47.アベルくんと午後の庭園。
47.アベルくんと午後の庭園。
ネスと別れてほどなく庭園についた。
バルコニーのテーブルではアリアンナ母さんが優雅にお茶してる。
傍で控えているのはマーガレットとエレナだ。
庭園の花々はそれぞれ季節の花が咲いて、見事なグラデーションを形成している。
庭師のビル爺さんの手腕だ。
ドワーフだから見た目はゴツいが、朴訥で気のいい爺さんだ。
曾祖母ちゃんの頃から働いているって聞いた覚えがある。
ドワーフも長命なんだね。
庭園に配置されている木々に、柔らかい陽光が当たり、影を落としている。
「あら、あなた達も来たの。お茶を飲む?」
俺達に気が付いた母さんが聞いてくる。
「僕らはもう頂いたよ。ね、姉さん。」
「そうね、お茶はさっき子供部屋でおやつと一緒に頂いたわ。ありがとう、母様。」
ロッティーが母さんに目を向けながら返事をした。
「そう、アベルはマーガレットたちとおやつを頂いたんでしょう?おしゃべり楽しかった?」
母さんは楽しそうに微笑みながら俺に聞いてくる。
「おやつ頂戴って、ジョージとマーガレットに甘えちゃったんだけどね。楽しかったよ、いろんな話をしたんだ。」
「そう、良かったわね。マーガレット、気を使わせて悪かったわね。ありがとう。」
「滅相もございません、奥様。アベル様はヴァレンタイン家の宝でございますから。私共も一緒に居れて幸せなのです。」
マーガレットは言い終えると丁寧なお辞儀をする。
その横でエレナはニコニコしていた。
二つ食べたドーナツのことでも思い出しているのだろうか。
思い出すのはユーリとのデートのことであってくれ。
「あなた達、三人で何処へいくの?って、図書室よね。あなた達なら聞くだけ野暮だったわ。」
「そうだよ、英雄王ノヴァリスのことを調べに行くのさ。」
「また、変わった題材を見つけたわね。あまりハンスに迷惑を掛けちゃ駄目よ。」
母さんはにべもない。
「そうだね、気を付けるよ、ね、姉さん。」
俺は当たり障りなく姉さんに振った。
「分かっているわ、母様。ハンスに迷惑を掛けたことないもの。」
へっ!?なんですと?
「嘘おっしゃい、あなた、お城の改善案の資料作りに、ハンスに無理難題押し付けたそうじゃないの。知っているんですよ。」
「チッ」
おいこら!ロッティー!
「シャーロット様!?」ロッティーの舌打ちにマーガレットが目を回す。
「こら!貴婦人が舌打ちなんてするんじゃないの。アベルに似たのかしら。」
俺かよ!
「僕に!?母さんじゃないの?」
「私は舌打ちなんてしないわよ。淑女ですから。」
得意げに顎を上げる母さん。
「左様ですか。さあ、姉さん図書室に行こう。」
「あら、もう行くの?楽しかったのに。」
薄目を開け、からかうように母さんは俺を煽る。
「母さんとの会話は、気が休まらないよ。」
俺はやれやれという感じで言った。
「隠し事をしているからよ。」
この人なにを知っているというのだ?コワイ…
「アベル、なにか隠しているの?」
ロッティーが不思議そうに俺に聞く。
「なにも隠してないさ。母さんは時々こうやってカマをかけるのさ。知っているだろ?」
内心冷や汗ものだが。
「あら、私を賭場のディーラーのように言わないでほしいわね。」
はいはい、もう分かったよ。
「んもう、ああ、そうだった。母さん、そろそろ魔法を教えてほしいんだ。アンネも一緒にね。」
今まで空気だったアンネを引き合いに出した。
「アンネちゃん、魔法を使いたいの?」
母さんはアンネの顔を見て聞いてる。
「はい…よろしいでしょうか?」
「当然よ、あなたは私の娘同然ですもの。マリアさんには私から言っておくわ。だから大丈夫よ、アンネちゃん。それからアベルも。」
「なんだよ、人をついでみたいに。」
「ありがとうございます。アリアンナ様。」
小さくお辞儀をしながらアンネが母さんにお礼を言う。
「けどアンネちゃん、この中にずるい人間が居てね。もうフライングしているみたいだから、頑張らないと、追いつけないわよ。」
俺の顔を見ながら、クククと含み笑いをする母さん。
もう嫌だこの人。
「アベル、フライングしているの?」
ほらロッティーまで…
「いつものカマかけだって。母さん、魔法の修練よろしくね。アンネのこともありがとう。もう行くよ。」
「わかったわ、アンネちゃん、アベルをちゃんと連れてきてね。アベルも新しい魔法教えてね。ロッティー、二人をよろしくね。」
俺は脂汗をダラダラ流しているわけだが。
「アベル様、お顔の色がよろしくないようですが、大丈夫ですか?」
マーガレットが心配してくれる。ありがとう。
「ありがとう、平気だよ。じゃあね。」
「待って、アベル。新しい魔法って?」
「もう行くよ姉さん。」
爽やかなはずの木漏れ日の中、俺はフラフラと図書室へ足を運んだ。
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