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46.アベルくんと頼りになる大人。

46.アベルくんと頼りになる大人。




 「姉さん、夕食にまでには時間があるから、図書室へ行かない?」


 「あら、いいわ。行きましょう。アンネローゼ、あなたも一緒に行きましょう。一人で居るよりいいでしょう?」

 図書館と聞いてロッティーは即決だ。アンネのフォローも欠かさないのはお利口だ。


 「はい、シャーロット様。」

 アンネは静かに同意する。


 「アベルは何か読みたい本があるの?」


 「ちょっと英雄王に興味があってね。」


 「英雄王ノヴァリス様に?どんな興味があるの?」


 「普通は英雄であるとか、国父であるとかがクローズアップされるんだけどさ、教育制度の制定とか、インフラ整備とか、いろんな発明をしてるでしょ。どんな人なのかなって興味があるんだ。」


 「確かに才能豊かな人だったようね。私も気になって来たわ。」


 「ヴァレンティアにある下水道処理場があるでしょ。あれも英雄王ノヴァリスの発明だって姉さんが言っていたでしょ。1500年前に、どういう発想を持ったらあんなものを発明できるかすごく不思議じゃない?」


 「そうね。私も興味があるわ。早速行きましょう。」

 ロッティーは椅子から降りると出口に向かった。


 俺とアンネも椅子から降り出口向かう。


 「ほら、行くよ。」

 廊下に出たところで、もたついているアンネローゼに手を差し伸べる。


 「はい、アベル様。」

 アンネはおずおずと俺が差し伸べた左手を握った。


 俺とアンネのやり取りを見ていたロッティーは

 「あら、アンネローゼ、独り占めは良くないわ。」

 と言って、俺の右手を握りしめる。


 「ん~~?まあ、いいか。行こう。」

 突っ込むのも面倒くさい。

 俺は半ば強引に歩き出した。


 図書室は庭園を挟んだ離れにある。

 よって目指すは庭園だ。



 庭園に向かう途中の廊下で、とある人物と出会う。

 

年の頃は30前半、見た目は中肉中背。髪はオールバックで顔には皮肉っぽい笑みが張り付いてる。

 


 筆頭文官のネスだ。



 「おや、坊っちゃん、モテモテだな。ヒュー、羨ましい。」

 やや棒読みでからかってくる。


 ネスは優秀な文官だが、口調がとても砕けていて軽い。

 俺はそんなネスを気に入っているんだけどね。

 爺ちゃんも父さんも文句がなさそうなので、彼らも気にしてはないんだろう。


 「そうだろ、彼女らが僕を放してくれないんだよ。」

 俺は両隣の二人を抱き寄せ、ネスを見上げながら悪びれずに言った。


 「たーーっ!なんだ!この3歳児。末恐ろしいな。」

 手で顔を抑え、天井を見上げるネス。


 「父さんのところへ行くのかい?」

 冗談はさておいて、とりあえず聞いてみる。


 「そうさ、嬢ちゃんと坊っちゃんが、なんちゃらってな計画書なんて物をご領主に提出してくれたおかげで、ご領主や周りの文官との打ち合わせが増えてね。まあ、坊っちゃんたちがやりたいことはわかっているから、文句はないがな。」


 ネスは俺を見ながらもごもご言ってる。

 「なに、文句ありそうじゃん。」

 俺がそう言うと

 「文句ねーってんだろ。ご領主の今の仕事量を減らそうって目論みは十分承知してんだよ。だから俺も可能な限り協力させてもらうさ。」


 ネスはそう言い切った後ニヤリと笑い、続け

 「親父思いの良いご姉弟だな。」

 ネスはフンッっと鼻を鳴らし顎を上げた。


 「ネス、協力してくれて感謝します。官僚養成学校設立の折には、教諭の任も命じられると思いますが、カリキュラムのお勉強もよろしくお願いしますね。」


 ロッティーはそう言って満面の笑みを作る。


 「嬢ちゃん、そりゃマジかよ!ちょっと退職願書いてくる。」

 こやつめ、ハハハ

 

「そんなことやって、奥さんにバレたらどうすんの?」

 彼は極度の恐妻家ともっぱらの評判だ。


 「坊っちゃん、カンベンしろって。」

 ネスの顔色がマジで悪くなる。

 本当にシャレにならないらしい。


 「ところでさ、まじめな話、他の文官たちの評判はどう?協力的であってくれてればいいんだけどね。」

 俺は率直に聞いてみた。


 「まあ、今までどおりじゃなくなるってのは、少なからず反発はあるよな。坊っちゃんたちもわかってるだろ?ただ、ご領主の様子がわかっている奴らは、おおむね改革案には賛成みたいだ。ただし、人員を増やしてくれればって要求は付いて来るけどな。」

 まじめな顔のネスが俺を覗き込んで言う。


 「しばらくはそう言った要求を包括しつつ走りながら進むしかないかな。実務に関係ない僕たちが口をはさんで申し訳ないんだけどさ。ヴァレンタイン領の未来のためによろしく頼むよ。」

 俺は神妙な顔をしてネスに話した。


 「何言ってんだ、自分の代で仕事を楽したいだけだろ!バレバレだってんだよ。」

 ネスはそう言って皮肉そうな笑みを浮かべた。


 「そっか、バレてたか。そりゃ仕方ないね。でも今やらないと父さんが潰れそうだってのは確かだしさ。見てらんなかったんだよ。」


 「分かってるよ。だから嬢ちゃんと坊っちゃんは後ろで指示してくれるだけでいい。俺とヨハンの旦那で何とか文官をまとめてみせるよ。大人は頼りになるもんだって見せてやるさ。」


 「おお、かっこいい~。」

 俺とロッティーが思わず拍手をしてしまう。


 「よせよ、もう行くわ。じゃあな。」



 ちょっと恥ずかしそうにそう言って後ろ手に右手を上げ、ネスは父さんの執務室に向かった。



ここまで読んでいただき、有難うございます。

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