表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/361

38. アベルくんと爺ちゃん。

38. アベルくんと爺ちゃん。




 父さん、ギルおじさんと話した数日後、気持ちが良い澄んだ空気の朝、なぜか俺は修練場にいた。


 「よし、来たな!」

 やけに元気な声の主はエドワード爺ちゃんだ。


 爺ちゃんは切りそろえた白髪交じりの短い髪に、渋くも優しい笑みが張り付いた顔をしている。

 ちょっとほうれい線や目じりの皺も目立ってきたかな。

 還暦近いんだから仕方ないよね。


 身長は180㎝近い。

 鍛え上げられた身体の見た目は全然衰えなど見えない。


 そんな爺ちゃんが剣を持って笑っている。


 そう、エドワード爺ちゃんに呼び出されたのだ。


 「アベルにはこれだ。」

 そう言って俺に小さな子供用の木剣を渡す。


 「爺ちゃん、剣の修練をするとは聞いていないよ?」

 俺は爺ちゃんに問うた。


 「ローランドから剣の修練をするって言われたのであろう?」

 剣を構えながら俺に言う。


 「この前ギルおじさんが来ていた時に言っていたね。」

 俺が素直に答えると


 「ならばわしが剣を見てやろう。」

 とエドワード爺ちゃんはそう言ってニカッと笑う。


 「大丈夫?父さんとケンカしないでね。」

 これ不味いんじゃないの?

 俺がアベルの修練をやるって言ったのに、とか始まるんじゃないのか、これ。


 エドワード爺ちゃんは

 「大丈夫だ、まだローランドには負けん。」

 などと言うから


 「そういう事じゃないよ!」

 俺は思わず大声で突っ込んだ。


 「うむ、アベル、今のは良い気合いだ。さて、ではやるか。」

 爺ちゃんはサッパリ人の話を聞いてない。


 「アベルはまだ3歳の幼子だからな、身体を痛めつけるような修練はせん。剣の型を覚えてもらう。良いな。」

 爺ちゃんは姿勢をスッと正すと、今までののんびりした雰囲気から、怖い圧力のようなものを身に纏った感じがした。


 「アベル、見ているがよい」


 エドワード爺ちゃんはそう言うと、右手で持ったブロードソードをブンブンと振り回す。

 右手正面に一回、続いて袈裟斬りで一回、逆袈裟で一回。

 そしてまた正面を斬り下ろす。


 スッと、身体の向きを180度変え、また同じ型で素振りを行う。

 どんどんスピードが上がる。

 ブロードソードがヒョンヒョンと風切り音をおこす。


 ソードの残像が爺ちゃんの腕を追いかけるように見える。


 俺は「へぇ…」とやや呆けて見ているだけだった。

 最後に一閃し、顔の正面で剣をスッと掲げると、俺の方を向いて

 「どうだ?」

 と得意げな笑みで聞いてきた。


 俺は思わず拍手しながら

 「爺ちゃん凄い!やっぱり爺ちゃんは凄いなぁ」

 と、本気で言った。


 エドワード爺ちゃんは少し照れくさそうに

 「そうか、そうであろう。」

 と言い、続いて

 「それでアベル、見て覚えたか。」

 と、聞いてきた。


 「うん、見えてたよ。」

 と、俺が答えたら

 「ほう、ではゆっくりでいいからなぞって見るがいい。」

 と言うエドワード爺ちゃん。


 「うん、じゃ、ゆっくりやってみるね。」

 俺はそう言うと木剣をもってまっすぐ見据えた。


 右手で木剣を持って、その正面に一閃、くるっと回してから袈裟斬りを一回、次は逆袈裟で一回、持ち上げた剣でまた正面に一回。

 出来たと思うが、さてどうだろうと思ってエドワード爺ちゃんを見る。


 「うむ、良く見えておったの。上出来だ。」

 そう言って満足そうに爺ちゃんはうなずいた。


 しかしこの身体は動体視力が半端ない。

 爺ちゃんが振り回す剣先が良く見えるんだから、ぶっ壊れ性能と言ってもいいだろう。


 「しかしわしの剣が良く見えとったのう。大したものだ。」

 とか爺ちゃんが言うから

 「爺ちゃんの型は全然ぶれずに綺麗だからね。良く見えたよ。」

 と、俺は言った。


 「そうか、アベルは目がいいのかもしれん。さて、では続けて型をなぞりなさい。」

 と、言われたので

 「はい」

 と、答えて型の練習を続ける。


 剣を振りながら

 「爺ちゃん、剣の修練て3歳くらいからするものなの?」

 と、聞いてみた。


 「いや、せんな。せいぜい5歳くらいからだ。普通の3歳児は親の言うことをおとなしく聞くことなどないのでな。アベルは普通ではないのだろう。ワッハッハ」

 豪快に笑いだすエドワード爺ちゃん。


 「なんだよ人を普通じゃないって。」

 まあ普通じゃないけどな。


 「そりゃそうだろ、あれだけの城の行政改革案を一人で発案する3歳児などおるまい。」

 まだ笑いながら話すエドワード爺ちゃん。


 「それじゃ、父さんはどうだったの?」

 これはわりと興味のある案件だったんだよね。

 

 「ローランドか、あれが始めたのは5歳くらいからだったと思う。近衛騎士団の修練場の隅で、無心に剣を振っておった。あれもアベルと同じで天才だったのだ。15歳でわしと剣技では同等くらいになりおっての、近衛騎士団の中でも勝てる者が居なくなっておった。これじゃ騎士学校に入っても面白くないと思ったのであろう、腕試ししたいと止めるのも聞かんで冒険者になりおった。」

 エドワード爺ちゃんはしみじみ語った。

 「15歳でエドワード近衛騎士団長と剣技は同等か。そりゃ天狗になっても仕方ないよね。」

 

 ハハハと二人で笑っていると

 「誰が天狗だって?」と声がした。



 

 あれ、天狗のローランド父さんじゃないか。



ここまで読んでいただき、有難うございます。

☆の評価ポイントとブックマークで得られる作者の栄養があります。

よろしければ、下にある☆とブックマークをポチっとしていってください。

どうかよろしくお願いします。


この作品を気に入ってくださると幸いです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ