表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
373/373

359.アベル君と思ひで劇場。

359.アベル君と思ひで劇場。




「二人きりで出掛けるのは久しぶりじゃない?」

 俺は隣の席のローズに話しかける。


 小さな馬車の席だ。

 本当は対面に座ればいいんだが、そこはね、あるじゃん。


 いろいろとさ。

 みなまで言わせんな馬鹿!


 「そうですね、セントクレア邸まで行ったっきりですね。」

 え!?マジ?


 帰り際に暴漢から襲われたときだろ?

 あれから外に二人だけで出掛けていないって…


 「それから出掛けなかったっけ?」

 「出掛けていませんね。」


 「本当にごめん。」


 「いえ、いいんですよ。アベル様はどこへ行っても事の中心におられる方ですし。なかなかこういうお時間を頂けないのは百も承知ですから。」

 「今日はうんと甘えていいからね。」


 思いも知らないことが口から出たが、まあ、これくらいはどんとこいだ。

 「いいんですか?」


 ローズが真顔で聞いてきた。

 「いいよ、勿論。」


 俺がそう答えると、ローズは俺の肩に顔をうずめクンカクンカやり始めた。

 「あ、ローズさん匂いは止めて。ハズイから。」


 「甘えていいって言って下さったじゃないですか。」

 「いや、甘えんのはいいんだけどさ。体臭を嗅がれるのは、どうにもこうにも座りが悪くなるからさ。」


 ローズは狼獣人という特性上、匂いに敏感であり、匂いで性的興奮もする。

 知っていますとも。


 俺の洗濯物で一人上手していたことも。

 言わないでおいたけどね。


 その姿を思い出し、俺も一人で致しましたが、何か?

 これらは俺が成人する前、十三~四の精通が済んでんのにもかかわらず、成人していないから娼館へ行って済ますわけにもいかず、メイド達に手を出すなど以ての外の頃の話だけどさ。


 よって、その頃はまだローズも俺の内縁の妻ではなく、しかし健康的な十八~九の女性だったから致し方ないよね。

 とにかく、群れのリーダーの匂いはいろんな意味で重要なんだそうだ。


 とにかく、そんな俺の拒否の言葉がことのほか悲しかったのか、ローズの目に涙が浮かぶ。

 ちょっと整理をしてみよう。


 甘えさせてあげる → わーい!クンカクンカ → ちょ、おま、やめ → えー!グスン。


 このフローチャートだと確かに俺が悪い。

 ええい、ならば仕方ない。


 俺は涙ぐむローズに両手を広げ

 「ほら、ローズ、おいで。」


 もうそう言うしかなかった。

 すると、ドスン、とローズは飛び込み、俺の首から胸から脇からを永遠に嗅ぎ続ける。


 そこの御者のおっちゃん、笑って見てんの分かってんだからね。

 チップ減らしたろ。


 抱き着かれ、体臭嗅がれレイプされたまま、馬車はロータリーに到着した。

 果たして、体臭を嗅がれることが、後に俺の性癖に加わるかどうかはまだ分からない。


 性癖に加わって欲しいような欲しくないような、そんな微妙な感情を抱きつつ、御者のおっちゃんに正規料金と三割減のチップを払い、馬車を降りた。


 「懐かしいですね。」

 スッキリした面持ちのローズが明るい声で俺に呼び掛ける。


 この声と顔が見られただけで、俺の精神汚染には意味があったのだ。

 そう自分を慰めつつ、


 「そうだな。では劇場に向かおうか。」

 そう言って、俺はローズに肘を突き出した。


 その肘の輪にローズは腕を通し、お互いの腕を絡める。

 そして満足そうに微笑んだ。


 俺もその笑顔に向かって笑顔を返し、歩み始める。

 でも、なんでこんなに疲れているんだろう?


 さっぱり意味が分からない。

 誰か!このロータリーの中にお医者様は居ませんか!?


 などと叫びたい衝動を抑え、にこやかなローズと歩みを進める。

 じきに劇場の掲示板が近づいて来た。


 「どれどれ、今日の演目は…」

 「「お貴族冒険者の大冒険!」」


 奇しくもユニゾンをした二人は顔を突き合わせ、同時に苦笑いをする。

 「父さんと母さんのあの演劇か。」


 「超一流剣士、旋風の剣ローレンと、若くして大魔法使い、閃姫アリーナの大冒険ですね。」

 ローズが副タイトルを諳んじる。


 「お前、よく覚えているねぇ。」

 「大切な思い出ですから。」

 

 10年前の思い出か。

 あの頃は俺のことをあきらめさせようと必死だったなぁ。


 だってさ、妾の地位って思いクソ低いんだぜ?

 そんなところに大事なローズを置けるわけないじゃんって、ずっと考えていた。


 だけど、ローズの意志は固かった。

 俺が思う以上に固かった。


 だから俺も腹を決めたしロッティー以外の家族も祝福してくれた。

 あとでロッティーもローズと仲直りしたみたいだしね。


 そんな山あり谷あり有ったのよ、能天気に見える俺たちにもね。

 「さて、どうする?」


 俺はローズに聞いてみた。

 「決まっているじゃないですか。見ましょう!」


 「よっしゃ!じゃ、チケット買うか。」





 俺はローズを連れて貴族用チケット売り場に足を向けるのであった。


読んでいただき、有難うございます。

本作は長編となっています。

続きを間違いなく読みたい場合はブックマークを。

作者がんばれ!

面白いよ!

と、思っていただけたなら、それに見合うだけの☆を付けて頂けると幸いです。


それでは、また続きでお会いしましょう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ