40.アベルくんと無敵と一閃。
40.アベルくんと無敵と一閃。
キン、キンと剣の刃が打ち鳴らされ、戦闘は続いていく。
つばぜり合いをしながら
「アベルが騎士団を巻き込んで賭けを始めおったぞ。」
エドワードがローランドの目を見ながら言う。
「オッズが気になるかい?親父。」
ローランドは軽口を言う。
「ふん、わしに掛け金が集まっておるに決まっておるわい。」
エドワードはニィっと唇をゆがめ、剣を振り上げながら会話を続ける。
エドワードの一振りをスウェイでかわしながら
「もう、歳なんだから、ご自愛なさいよ。」
皮肉を言うローランド。
「なんの、わしはこれからだ。ん?ヨハンも来よった。」
話しながら、ローランドの剣を受け流すエドワード。
「ホントだ、早く切り上げないと小言が五月蠅そうだ。」
ローランドがそう言うと
「ヨハンは五月蠅いからの、だが、負けてはやらんがな。」
剣を振り下ろしエドワードが言った。
「あ、ヨハンが一枚銀貨を取り出した。よくヨハンを巻き込めたな、アベルは。」
袈裟斬りを跳ね返されたローランドは、逆袈裟で斬り返す。
エドワードはそれを自分の剣ではね上げつつ
「あの歳であの擦れ方は大したものだぞ。」
ローランドとの間を詰める。
「あれはね、セントクレア侯爵家の血が濃いんだと思っているよ。我々ヴァレンタイン家の血じゃない。」
そう言いながら、上段に振りかぶるローランド。
「うむ、違いない。」
エドワードも上段に振り下ろした剣が互いの剣に当たり、両者とも距離を取った。
*******
「父さんが不利と言っても、すぐには決まらないよね。流石に粘る、粘る。」
俺は団長の肩の上でローランド父さんとエドワード爺ちゃんの対戦を眺めながらのんびり言った。
「アベル様はどちらから習いたいのですか?」
ヨハンが俺に聞いてくる。
「ほう、それは興味のある話題ですな。」
団長も俺の答えを聞きたいみたいだ。
「正直に言えばどちらでもいいんだよね。どっちも優しいし。無理な特訓とかしないと思っているんだ。僕は父さんも爺ちゃんも大好きだしね。『剣では無敵』と『一閃の剣』を比べて選んだら、世界中の剣士に怒られそうだよ。」
俺はそう言って笑う。
「確かに、無敵と一閃、あのお二人のどちらかに師事した時点で剣士としての誉れ。比べようがありますまい。」
団長は深くうなずいてそうつぶやいた。
俺は続けて
「剣だけじゃなく、ロッティー姉さんの様に母さんから魔法も習いたいんだ。ただ剣の才能があると、魔法が使えなくなるという話を聞いたんだけど、それだけが残念かな。」
と、言った。
「そうですね、近接戦闘が得意な戦士は、事象へのイメージが難しくなる特性があるようです。これはいまだに解明されていない、魔法の謎の一つですね。」
そう言ってヨハンが教えてくれる。
「ですが、まるっきり使えないわけじゃないのですよ。魔素を感じることが出来れば、身体強化などのバフは戦士必須の魔法になるのです。」
そう団長も教えてくれる。
「ふーん、そうなんだね。」
二人にはそう言ったが、まあ、その内容は知っていた。
俺が新生児の頃に、ベビーベッドの傍でロッティーが母さんから受講していた魔法訓練で、アリアンナ母さんが魔法使いと剣士の違いを語っていたからな。
魔法自体はもう使えている。自分の部屋を貰ってから練習したしね。魔法を使えるのは皆には秘密にしているけどさ。
流石に教えてもいないのに、魔法が使えるなんて言ったら驚くでしょ。これくらいの空気は読めるよ。
そこから剣を覚えると何故、魔法の事象に対するイメージが雑になるのかを知ってみたいんだ。
皆の発言をまとめてみると、3歳から剣も魔法も修練を始めた人間はいないみたいだしね。
これが俺にどう反映するのか、楽しみではある。
「そう言えばさ、ヨハンも武術が出来るんでしょ?以前、誰かから聞いた気がする。」
率直にヨハンに聞いてみる。
「そうですね、私の場合、剣術や槍術のような武術と違いますね。ヴァレンタイン家にお世話になる前、とあるところで間諜を生業にしておりましたので、剣や槍よりこちらのほうが私は得意です。」
そう言うヨハンの手には、いつの間にか前世の日本で言う所の暗器のようなものが握られていた。
ふぅ~、おっかな~い。
「それは暗器ですな。」
団長ったらストレートに聞く。
「そうですね。エルフの里で伝わる暗器です。エルフは自然の中に溶け込む術に長けていますから、時々私のような間諜を生業にするものも出てくるのです。」
そう言うと同時に、暗器はどこともなく消えてしまった。
「人に歴史ありだね。」
俺が言うと
「アベル様が3歳児と言うことの方が不思議です。」
とヨハンに返された。
まあ、俺ってば中身は37歳児だけどね。
おや、俺を乗せている肩が不自然に揺れている。団長め、笑ってやがるな。
「あら、こちらはにぎやかね。」
おや、この明るく華やかな声の持ち主は、わが母アリアンナ母さんじゃないか。
鮮やかな栗色のウェーブのかかったロングヘアを翻し、ゆったりとした臙脂色で厚手の生地のワンピースを着た母さんの見た目は、そりゃもう見目麗しいわな。
ブラウンの瞳、高すぎず緩やかなカーブを描く鼻梁、少しだけ下唇が厚みがある、薄っすら赤い唇。
もうね、2児の母には見えませんよ。
なんで厚手のワンピースなんか着てるかって?
そりゃあんなデカいものを目立たなくするためだろう。
この世界はブラがないんだよね。作ったら売れるかもな。
「アベル様、こちらにおいででしたか。」
こちらのまた静かでおしとやかな声の主は、我が乳母マリアさんではありませんか。
綺麗どころのお二人が同時に登場とはね。俺にとってはどちらも母なんだが。
「二人そろってどうしたの?」
率直に聞いてみた。
「ローランドもお義父様もアベルもいなかったから探しに来ただけよ。ね、ロッティー。」
え、ロッティーも居たの。肩車してもらっているから、見えなかったんだ。
「そうよアベル、あまり私の目の届かないところへ行くものではないわ。」
ロッティーが真面目な顔をして変なことを言う。
俺がどこへ行こうと自由なはずだ。
行くものではないわと言われましても。
ロッティーの容姿は、もう神が造りたもうたって感じ。
顔の作りはもう父さんと母さんの良いとこ取りって感じだよね。
髪は栗色、瞳はダークブラウン。
瞳の奥は普通の8歳の少女には無い、凛とした芯の強さが見える。
そしてその笑顔は、静かに咲く可憐な百合の花も陰るような、破壊力抜群の美少女だ。
どうもそのロッティーは俺を束縛しようとするきらいがある。
ブラコンか?
いやいやいや、そうじゃあるまい。
たぶん。
きっと。
うーん…
「アベル様…」
おや、アンネローゼも居たのかい。
綺麗なサラサラの金髪が揺れている。
耳は人よりちょっと長いかなってくらいだ。
クォーターだからか?
血が薄まると耳も短くなるのかな?
面白いね。
この子もエルフの血を引くだけあって美少女だ。
なんだかこの家族の中にいると、美的感覚が狂いそうだ。
そして、サファイアのような碧眼が俺を見つめていた。
「アンネも来たの?探しに来てくれたのかい?」
俺がそう言うと
「はい。アベル様が居ないと心配です。」
そんな過保護な。
おまえと俺は同い年じゃないか。
どうも女衆が揃っているということは…
「アベル様、そんな高い所に上がるのは危ないですよ!」こう叫んでるのはローズ。
狼耳がぴょこぴょこはねてる。
しかし俺はわかるぞ、尻尾がブンブン振れているのを。
皆が集まっているもんだから、楽しくなっているだろ。
「チャールズ騎士団長様の上なら心配ない、アベル様を落とすようなことは絶対ない。」
こっちの冷静なのはリサだな。
小さな背丈の、素朴で年相応の可愛らしい顔の金髪おさげ娘が、冷静に俺と団長を表している。
やっぱり二人も来てたのか。
「ええ、この身がどうなろうとも、アベル様を地に落としたりはしませんぞ。」
などと団長が大げさなことを言った。
ここまで読んでいただき、有難うございます。
☆の評価ポイントとブックマークで得られる作者の栄養があります。
よろしければ、下にある☆とブックマークをポチっとしていってください。
どうかよろしくお願いします。
この作品を気に入ってくださると幸いです。