350.アベル君と正論と逆切れ。
350.アベル君と正論と逆切れ。
「お前は誰だ!」
そうオスカーにレオが問いただす。
レオさん、そりゃいくらなんでもヤバくね?
王太子殿下くらいリサーチしておけよ。
「私を知らぬと!?」
オスカーがレオに聞き返す。
まあ、当然だが、しかしレオは、
「知らん!」
間髪入れずに答えた。
「アベル…」
オスカーが情けない声を出し、俺を見る。
顔も情けなさいっぱいだ。
ここまで自分を認識しない人間が初めてだったんだろう。
かなりオスカーはへこんでいた。
「レオ・カルー君?いや、カルー伯爵嫡男。この学校にいて彼を知らないのは俺でもちょっと引く。」
「ヴァレンタイン、貴様との会話に割り込んできたそいつが誰だというのだ。」
レオはまた殺気を含んだ口調で俺に言ってきた。
俺が揶揄っているとでも思ったのだろう。
いい意味で真っ直ぐ、悪い意味で馬鹿なんだな、こいつ。
「では、ご紹介しておこう。ノヴァリス国王太子、オスカー・ノヴァリス殿下だ。」
「王太子?」
レオは訝しげに眉を細めてつぶやいた。
おい、こいつ王太子って単語を知らないわけじゃあるまいな。
「おい、レオ。王太子って意味は知っているよな?」
「バカにするな!ヴァレンタイン!お、王太子っていうのは…あ!思い出した。国王の御子息、しかも継承者の事であろう?つまり次期国王だ!…って、えっ!?」
今気づいたらしい。
ここに六人の人間がいる。
その六人は一歩も動かず、声も立てず、唾を飲む音さえも発せなかった。
そしてここは広い修練場。
他の場所では、打ち込みの自主練をやっている者、型をひたすらなぞっている者たちが汗を流していた。
そして、空は高く、はるか上空を悠々と雲が泳ぐ。
カメラはその雲に向かってティルト…
するくらいの空白の時間があった。
「ご無礼いたしましたッ!!!」
レオは片膝をついて、オスカーに謝罪した。
「良い、地方におれば我が顔など知らぬのも仕方があるまいからな。」
そう言っているオスカーの声は、ややいじけていた。
そして、オスカーは続けてレオに聞いた。
「カルー家は武門の家だと聞いたが、貴族においての学習はおろそかだったのか?」
「い、いえ、決してそのようなことは。」
「しかし国内の調和を軽んじているように私には見える。さっきのアベルに対しての態度もそうだ。大臣を二人待たせての拒否、どういうことだ?」
「それは!ヴァレンタインが既に大臣閣下たちと接触し、彼の方々を懐柔しているに決まっているからです。」
「うむ、なるほど。アベルの口車に内務大臣と軍務大臣がのせられていると申すわけだな。」
「はッ!自分はそのように愚考いたします。」
「この愚か者めッ!!国の重鎮を何だと思うておる!あのカレッドとグスタフがアベル如きに誑かされているだと!この戯け!!あの二人が許しても、この私が許さんぞ!今すぐ校長室に行け!!このことは書面で貴様の家に送るからな。覚えておけ。」
珍しくオスカーが激昂した。
そりゃそうよ、国の重鎮を愚弄すれば、任用した王家を愚弄したも同じなんだからさ。
でもまあ、俺はあの二人とは駆け引きはしたけどね。
ある程度の言質はとったし。
知らんぷりは決め込むけど。
けれどこの書面は使えるな。
「オスカー我々も校長室へ行こう。」
俺がそう言うと、
「む、何故だ?」
「その文書とやらに色々書き加えてもらいたいのさ。」
その文書に、カルー家がヴァレンタイン家にもうちょっかい出さないって書いてもらえれば、ウイリアム爺ちゃんや、まして、あの陛下に頭を下げる必要ないもんな。
「アベル、貴様よからぬことを考えているのではなかろうな。」
「よからぬことではないさ、ひいては国のためになることだ。」
「ではレオ・カルー、行くぞ。」
そう言って、ガックリ項垂れているレオを下手人でもひっ捕らえたようにオスカーは立たせ、歩かせるのだった。
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