347.アベル君と校長先生。
347.アベル君と校長先生。
レオとの言い争いがあった日の放課後。
俺はライラ女史が言ったとおり、校長室に行った。
中ではグスタフさんが待ってんのかね。
俺は扉を開け中入る。
グスタフさんは真正面、窓を背にして両袖の付いた馬鹿デカい机の備え付けの椅子に座っていた。
校長室にはもう一人いた。
あら、丁度良かった。
居たのはカレッド内務大臣。法の番人だ。
カミラの父という肩書もあるが、まあ、それは捨ておこう。
「おう、来たな。アベル座れ。」
グスタフさんはソファーを指さし俺を座らせようと促す。
その俺に、カレッド伯爵が口を開いた。
「相変わらず、トラブルの中心に居るね、君は。」
「それほどでもありますよ。えへへ。」
「褒めてないし、えへへでもない。」
そう言ってカレッド伯爵は俺に鋭い目を向けた。
相変わらず固いな、このおっさん。
四十過ぎて子供を作った好き者のくせに。
ああ、これは余計だったね。
程無くしてグスタフさんが口を開く。
「教室で何が有った?というより、ヴァレンタイン家別邸で何があったのだ。」
そこで俺は先日起こったことを事細かくじゃない程度に語った。
細かく語るのは面倒だしね。
「ふむ。それで教室の騒ぎか。」
「ライラ先生から聞いたんですか?」
「そうだ。しかしそのリザードマンをよく殺さずに取り押さえたな。まあ、エドワードとアベルが居れば造作もないことかもしれんが。」
「リザードマンの動きがあんなに速いとは思いませんでしたよ。僕が相手をしました。邸内に招き入れてしまったのは僕ですし、その責任は取らないといけませんでしたから。」
「うむ。」
俺の話を聞いてグスタフさんは大きく頷いた。
「それと、」
俺がこう言うと
カレッド伯爵が口を開く。
「それと?」
「祖父のもとにリザナが届いていたら、彼女は既に棺桶の中に入り、レオに引き渡されていたでしょう。」
それを聞いてまたグスタフさんは大きく頷き、
「で、あろうな。自分を殺そうという輩を、エドワードは情けを掛けまい。」
その後、カレッド伯爵が、
「しかし、家臣までもが剣を抜く程度に醸成された恨みつらみだったんでしょうか?」
「まあ、一般的には逆恨みだがな。しかしアベル、お前はどうする?いや、どうしたいのだ?」
「基本僕は争いを好みません。みんな仲良くが僕の信条ですよ?」
「本当かぁ?」
グスタフさんは訝しげ。
カレッド伯爵は皮肉気に右の口角を上げた。
「本当です。僕が本気を出したらどうなるか、お二人はご存じでしょう?」
「西の森が火災で焼失、もしくはカルー家の者たちが皆窒息死。」
カレッド伯爵がボソリといった。
「まあ、そこまではしたくはないですけどね。」
「そうだね。そう願いたい。」
カレッド伯爵がそう言うと、またグスタフさんが、
「うむ。」
と、深く頷いた。
「出来ればカルー家に釘を刺してもらいたいんですよ。これ以上係わるなって。どこぞの高級貴族にケツ持ちさせても敵だぞって。」
「相手も伯爵家だ、我々だけの意向でそのような要求話突き付けられまい。陛下にあげねばならんな。」
ですよね~。
まあ、織り込み済みだけどさ。
「アベル君。しかしそれが出来ないとなればどうする?」
カレッド伯爵が聞いてくる。
「うちの家族に刃を向ける者がいるということですか?」
「そうだ。」
「カルー家を根絶やしにします。連座は王家も許さないかもしれませんね。しかしここまで拗れて、我が家の打倒が家訓だと言った家の当主を倒しただけで、その恨みは消えることがないでしょう。」
「そうは言うがアベル、それでは国と敵対してしまうぞ。」
グスタフさんは険しい顔をして俺に言った。
「それは有りません。すべて済んだら僕は自分を差し出しますから。」
その言葉を聞いて両名はしばし絶句し、静かな時間が過ぎた。
校長室の窓から風が入り、花の香りを届けてくれる。
何の花なんだろう?俺はその静かな時間に考えた。
「嫡男としての責務はどうする?」
重い口をグスタフさんが開いた。
「姉が居れば血は残せるでしょう。僕が居なくなっても世界は回るものです。」
「私は今、君を捕縛するべきなんだろうな。」
カレッド伯爵が言う。
「何の罪です?」
「国家転覆を企んだ罪で。」
そう来たか。
まあ、破防法なんてこの国にはないが、国の中枢がそう思うだけで犯罪者の誹りは受けてしまう。
そしてまたカレッド伯爵が口を開いた。
「君は王家が連座を嫌うと言った。だから自分がカルー家を根絶やしにすると。」
そう言って俺をカレッド伯爵は見つめた。
そして、また続ける。
「しかし、それは国家転覆に値すると私は思う。違うかい?」
俺はその質問に言葉を詰まらせる。
しかしその覚悟は出来ていた。
だが、カレッド伯爵はなおも続けた。
「そして、君は王家が連座せずヴァレンタイン家を残すと思っているから、カルー家を根絶やしにして、自分が罰を受ければいいなどと軽々しくそんなことが言える。君の内部の矛盾に気が付かないのかい?」
あ、そうか。
俺は知らず知らずのうちに、王家とのつながりが強くなり、甘えてしまったのか。
「今気づきました。僕は陛下に、王家に甘えていたようですね。でも困った。カルー家への一番単純な対処法が無くなったな。」
俺は照れ笑いとともに、俯き頭を掻いた。
そんな俺を見てグスタフさんが、
「なに、甘えるなら今甘えればいいのだ。陛下に中に入って貰え。それしか無かろう。」
それを聞いたカレッド伯爵も深く頷いた。
「それが出来るなら僕も一番だと思います。まずは宰相閣下を頼ってみましょう。何らかの答えを見つけられるかもしれませんから。」
「おう、ビルに聞け。お前に頼られるのは嫌では無かろうよ。」
ガキの頃から仲の良いグスタフさんは、ウィリアム爺ちゃんをビルと呼ぶ。
「はい、そうします。なんだか気が晴れました。貴重なお時間をありがとうございました。」
俺は椅子から立ち上がり、二人に向かってお辞儀をした。
「ああ、アベル君、別件で聞きたいことがあるんだが。」
そう言って顔を上げた俺にカレッド伯爵が言葉を投げかけた。
「なんでしょう?」
「カミラが君に懸想していることについて。」
「それでは失礼します。」
俺は踵を返し、校長室から出た。
その後ろから、「逃げるな!アベル君!」と言う声と、「レオ・カルーを呼んでくれ。」という異なる人物の声が響いた。
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