53.アベルくんと魔改造最強ファイアーボールX
53.アベルくんと魔改造最強ファイアーボールX。
秘密の告白をしてから数日たった。
家族は皆変わらなく接してくれる。
使用人たちも同じだ。
異質な存在であるはずなのに、本当に優しい人たちだ。
そしてここは外の修練場。
快晴、無風。
いい天気だ。
このままツーリングにでも行きたい。
バイクなんてないけど。
今、俺の20mほど前には鉄板が立っている。
「アベル、あなたの言うファイアーボールの改良型を見せてごらんなさい。」
俺の後方にいるアリアンナ母さんが腕を組んで仁王立ちになっている。
母さん、人より美人なんだからお淑やかにしておきなさいよ。
「危ないから、もっと下がって。身体強化しておいてね。しておかないと、たぶんすごく熱いよ。」
俺は一言注意をしておく。
「はーい!」
母さんとロッティーは後ろに下がりながら元気な返事をしてくる。
「いい?やるよ!」
「いいよ!」また二人が元気に答えた。
「んじゃ、やりますか。」
俺はそう言って右手を挙げ、手のひらを上向きに広げる。
「ズボッ!」
と言う音とともに、こぶし大の火の玉が現れる。
「ここから。」
俺は並行して事象を昇華する。酸素を作るのだ。
魔法で酸素?と思う向きもあるかもしれないが、生成できてしまった。
では他の元素は生成できるのか?
金は?プラチナは?と考えるよね。
個体、液体の物質は生成できなかった。
あと、水素とかヘリウムとか、俺が普段触れてこなかった、馴染みのない気体は生成できなかった。
イメージがしっかりできないと無理っぽいんだよな。
この世界の魔法は、イメージ力がものをいう。
火とはこういうもの、水はこういうもの。
そういったイメージがしっかりできると、より具体的な魔法に直結する。
不思議な話だね。
そこ!ご都合主義とか言わない。
ホント、それなんだけどさ。
少しずつ作った酸素を火の玉の中に注入していく。
赤かった火の玉の色が、だんだん青く変わり、光もどんどん増していく。
身体強化しているけど、クソ熱いな。
これくらいかな?
青かった火の玉がさらに青白く発光する。
その後、俺は魔力を固定する。
この魔力の固定って概念が面白い。
俺は魔力って単純なエネルギーだと思っていた。
どうやら違うみたいだ。
事象に魔力を送り込んで供給を切る。
何故かそれだけで事象が持続する。
これが魔法だって言われると、さいですか、って言うしかないんだけど、釈然とはしない。
「では飛ばしますか。」
俺は火の玉が出来た手のひらを鉄板に向ける。
火の玉は地面に落ちず、俺の手のひらの前で固定してる。
釈然としない。
鉄板方向へ魔力を飛ばす。
すると火の玉も「シュッ!」と言う音とともに飛び出して、鉄板に向かった。
鉄板に向かった火の玉は、そのまま鉄板に当たり、はじけたり爆発したりすることなく、しばらく鉄板の表面にとどまってから消えた。
「アベル!そっち行っていい?」
母さんが大きな声で俺に聞く。
「うん!まだ熱いけど来ていいよ!」
俺も母さんに叫んだ。
「うわぁ、本当に熱いわね。あれ本当にファイアーボール?色が全然違ったけど。」
母さんは俺のところに来て、興味ありげにさっそく質問してきた。
「ファイアーボールだよ。ただね、鍛冶師の人がふいごで炉に空気を送るでしょ。そうすると明るくなってすごく熱くなるんだよね。それの応用だよ。」
俺は母さんにも分かるよう答えた。
科学の進んでいないこの世界の住人に、魔力で酸素を作って火の玉に送り込んだって言ってもわかんないだろうからなぁ。
おおよそ間違ったことは言っていないからいいだろう。
「アベル、本当にふいごを使うとこんなに熱くなるの?」
ロッティーは不思議そうだ。
「そうみたいだよ。僕も鍛冶屋さんに行ったことはないけどね。大変な仕事だね。」
俺はそう言ってから、鉄板の方を眺めた。
まだ熱で空気が揺らめいたように見えたけど、もう平気かな。
「そろそろいいかな、行ってみよう。」
そう言って鉄板へ歩き出した。
後ろから母さんとロッティーが付いて来る。
「おおー」
鉄板を見た俺は思わず声を上げる。
「わぁ…」
母さんとロッティーはドン引きだ。
火の玉が当たったところは穴が開き、その上の鉄板は飴のように垂れ下がっている。
その周りの空気はいまだ熱で陽炎が立っていた。
「アベル、この魔法が人に当たったらどうなると思う?」
戦闘特化魔法使いとしては気になるんだろうな。
「骨は残るかな?」
間違ってはないよね。
「骨かぁ。こんな鉄も溶かすファイアーボール初めて見たわぁ。」
母さんは遠くを見るような眼をして、黄昏たようにつぶやく。
「けど、飛ばすまでに時間がかかったわ。なぜ?」
顎に人差し指を当て、かわいい仕草で不思議そうにロッティーが聞いてくる。
「熱を持たせるのに少しずつ温度を高めていったから、時間が必要だったんだよ。急に高めると爆発するかもしれなかったし。」
火の玉に酸素をいきなり注入して、バックドラフトみたいになったら怖いもんね。
「対人戦ではちょっと使えないわね。」
俺に向き直った母さんがつぶやた。
「時間がかかるしね。ちょっと無理だよね。」
「攻城戦なら使えそうよね。」
ロッティーがとんでもないこと言ってる。
「戦争は起こらない方がいいよ。それに、レンガや岩を溶かせるかって言うと、うーん、いけるかもなぁ。」
耐火煉瓦なら無理か。今のレンガや岩なら溶かしちゃうかもな。
酸素を生成できた時点で、俺にとって攻城戦も簡単なものになってしまったんだけどね。
酸素を魔力固定で、目標物の中に充満させる。
これだけで、マッチ一本火事の元だ。
これだけでも完全チート。
こうはなりたくはなかった。
「でもこれ夜の戦いには使えそうよね。」
母さんが何故か目を輝かせて言った。
「へ?なんで?」
この人は突拍子もないこと言うなぁ。
「照明に使えるでしょ。敵陣照らすの。」
母さんはいいもの見つけたって感じで、目を輝かせている。
「ああ、そうだね。」
照明弾ね。その発想はなかった。
うちの女性陣てば戦争のことばかり考えてんのか?
「敵陣照らして丸裸にしたら、矢で狙いやすくなるでしょ。」
サーチライトもスターライトスコープもないこの世界じゃ凄く有用な使い方かもな。
「母さん、一つ問題があるよ。」
「なによ、その問題って。」
母さん、物言いが粗雑になってるよ。
冒険者の頃に戻ったか。
とても淑女とは思えない。
「僕がいないとこの魔法使えないって問題。」
「あら、アベル、この魔法を公開はしないの?」
「うーん、ちょっと難しいからね。僕しかわからない概念があるし。」
酸素なんてこの世界で説明できないものは、概念ってことにしてごまかすしかないだろ。
「概念ねぇ。なによ、もったいぶっているわね。」
「ふいごの役目をする魔法が難しいんだよ。ずっと火の玉に風を送ればいいってわけじゃないんだ。」
酸素を説明するにゃ、どうすりゃいいのよ。
実験する?
見えないものがあるって説明はなかなか大変なんだよ。
「じゃ、あなたはどうしてんのよ。」
「それを説明するのが難しいんだよね。英雄王なら分かってくれると思うけど。」
英雄王ノヴァリスは転生者だ。
「大長老の語るノヴァリス」を読んで確信を得たからだ。
発酵までインフラに組み込んでいるんだ、酸素くらいは知っていて当たり前だ。
彼はあえて科学技術の発展はしなかったのか?
させなかったのかも知れない。
魔法と科学を合わせようなんて、俺みたいな危険思想を持つ奴が出てくるから。
魔法は便利だからな。
イメージできるものなら有機物以外は発現できるし。
でも固形物、宝石とか金とかは出ないんだよね。
だけど砂とか土は出る。
変だ。
質量の問題なのかと思ったんだけど、土魔法が達者な人は、魔素が続く限り土を出すしな。
いわゆるエレメンタルみたいなものなのかな?
四大元素、四大精霊みたいな。
そういえばエルフやフェアリーは精霊魔法を使えるってロッティーが言っていた。
ヨハンなら何かわかるかもしれない。
今は俺の相手は出来んだろう、城の改革でてんてこ舞いらしい。
余計な口出ししてゴメンよ。
さて、ない頭を絞っても世はことも無しってなもんよ。
「アベル、あなた何をさっきからボーってしてんの。大丈夫?」
母さんが心配そうに顔を覗き込んでくる。
「あ、大丈夫だよ、母さん。考え事をしてた。もっと頭が良くならないかなってね。」
「あなたがそれ以上頭が良くなってどうするのよ。」
ポンと、俺の頭に手を乗せる母さん。
「そうよ、私が追いつけなくなるわ。」
ちょっとだけ膨れた頬をしているロッティー。
そのお顔はとても可愛いですが、それは狙ってやっていらっしゃるので?
「姉さんは、もう十分頭が良いじゃないか。顔もかわいいし。天が二物も三物も大盤振る舞いして与えた感じだよ。」
「あん、かわいいだなんて。そんなことないわ、照れちゃうじゃない。」
ロッティーは大げさに顔を手で覆い、身体全体をいやいやとくねらす。
「ほら姉弟で何やってんのよ。でももういい時間ね。庭園でお茶にしましょう。今日のお菓子は何かしらね。」
母さんはそう言って、両手に俺とロッティーをつなぎ、楽しそうに歩くのだった。
ここまで読んでいただき、有難うございます。
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