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52.アベルくんの大事な告白。

52.アベルくんの大事な告白。




 魔法の修練の翌日の夕食後。



 城の大広間。



 広い空間に大きなテーブルと椅子がずらりと並んでいる。


 ここに居るのは


 父ローランド、母アリアンナ、祖父エドワード、姉シャーロット、乳母マリア、乳兄弟アンネローゼ、執事ヨハン、メイド長マーガレット、メイドのリサ、ローズ、そして俺。


 一堂に会したな。


 俺はみんなに座ってもらってから、靴を脱ぎ椅子の上に上がった。

 床に立ったら、テーブルの下に入っちゃって、みんなの顔が見えなくなるからね。


 皆が座って俺を見つめる。


 俺も皆をぐるりと見渡して、「父さん、はじめてもいい?」

 当主の父さんに許可をもらう。


 「いいよ。はじめなさい。」


 「皆さん、お集まりいただいてありがとうございます。辺境伯には城の施設をお貸しいただき、感謝申し上げます。」


 なんだか会社でプレゼンやっている気持ちになってきた。


 「今まで皆さんは、僕のことを不思議な子供だと思っていたことでしょう。たった3歳で大人を相手に流暢に言葉を話し、魔法を使い、そしてちょっとした知識を持って城の改革案なんてものを提示した。」



 俺はチラッと両親を見る。


 父さんと母さんは俺が何を言うのか、緊張しているのだろう、固い顔をして頷いた。




 「この僕にはずっと心にしまい込んだ秘密がありました。出来れば墓まで持っていきたかった。だけど、もう苦しくて黙ってられなくなってきちゃった。」


 あれ、なんでだ、涙が溢れてきた。




 「僕は、産まれた頃からの記憶があります。

 

 産まれたての僕を包んでくれた、母さんの優しいぬくもりのことも

 

 姉さんが魔素の呼吸を練習し始め、その日のうちに魔素を感じ取ってしまったことも

 

 爺ちゃんが山賊退治へ行く前に、姉さんの口に飴玉を放り込んだことも

 

 マリアさんが献身的に僕の面倒を見てくれたことも

 

 アンネといっしょに手を繋いでベビーベッドで寝ていたことも……」




 俺は母さん、ロッティー、爺ちゃん、マリアさん、アンネを一人一人見つめながら告白していく。



 

 ヨハンがたまに僕らのベッドを覗きに来たことも

 

 マーガレットがいつも僕を抱いては話しかけてくれたことも

 

 リサが重そうに図書室から本を担いできたことも

 

 ローズが折り重なったオムツをフラフラになりながら子供部屋に持ってきたことも

 

 全部覚えています。父さんはベビーベッドで寝ていた僕の頭をよく撫でてくれましたね。

 

 山賊討伐のとき、家族を頼むと赤ちゃんの僕に言ったときにはどうしようって思いましたが。」




 その後のみんなも、声を掛けながら一人一人見つめた。


 父さんは最後の言葉を聞いて、照れくさそうに笑っていた。




 俺は濡れた頬のまま、みんなを見渡す。


 笑っていた顔を戻し、父さんと母さんは俺の言葉を聞き逃さんと、真剣な眼差しだ。


 爺ちゃんは目をつむり、腕を組んでいる。


 ロッティーの目が潤んでいるな。


 マリアさんとマーガレットは目頭をハンカチで押さえている。


 アンネローゼはポカンとしている。

 3歳と、一番小さいんだもん。

 何言っているか、わかんなよね。


 ヨハンの表情は変わらない。

 俺の変化を見逃さないように気をつけている感じだ。


 リサとローズは手を取り合って、グズグズ泣いているな。


 おい、ローズ、鼻水出てるぞ。




 「なぜかは自分でもわかりません。


 生まれたての赤ちゃんのときから記憶があり、皆さんが何を言っているか分かっていました。


 母さん、だから僕が魔素を初めて感じたのは、姉さんが練習始めたときなんだよ。


 僕はベッドで二人の話を聞きながら、一緒に練習をしていた。


 姉さんが指の先に火を付け、母さんが魔法を皆に披露したときに、僕も魔法を使えるようになっていた。


 母さんが炎から雪に魔法転換した時は驚いた。


 雪が綺麗だったよ。


 まだ母さんのように複雑な魔法は使えないけどね。


 これが最初の秘密です。」




 俺の話を聞き母さんは俺をまっすぐに見据える。



 ロッティーは驚いたように目を見開きすぐに


 「最初の秘密?まだあるの?」



 さすがロッティー鋭い。




 「実は次の秘密が一番この辺境伯領にとって大事な秘密になると思います。僕が産まれて3ヶ月ほど経った頃、子供部屋で寝ていた僕の目の前に、トレーサ神が顕現しました。しかもアンネローゼを依り代として。」


 「何!」


 父さんと爺ちゃんが腰を跳ね上げる。

 父さんたちが驚くのは尤もだ。

 トレーサは隣国で敵国である聖王国の唯一神だからな。


 「はっ!」

 短く声を発したマリアさんは、両手を口に当て驚きを隠せない。

 実の娘が神の依り代と聞かされたら、動揺しない親なんていないだろう。


 そしてヨハンの眉が一瞬跳ね上がるのが見えた。


 当のアンネはキョトンとしてる。

 まあ、神が依り代として顕現したとか言われてもわからないよね。


 「お二人とも、落ち着いてお座りください。アベル、まだあるんでしょう?続けなさい。」

 通る声で母さんが父さんと爺ちゃんをなだめ、自分を取り戻したかのように、二人は言われたとおりに椅子へ腰を下ろす。

 そして俺は母さんを見つめ、頷いた。


 「アベル、ところでトレーサ神はなぜ顕現したんだ?今どこにいる?」

 父さんが平静を取り戻して聞いてきた。


 「トレーサは聖王国へ観光に行きました。」

 俺は真実を告げる。


 「観光だと?聖王国へ神がか?トレーサ神は聖王国の唯一神だぞ、それで済むわけがない。」

 爺ちゃんは腕を組みながら言う。


 本当なんだよ、爺ちゃん。あの女神の真意を俺も知りたい。


 「しかしトレーサ神自身が言っていました。そして、またこちらに来ると。もう3年近くなりますが、その後、僕の前には現れませんね。」


 「うーん。」

 父さんは額に手を当て、なにか考えているようだ。


 「最後に、」


 「まだあるのかい?」

 ハッとした父さんが聞いてくる。


 「はい、先ほどアンネローゼを依代にトレーサ神は顕現したと言いましたが、そのお陰で、アンネローゼはトレーサ神の巫女、ひいては聖女となりました。」


 「聖女…」

 そう言ってマリアさんは崩れ落ちそうになるが、とっさに母さんとヨハンが支えた。そしてゆっくり椅子に戻す。


 アンネが椅子から降りてマリアさんに「大丈夫?」と言いながら寄り添っている。


 俺はそれを見てホッとしてから、


 「トレーサ神が言うには、教会の回復魔法より強力な回復魔法をアンネローゼは使えるそうです。」


 「また厄介な。」

 そう言って爺ちゃんが頭を横にふる。


 だよね、トレーサ教だけじゃなく、他の教会が放っておかないものな。


 「そして、」

 「まだあるじゃないの!」

 母さんと、ロッティーが声を合わせる。


 おもろ


 「話を続けていい?」

 俺は小首をかしげ聞いてみる。


 話の腰を折ってごめん、と言いたそうな渋い顔で母さんが頷いた。


 「僕は聖女を守れとトレーサ神から神託を受けました。」


 「なんだと!アベルが聖女の騎士になるということか。」

 父さんが目を見開き俺を見つめる。


 「この城でトレーサ神は顕現し、聖女も置いていった。聖王国から見たら、敵国の最前線の城にです。これを知ったら聖王国が黙ってはいないと思われます。また、聖女といえばトレーサ教のみならず他の教会も欲しがるでしょう。なんとかアンネローゼを守る手立てを探すしかありません。」


 「聖王国に知られれば最悪戦争か。」

 父さんが俺を見つめたまま言う。


 「ええ、そういうことになるかもしれません。街の教会にも知られるのは厄介なことになるでしょう。アンネはこの城で大事に守るしかないと考えます。」


 一瞬の沈黙の後、父さんが口を開いた。


 「そうだな、アンネローゼはアベルの乳兄弟だ。いうなれば我々の家族も同じ。せいぜい我々で守ろうではないか。なあ、聖女の騎士様。」

 そう言って父さんは俺をからかった。

 俺はそれを苦笑いで返した。


 うぉ!気持ちは分かるがロッティーとローズの視線が痛い。

 心配そうな、それでいて嫉妬が入り混じったようなそんな視線。


 8歳の女の子たちが、そんな視線を送るなよ。もう。


 「そうだな、より一層アベルを鍛えなきゃいかん。」

 爺ちゃんが、俺にニカッて笑いかける。


 「ええ・・」

 俺は首をかしげ、さらに苦笑いを深くする。


 ふと、ここまで話をしたら気持ちが随分軽くなった。

 それと同時に言わなければならない言葉がある。


 俺はみんなを一瞥し


 「みんな、今まで黙っていてごめんなさい。ごめんね。父さん、母さん、爺ちゃん、姉さん。みんなも、ごめんね。」

 そう言うと、また涙が溢れてきた。


 椅子から立った母さんが俺を優しく抱きしめる。


 「いいのよアベル。ずっとこんな重荷を背負ってきたんだもの。辛かったでしょう。私も分かってあげられなくてごめんね。」

 母さんの胸に抱かれた瞬間、俺は極度の安心感に包まれ、感情が決壊した。


 「かあさん、こわかったんだ、くるしかった、ごめんね、かあさん。」

 俺号泣。

 

 母さんの俺を抱きしめる力が強まる。


 「一人ぼっちで辛かったね。アベル。」

 母さんも号泣。



 「アベル。」「アベル様。」みんなが俺の名を呼び、とり囲んで励ましてくれた。



 こうして俺の秘密公開会は終了した。




 よし、最大の秘密、転生者であるというのは隠しとおせたな。

 しかし3歳児のアベルの身体に引っ張られてよう泣いたわ。


 久しぶりの母さんの胸は安心感の塊であり、相変わらずあれだったね。

 うーん、ストレス溜まってたんだなぁ。



 疲れた。

 ゆっくり寝よう。



ここまで読んでいただき、有難うございます。

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