38. アベルくんと爺ちゃん。
38. アベルくんと爺ちゃん。
父さん、ギルおじさんと話した数日後、気持ちが良い澄んだ空気の朝、なぜか俺は修練場にいた。
「よし、来たな!」
やけに元気な声の主はエドワード爺ちゃんだ。
爺ちゃんは切りそろえた白髪交じりの短い髪に、渋くも優しい笑みが張り付いた顔をしている。
ちょっとほうれい線や目じりの皺も目立ってきたかな。
還暦近いんだから仕方ないよね。
身長は180㎝近い。
鍛え上げられた身体の見た目は全然衰えなど見えない。
そんな爺ちゃんが剣を持って笑っている。
そう、エドワード爺ちゃんに呼び出されたのだ。
「アベルにはこれだ。」
そう言って俺に小さな子供用の木剣を渡す。
「爺ちゃん、剣の修練をするとは聞いていないよ?」
俺は爺ちゃんに問うた。
「ローランドから剣の修練をするって言われたのであろう?」
剣を構えながら俺に言う。
「この前ギルおじさんが来ていた時に言っていたね。」
俺が素直に答えると
「ならばわしが剣を見てやろう。」
とエドワード爺ちゃんはそう言ってニカッと笑う。
「大丈夫?父さんとケンカしないでね。」
これ不味いんじゃないの?
俺がアベルの修練をやるって言ったのに、とか始まるんじゃないのか、これ。
エドワード爺ちゃんは
「大丈夫だ、まだローランドには負けん。」
などと言うから
「そういう事じゃないよ!」
俺は思わず大声で突っ込んだ。
「うむ、アベル、今のは良い気合いだ。さて、ではやるか。」
爺ちゃんはサッパリ人の話を聞いてない。
「アベルはまだ3歳の幼子だからな、身体を痛めつけるような修練はせん。剣の型を覚えてもらう。良いな。」
爺ちゃんは姿勢をスッと正すと、今までののんびりした雰囲気から、怖い圧力のようなものを身に纏った感じがした。
「アベル、見ているがよい」
エドワード爺ちゃんはそう言うと、右手で持ったブロードソードをブンブンと振り回す。
右手正面に一回、続いて袈裟斬りで一回、逆袈裟で一回。
そしてまた正面を斬り下ろす。
スッと、身体の向きを180度変え、また同じ型で素振りを行う。
どんどんスピードが上がる。
ブロードソードがヒョンヒョンと風切り音をおこす。
ソードの残像が爺ちゃんの腕を追いかけるように見える。
俺は「へぇ…」とやや呆けて見ているだけだった。
最後に一閃し、顔の正面で剣をスッと掲げると、俺の方を向いて
「どうだ?」
と得意げな笑みで聞いてきた。
俺は思わず拍手しながら
「爺ちゃん凄い!やっぱり爺ちゃんは凄いなぁ」
と、本気で言った。
エドワード爺ちゃんは少し照れくさそうに
「そうか、そうであろう。」
と言い、続いて
「それでアベル、見て覚えたか。」
と、聞いてきた。
「うん、見えてたよ。」
と、俺が答えたら
「ほう、ではゆっくりでいいからなぞって見るがいい。」
と言うエドワード爺ちゃん。
「うん、じゃ、ゆっくりやってみるね。」
俺はそう言うと木剣をもってまっすぐ見据えた。
右手で木剣を持って、その正面に一閃、くるっと回してから袈裟斬りを一回、次は逆袈裟で一回、持ち上げた剣でまた正面に一回。
出来たと思うが、さてどうだろうと思ってエドワード爺ちゃんを見る。
「うむ、良く見えておったの。上出来だ。」
そう言って満足そうに爺ちゃんはうなずいた。
しかしこの身体は動体視力が半端ない。
爺ちゃんが振り回す剣先が良く見えるんだから、ぶっ壊れ性能と言ってもいいだろう。
「しかしわしの剣が良く見えとったのう。大したものだ。」
とか爺ちゃんが言うから
「爺ちゃんの型は全然ぶれずに綺麗だからね。良く見えたよ。」
と、俺は言った。
「そうか、アベルは目がいいのかもしれん。さて、では続けて型をなぞりなさい。」
と、言われたので
「はい」
と、答えて型の練習を続ける。
剣を振りながら
「爺ちゃん、剣の修練て3歳くらいからするものなの?」
と、聞いてみた。
「いや、せんな。せいぜい5歳くらいからだ。普通の3歳児は親の言うことをおとなしく聞くことなどないのでな。アベルは普通ではないのだろう。ワッハッハ」
豪快に笑いだすエドワード爺ちゃん。
「なんだよ人を普通じゃないって。」
まあ普通じゃないけどな。
「そりゃそうだろ、あれだけの城の行政改革案を一人で発案する3歳児などおるまい。」
まだ笑いながら話すエドワード爺ちゃん。
「それじゃ、父さんはどうだったの?」
これはわりと興味のある案件だったんだよね。
「ローランドか、あれが始めたのは5歳くらいからだったと思う。近衛騎士団の修練場の隅で、無心に剣を振っておった。あれもアベルと同じで天才だったのだ。15歳でわしと剣技では同等くらいになりおっての、近衛騎士団の中でも勝てる者が居なくなっておった。これじゃ騎士学校に入っても面白くないと思ったのであろう、腕試ししたいと止めるのも聞かんで冒険者になりおった。」
エドワード爺ちゃんはしみじみ語った。
「15歳でエドワード近衛騎士団長と剣技は同等か。そりゃ天狗になっても仕方ないよね。」
ハハハと二人で笑っていると
「誰が天狗だって?」と声がした。
あれ、天狗のローランド父さんじゃないか。
ここまで読んでいただき、有難うございます。
☆の評価ポイントとブックマークで得られる作者の栄養があります。
よろしければ、下にある☆とブックマークをポチっとしていってください。
どうかよろしくお願いします。
この作品を気に入ってくださると幸いです。