351.アベル君と書面の行方。
351.アベル君と書面の行方。
「なんでお前らついてくんの?」
校長室にオスカーとレオ、そして俺が向かって歩き始めると、ジーナ、パオロ、それにフランカまでもがついてきた。
その三人に俺が問いただしたわけだ。
「う~ん?なんとなく?」
たかが十六歳の癖に、ジーナが色っぽく答える。
そのあとすぐ、パオロが口を開ける。
「俺は理由があるぞ。面白そうだからだ。」
はぁ?
何言ってんだ、こいつ。
「フランカまで、どうした?」
パオロの後ろからフランカも付いて来ているから、何故なのか聞いてみた。
「私ですか?そうですね。皆さんが行くので私も付いて行こうかと。」
「つまり、大した意味はないってことだな。」
「そうですね、そうなります。」
そう言いながら、フランカはニコニコしながら歩いていた。
結局はみんな暇なのだ。
スマホや携帯ゲーム機があるわけじゃなく、SNSや動画サイトがあるわけでもない。
書籍の出版が盛んに行われているわけでもないので、雑誌や手軽に読める文庫本もない。
まして、セイナリア中央図書館に入って暇をつぶそうとしたら、デポジットが金貨二枚だ。
それだけで、中に入れる奴は限られてくる。
だったら学生の本分は学問だ!
など、言える崇高な人間はなかなかいないものだ。
ただね、みんな小さいころから剣術の修練は続けてきた奴らばかりだ。
一日中動かないでいるということは出来ないらしい。
だから、放課後になれば、修練場で各々修練に汗を流しているわけだ。
しかし、ノコノコ俺たちに付いて来るこいつらはどうだ。
人のことをトラブルメーカー扱いして、何かやらかすことを期待してやがる。
まったくもって度し難い連中だ。
しかし、それも校長室までだ。
流石にあの中には入れないからな。
と言うわけで、悪目立ちする面子がゾロゾロと廊下を歩いて校長室に進んでいた。
すれ違う生徒たちは好奇の顔を向けてきた。
オスカーを見た女生徒たちが色めき立ったり、俺を見た南の生徒が怨嗟の瞳を向けたり、様々な生徒の中を通って行く。
そんな生徒たちの眼差しの中を俺たちは更に進み、ようやく校長室の扉の前にたどり着いた。
俺がドアを開け、オスカーとレオを中に入るよう促し、俺も入る。
「お前らはここまでだ。じゃあな。」
俺はジーナ、パオロ、フランカに向かってそう言うと、ドアを閉めた。
「なんだ、アベルまた来たのか。」
グスタフさんが呆れた顔で言った。
「レオにここへ向かえと言っている最中に、レオがオス、いえ、殿下を怒らせまして、正式な文書にしてレオの実家に送るという話が殿下から出たので、それに便乗させて頂こうかなと。」
俺は最初にそう言って、これまで、爺ちゃんの暗殺未遂から先程の修練場の出来事に至るまでの子細を大臣二人とオスカーに説明した。
その間レオはつまらなそうに、あたりを見つめていた。
こいつは自分以外の出来事が、ホント他人ごとなんだよな。
リザナの命もかかわるというのに。
話が終わると、まず初めに口を開いたのはオスカーだった。
「エドワード元団長の暗殺だと?私は初めて聞いたぞ、アベル。」
「うん、言ってないもの。」
俺はあっさりオスカーに返事をする。
「なぜだ!」
「まだ王家に話すほど、事をまだ大きく出来なかった。」
「しかし、私には言ってもいいだろう。父上達には話さず、我が心に留めるくらいの気遣いは出来るつもりだ。」
オスカーが気遣いねぇ。
草しか生えんが。
「その気遣いはありがたいが、両家が血みどろの争いになるかもしれない状況だった。まず、僕としては足場を固める必要があったんだ。」
俺がそう言うと、オスカーは悔しそうに唇をかんだ。
ありがとうな。
お前がそんな顔をしてくれるとは思ってもみなかったよ。
「殿下、少々よろしいでしょうか?」
カレッド伯爵がオスカーに話しかけた。
「うん、なんだ?カレッド。」
「殿下がカルー家に送るという書面はどのような内容になるのでしょう?僭越ながら我が事でもあるようですし、内容を把握しておきたいと思いまして。」
そう言われたオスカーは、わりと早く口を開くのだった。
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本作は長編となっています。
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