340.アベル君と貴重な鉱石。
340.アベル君と貴重な鉱石。
「みんなよく来た。さあ、座ってくつろいでくれ。そちらの学生二人は初めて見る顔だ。儂がバルド・レグナート子爵だ。セイナリア市の騎士団長をやっておる。こっちが我妻カテリーナ。よろしくやってくれ。」
と、バルドさんが挨拶をしたところで、俺がパオロ、フランカの紹介をし、二人も自己紹介を簡単に終えた。
「で、今日は鍛冶屋の紹介だったな。物は持ってきているのか?」
バルドさんが俺の方を向いて言ってきた。
「ええ、勿論。」
俺はアーサーが抱えてきた背嚢から、一つの黒い塊を出した。
結晶化した黒いガラスの塊。
そんな言葉が似合う鉱石の名は、黒曜鋼。
俺が深紅の大穴から持ってきたものである。
「おお、これは立派な黒曜鋼だ。エドワードから聞いた以上のものだな。」
バルドさんが爺ちゃんをチラッと見て言った。
それを見た爺ちゃんが口を開く。
「立派な黒曜鋼と言ったであろう?」
何やら不満げな口調だ。
「何を不満に思っているか知らんが、これはアベルの手柄なのであろう?エドワードがムキになることではあるまい。」
「アベルの物だからムキにもなるのだ。」
ジジィ共の応酬がはじまる。
見目麗しくないので、俺は横から口を出す。
「それと、これがバルドさんの分です。」
俺はそう言って、もう一つの黒曜鋼を取り出した。
「なんだと!」
ガタン!!という音と共に、バルドさんが勢い良く立ち上がる。
「鍛冶屋の紹介のお礼と、ヴァレンティアからのお土産として持ってきました。」
俺がそう言うと、
「アベル、お前分かっておるのか?その大きさなら、大金貨20枚は下るまい。」
「「「えっ!」」
と、パオロとフランカが声を上げ、
「まあ。」
と、カテリーナ夫人は驚いて見せた。
「僕が一人で採って来たのでタダですよ。」
「何!?」
皆が目を剥く。
「それと、これはカテリーナ夫人へ。」
そう言って、俺は金剛石の原石をコトリとテーブルの上に置いた。
「なんですって!」
カテリーナさん、思わぬ大興奮で草。
「金剛石じゃないの!アベル君!!」
「これも僕が取って来たのでタダです。タダの物ばかり、お土産に持ってきて恐縮ですが。」
俺がそう言うと、
「こんな貴重なものをタダと言ってみせる胆力、エドワード、ローランド坊主たちはどんな教育をしているのだ?」
「ローランドも、その嫁も、アベルは勝手に育ったといつも言うのだ。まあ、儂の目から見てもそのとおりなのだがな。」
爺ちゃんはやれやれというように、肩をすくめる。
「金剛石も、この大きさなら大金貨5枚、いやその倍は…」
あの冷静だったカテリーナさんが冷静じゃなくなる。
この世界のご婦人方も、宝石は大好きなのだ。
「母さんに見つからない様にするのだけは、細心の注意を払いました。うちの母は金剛石大好き女子なので。」僕が持ってきた他の金剛石に、城の歳費でお金を払うから売ってくれと言って来たときは、どうしようかと思いましたよ。父さんは頭を抱えるばかりだし。」
「あのアリアンナ嬢ちゃんが!?そりゃローランド坊主も頭を抱えるであろうよ。」
ふぅ、と溜息を一つ突き、そう言ってドッカとまた椅子に座りなおしたバルドさん。
「アベル君はお母さんにお土産にしないで、お金買い取らせたの?」
カテリーナさんがそう言って俺に聞いた来た。
「最初は手渡しました。けれど次からは頑なに貰いませんでしたね。両親とも冒険者なので、ちゃんと成果は得られるものと教えられました。」
「ならば我々もその成果を正当に…」
そう言うバルドさんに俺は口をはさむ。
「今回は、あくまで爺ちゃんの親友とその奥様へのお土産と、鍛冶屋の紹介のお礼なので、このまま収めて頂かなければ持って帰ります。」
「持って帰る!?あ、いえ、失礼しました。」
素っ頓狂な声を出したカテリーナさんが赤面して椅子に座りなおした。
「はっはっは、カテリーナがこれほど動揺した姿を見たことが無かったわ。アベル坊、有難く頂いておく。ありがとうな。」
そう言って、バルドさんは豪快に笑い、カテリーナさんは椅子の中で小さくなった。
カテリーナさん、キャラが変わったな。
まあ、いいけど。
「収めて頂けて良かったです。剣が作れなくなったらどうしようかと、ちょっと冷や汗掻きました。」
「こやつめ!その程度で教えぬほどむくれんわ。わっはっは。」
そう言いながらさらにバルドさんは笑い、
「俺の剣を持ってきてくれ。」
バルドさんは、後ろで控えていた家令に剣を持ってくるように命じた。
そして、その家令が恭しくバルドさんの剣を持ってくる。
「よく見ろ、これが黒曜鋼の剣だ。」
シュリン、という音共に鞘から抜かれたその剣は、黒というより、向こうが透けるほど透明な薄紫色をした剣だった。
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