



 へっ?って顔をしてからまた豪快にギルおじさんは笑うのだった。





ここまで読んでいただき、有難うございます。

☆の評価ポイントとブックマークで得られる作者の栄養があります。

よろしければ、下にある☆とブックマークをポチっとしていってください。

どうかよろしくお願いします。


この作品を気に入ってくださると幸いです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ギルド長、わざわざ3階から玄関まで降りてきて声を掛けてからエレベーターを使わずに階段でまた3階まで駆け上がり、部屋の奥で椅子に座って待ち構えてたのか…涙ぐましい頑張りというか
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ