357.アベル君と魔法女教師との攻防。
357.アベル君と魔法女教師との攻防。
「アベル・ヴァレンタインちょっと来なさい。」
トラの獣人、タイガーストライプヘアのライラ女史に声を掛けられ、引っ張られるように、職員室に連れ込まれた。
職員ごとにパーティションで区切られ、日本の公立学校の職員室のような雑多な感じはしない。
ライラ女史は、自分のパーティションの机の椅子に座り、俺はその脇で立たされている。
「一体どういうことだ?」
主語を抜かすなよ。
教師にあるまじき言語の使い方だ。
「何のことでしょう?」
俺は静かに聞き返す。
「あの修練場で多人数に行っているあれのことだ。魔法初心者うんたらとか言う。」
「ああ、魔法初心者なんちゃらのことですね。」
「なんちゃらとはなんだ。ヴァレンタイン君、君が主宰をしているのは分かっている。名前くらいちゃんと言いなさい。」
そうか、名前なんて決めていなかったな。
「特に名称は有りませんが。」
「あれだけの団体を集めているのに名称を決めていないと?」
そう言うと、ライラ女史は眉を顰める。
「まあ、いい。具体的活動内容を言いたまえ。」
「ええ、構いませんよ。基本的にはこうです。魔素を感じ、魔素溜りに魔素をため込むための練習。」
「馬鹿な!君は講習料でも取っているのか!」
「いいえ。金銭の授受は有りません。」
「それは多くの家が家庭教師を大金で雇い習わせるもの。君はそれを無料で施しているというのか。」
「施しているつもりはありませんよ。ただ、優れた騎士には魔法が不可欠。それを学びたいと申した者たちに、魔法の間口を広めただけです。」
「しかし、君ら学生は既に十五歳以上の者たちばかりだ。無駄足になるとは思わんのか?」
「それは常に考えております。ただし、向上心を無くすような者は、騎士にもふさわしくないとも思っておりますので。」
とでも、ハッタリをかましておこう。
そんな高尚な趣味は無いからね。
「むっ!」
俺の言葉に次の言葉を言いよどむライラ女史は、俺のことを怖い顔で睨む。
まあ、儲けていた人たちのあがりを取るようなことになりかねないからね。
ただし、ライラ女史も言ったとおり、十五歳以上といった年齢は、魔法を習うのには出がらしと同じだ。
魔素の魔すら感じない恐れの方が大きい。
だから、その年の子供たちにカテキョを雇う人もいないし、カテキョの方でも魔法の習得確率の低い生徒なんて願い下げのはずだ。
でもいいじゃん。
挑戦したいって言ってんだからさ。
むしろさ、魔法の教師がこれを教えていない方が問題だと思うんだよね。
「僕から言わせて頂けば、僕が教えなくてもライラ先生が生徒に教えるべきでは?」
「なんだと!私のあの家庭教師どもと同じことをせよというのか!」
「お金なんて取れないでしょ。教師の給料分働いてください。」
「うぐっ!」
口をつぐんだライラ女史は、血走ったさらに迫力のある眼光で俺を睨みつけた。
「先生の言い分はだいたいわかりますよ。十五歳までのほほんと魔素の魔の字も知らずに生きてきた者たちに、その神秘を見せるなど片腹痛い。第一、今から教えても無駄足ではないか。って感じでしょ。」
「君は私をどうやら悪徳教師とみているようだな。」
「そんなことはありません。損得勘定で教師としての先生の立場を鑑みれば、正義は先生の方にあると僕も思います。」
「やはり守銭奴たちと同じだと論じておるではないか!」
「はて?さようでしょうか。給料分以上の仕事をしたくないと思うのは自然な事では?」
「先程は給料分の仕事をしろと言ったではないか。」
「ええ、申しました。生徒の魔法スキルの向上を図るのは、魔法講師の仕事だと思いましたので。しかし、先ほど言いました通り、先生の立場を損得…」
「もうよい!分かった、確かにもう十五歳以上で魔素を感じ取れぬような出がらしどもを、私は指導しようとは思わなかった。」
「ぶっちゃけましたね。」
「黙っていても君が勝手に言語化していくであろう?」
「想像の域を脱しませんが。」
「やかましい。」
そう言われて、俺は肩をすくめた。
「それで見込みはあるのか?」
「見込みですか。指導し始めてから一の月あまり、一人だけ感じ取れたものが出てきましたね。あと、二十名超の人員はそれが出来ずに、相変わらず深呼吸の毎日です。」
「なるほどな。しかし一名成功者が出たとは…」
「十分な成果とは言えませんが、一人の生徒の希望は叶えました。」
「生徒の希望か。」
「そうです。」
「そうか。」
そう返事をすると、ライラ女史は背もたれに深く背中を預け、物思いに耽るのだった。
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