339.アベル君と子爵夫人。
※子爵夫人の名前を、カトリーヌからカテリーナへ変更しました。
339.アベル君と子爵夫人。
「しかし学生たちを迎えるなど、何年ぶりだろうな。」
戦慄していた俺をよそ目にバルドさんは声を張る。
「うちの子が学校に通っていた以来でしょうから、30年近くなるかもしれませんね。」
気の強そうなご婦人がバルドさんに声を掛けた。
そのご婦人に爺ちゃんが話し掛ける。
「カテリーナ夫人、大勢で押しかけて申し訳ない。」
「いえ、エドワード様。そんなのはいつもの事ですから構いませんよ。この人が騎士団の若い子達を連れて、ご飯を食べさせるなんてことばかりですからね。」
カテリーナ夫人と呼ばれた女性はそんなことを爺ちゃんに言った。
「ふむ、確かに近衛騎士団でも、若い騎士たちを食と酒でもてなすなど、そう言う騎士団間のやり取りは有りますな。」
「ねえ、そうでしょうとも。ですから、お気遣いなど結構。玄関先もなんですから、我が家にお入りください。」
そう言ってカテリーナ夫人は俺たちに邸内へ入るよう促した。
なるほどそうか。
俺がカテリーナ夫人を気が強そうだと感じたのは、母さんと同じ部類の人だからだ。
意地悪とか、ヒステリックとかじゃなく、肝っ玉母さん的な気の強さとでもいうのだろうか。
鋭い目線で、見守ってくれている。
若者たちの腹が減っていれば、何も言わないでも食事の皿を差し出してくれそうな。
そんな感じ。
「あなたがアベル君ね。」
カテリーナ夫人は俺を鋭い目つきで見ながら声を掛けてきた。
「はい、はじめまして。僕がローランド・ヴァレンタインの嫡男である、アベルです。以後、よろしくお願いします。」
「まあ、もうそんな立派なご挨拶をなさるのね。私はバルドの妻、カテリーナよ。よろしくね。ヴァレンティアの至宝さん。」
そう言って、ちょこんとカーテシーをしてから、優しく微笑んで下さった。
初めて見た時は身構えそうになったけど、もうね、騎士団長の妻!てのが姿勢から所作から、言葉遣いから現れているよね。
「あなたはもう子供のころから有名だったし、バルドも教えてくれていたから、会いたかったわ。」
歩きながら、夫人は俺に話しかける。
「自分では目立つ行いはやらないよう努めていたはずなんですが。」
俺は照れ隠しではないがちょっと頭を描いた。
「いろいろ逸話はお聞きしましたよ。知に長け武にも長け、既に女性も幾人かとか。かなりの早熟な子供だと。」
言い終えてからフフフと含み笑いする、カトリーナ夫人。
女関係の噂まで出回っているか。
そうよな、そうよね。
そりゃまあ、仕方なし。
隠しているわけじゃないしね。
後ろ指刺されるようなこともしていない。
「何も出来ない、一歩も踏み出さない人たちもいるくらいですもの、アベル君の積極性を見習って貰いたいくらいだわ。」
「母にはそそっかしいとよく怒られましたが。」
「アリアンナさんね。それは貴方、A級冒険者から比べられたら、どんな思慮深い子供でもそそっかしい事でしょう。でもその注意のお陰で今の貴方がある。お母様には感謝しておきなさい。」
そう言いながら歩くカトリーナ夫人は、孫を相手に話をするように目を細めた。
「そう言って頂けると、母も喜びます。」
「そうだと私も嬉しいわ。それと、一緒に来たメイドは、あなたとご関係があるのかしら。」
「そうですね、僕の身内となったものです。」
「そう、妾ってことかしら?」
「言葉で表現するなら、それが適当なのでしょうね。僕にはそれ以上の存在ですが。」
「嫌だ、女の子が聞いたら、飛び上がって喜びそうなセリフね。」
「そうでしょうか?」
「アベル君は自己評価低いのかしら?」
「いえ、決してそのようには思っていませんが。」
「ならば、俺の女だと、堂々として居なさい。」
「それはもう、どんと来いです。」
「うふふ、可愛いわね。さあ、客間よ、皆さんくつろいでくださいね。」
そう言ってカテリーナ夫人はホステスとしての務めを始めるのだった。
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