345.アベル君と鉱石の重さ。
345.アベル君と鉱石の重さ。
「母さんの魔法の修練はキツイからね。姉さんも僕も途中で逃げ出したくなったもん。」
「そんなに凄いのか?」
パオロが聞いてきた。
「辛いよ?普通に。とにかく反復練習をさせるんだ。意識しなくても出来るようになるくらいに。とにかく最終的な昇華のイメージ、イメージ、イメージで。」
「「うわぁ。」」
パオロとフランカの顔が引きつる。
「でもあれだよ、剣術で素振りをずっとやっているのとさ。」
「ああ、なるほど。素振りも反復練習だもんな。」
そう言ってパオロは独り言ちた。
「ゲドさん、持続力を見せるのは時間がかかるから、魔力の出力の方を試してみませんか?」
俺はゲドさんにこう提案した。
それを受け、ゲドさんが口を開く。
「どう見せてくれるんだ?団長の剣を使うのか?」
「バルドさんの剣を使って、もしものことがあると大変なので鉱石を使いましょう。鉱石も身体強化を通せば重くなるでしょ?」
俺がそう言うと、ゲドさんは半笑いで俺に言う。
「坊っちゃん、そりゃないわ。精錬していない黒曜鋼が重くなるとは思えない。」
そうなのか?でも物質的に同じものならば、重くなるんではないだろうか?
「まあ、そう言わず試してみましょうよ。ゲドさんもやったことはないでしょ?」
「そりゃまあ、そうだが。」
ゲドさんはまだ訝しげに渋っている。
「ゲド、いいではないか、やってみよう。なに、駄目ならダメだったことだし、お前が最後まで気に入らなければ、アベル坊も素直だから引き下がるさ。なあ、アベル坊。」
バルドさんが俺を笑いながら見る。
それを受けて、
「僕は諦めたくは無いんですけどね。」
そう言って俺は肩をすくめた。
「で、どうする?ここでやるか?」
バルドさんは結構乗り気のようだ。
「ここはまずいでしょ。仮に本当に鉱石が重くなって床に落ちて床が抜けたら大変でしょ。」
「ああ、なるほどな。そりゃ儂も困る、わっはっは。」
バルドさんが割ると、他の皆もクスクス笑った。
「前庭に行きましょう。」
俺がそう言うと、バルドさんは頷き、ヒョイと黒曜鋼を持ち上げ、
「では、行こう。」
ニコニコしながらリビング向かうとメイドが扉を開く。
レグナート邸の玄関前、前庭の平らになっている場所に来た。
もう既に日が傾いている。
「綺麗な夕焼けだねぇ。」
俺が独り言ちていると。
「ほら、アベル坊。」
そう言ってバルドさんは黒曜鋼を俺に渡す。
「で、そうやって証明するんだ?」
「そうですねぇ、結局はゲドさんに納得してもらえないとダメだから、この黒曜鋼はゲドさんに持ってもらって、そのまま僕が身体強化を通すってどうでしょう?」
「急激に重くなって俺の手が地面と黒曜鋼との間に挟まったらそうするんだ?」
ゲドさんはさも恐ろしいと言わんばかりに俺に言ってきた。
「その時は素早く手を放して貰って。」
「素早くって坊っちゃん…」
「その時は僕も支えますから大丈夫ですって。」
「そんなヒョロッこいのに?」
さらにゲドさんは訝しげ。
「アベルなら大丈夫だ。」
ここで爺ちゃんの太鼓判が入る。
「剣では無敵が言うなら。」
やっとゲドさんは承知したみたいだ。
まあね、商売道具の手を潰されたらかなわないと思うのは仕方ない。
「じゃあ、これを持ってください。」
俺はゲドさんに黒曜鋼を渡す。
「では、僕が下で支える形で身体強化を掛けるので、僕の支えは気にせず、自分の力だけで持っていて下さいね。」
「わかった。」
そう言ってゲドさん両手で挟み込むように黒曜鋼を持つ。
その黒曜鋼の下側を俺は両手を貼り付ける。
「行きますよ。」
俺はそう言って身体強化を掛ける。
俺の周りに魔法が回り、俺が意識したとおりに黒曜鋼に纏わりついて行く。
「ん、来たな。」
黒曜鋼の重量が増えたのが分かったのだろう、ゲドさんそう言った。
「では、魔力を増やして行きますよ。」
「おう、来いや!」
ゲドさんが気合を入れる。
俺ジワジワ魔力を上げるが、
「坊っちゃん、まどろっこしい!ガッチリ来い!」
え?いいの?やっちゃうけど、俺の手の方が心配なんだよね。
「じゃ、行きますよ!」
俺は急激にMAXの三分の一程度魔力を上げた。
「む、むむむむ、ぐ、ぐっ!」
そう言って顔を真っ赤にし、ゲドさんの腰から下、膝を曲げ黒曜鋼の重量に耐える。
ここまでだな。
「ゲドさん手を放して!」
俺がそう言うと、ゲドさんが支えていた黒曜鋼の重量が俺の両手に掛かる。
ここでブレインブーストとマッスルブーストを同時に発動。
ブレインブーストで支えなきゃという焦りを無くす。
物事がゆっくり見えるという事は、物事をゆっくり考えられるってことだからね。
焦りも消えるのさ。
そしてマッスルブーストで少し黒曜を支えてから、さっと自分の方へ腕を引っ込めた。
「どおおぉん!」
俺の手を離れたことで身体強化の魔力を無くしたのに、ある程度自重を維持した黒曜鋼が地面に重量物が落ちた音を残して落ちた。
やっぱり精錬してないと魔力は回り難いみたいだ。
俺が思うよりも重量は重くなかった。
まあ、そんなことはどうでもいい。
目の前に驚愕の顔を浮かべているドワーフを見られただけで、このめんどくさい出来事から解放される。
そんなことを思い、俺は留飲を下げた。
読んでいただき、有難うございます。
本作は長編となっています。
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