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337.アベル君と手のぬくもり。

337.アベル君と手のぬくもり。




 馬車はバルド・レグナート子爵邸へ向かって進んでいた。

 気づいた?


 バルドさんは子爵だ。

 まあ、首都防衛のかなめの騎士団長が、平民なわけがないよね。

 

 で、馬車の中は俺、爺ちゃん、パオロ、フランカ、ローズとなっている(建制順)

 一人トカゲが脱落したんでね、ちょっと空きが出来た。


 まったく面倒くさいなぁ。

 あの執念深いレオに、俺からクレームを入れなきゃならないなんて。


 まったくもって面倒だ。

 そんなことを考えていると、ギュッと俺の右手を握る手の力が入る。


 俺の右隣に座っているローズが、手を放さないでいるのだ。

 心配かけるね。


 落ち着こう、目立たない様になどとは、思ってはいるし、そのように行動をしているつもりなんだけど、なぜか事件に愛される。

 主人公というものはそういうものだとか言わないで。


 結構、疲れんのよ。

 神にも愛されているしね。


 そう言えば、御者台の上には御者と何故かアーサーが乗っていた。

 馬車に乗車するときに気が付いた。


 「お前、何してんの?」

 「先程の仕事は、フレイに引き継ぎました。」


 「ああ、フレイがリザナを治療院まで運びに行ったんだね。」

 「さようです。」


 まあ、すでに一流のタンクに手を掛けているフレイなら、未熟なリザナが多少暴れたところでどうとにでもなるか。

 執事は家の要。


 俺と爺ちゃんに自分が付いていた方が良いとアーサーの判断なのだろう。

 まあ、間違いじゃないと思う。


 「なんだかもう疲れたよ。」

 俺が苦笑いを浮かべながらボソリと呟いた。


 「まさか、リザナさんがあんなことをするなんて。」

 フランカも、俺のつぶやきに呼応するように言葉にした。


 「レオがやって来た初日に、俺とアベルに模擬戦をやったよな。その時にアベルへレオが話しをしていたことに繋がるのか?」

 パオロも口を開いた。


 なんだか空気が重かったからね、今まで誰も何も話さなかったのが、堰を切ったように賑やかになる。

 「そうそう、レオの爺さんが爺ちゃんに武芸大会の決勝で負けたって話さ。誰を殺めたって事でもないのに、それをいまだに根に持ってんだもんな。」


 俺はカルー家のヴァレンタイン家への因縁を軽く説明した。

 「ははぁ、エドワード様はまだその頃、騎士学校の学生だったのですか?」


 「そうだ。三年生でな。卒業の総仕上げとして出てみるのも良いと思ったのだ。先々代の森の剣星も同じだな。」

 「その因縁が、アベルまで回って来たのですね?」


 爺ちゃんの言葉を、パオロが俺への因縁として言葉にする。

 「そう言うことになるのかな。本来その矛先は、我が息子のローランドに向けられるはずだったらしい。ところが、ローランドは騎士学校に入らず冒険者になってしまった。先代森の剣星は、恨む相手不在の騎士学校に入学してきたということらしいな。」


 爺ちゃんはそう言うと、面白そうに笑った。

 その正面に座っているパオロは爺ちゃんの話を聞き


 「それは難儀だ。そのレオの父親も、引き継いだレオとアベルも。」

 「お前らも見たことあるだろ?レオが俺のことを見つけると、必ず立ち会い、立ち会いとしつこく付きまとうのを。これが原因なのさ。まあ、あっちの爺さんが僻んだのは、もう一つ原因があったらしいんだ。」


 「何が原因なんです?」

 今まで聞くだけだったフランカが口を出す。


 「レオの爺さんは、試合で負け学校も卒業となり、傷心のまま西の大森林に帰って行って、家督を継いだ。ところがだ、同時期に北の辺境へと帰ったはずの爺ちゃんが近衛騎士にスカウトされたと聞いたわけだ。」


 「「あ~。」」

 フランカとパオロがため息の様な声を合わせて出した。


 「その数年後、団長にまで昇りつめた。」

 俺が止めを刺す。


 「う~ん。そりゃぁなぁ。」

 仕方ねぇよ。とパオロの言葉に続けたくなるよね。


 わかるよ。

 「あまつさえ。」


 俺がこう言うと、

 「まだあるの!」


 フランカが驚いて、素っ頓狂な声を上げる。

 「うん、ヴィクトル三世陛下を爺ちゃんは弟子に取った。」


 俺の言葉に驚いた眼をフランカは更に丸くしてこう言った。

 「王様の先生…」


 フランカは今自分がつぶやいた意味を一生懸命咀嚼しようと努めていた。

 一般人にはもう訳の分からん世界だもんね。


 「でも、全部逆恨みではないか。」

 パオロは憤慨したように言った。


 「まあ、僕らから見てもそのとおりなんだけど、向こうからしてみたら、一回の敗北から全てに繋がっている訳だから、煮え切らないんだろうさ。うちにとっては迷惑な話だし、家臣まであの調子となると、もう黙っておくわけにはいかないかな。」

 「何かするのか?」


 パオロが俺に聞く。

 「レオと話し合いはするさ。これ以上は家同士の戦争になりかねないし、僕の本意はそこには無いから。」


 「そうね。そこまでしちゃいけない。オスカー王太子がまた困った顔をするわ。」

 あいつの困った顔なんて、そこら辺に転がしておけば良いんだ。


 どうせ娼館に行けばご機嫌に変わるさ。

 「できるだけ穏便に済ませたいね。」


 俺がこう言うと、俺の右手にまた強く圧力がかかった。

 「心配かけるね。」


 俺は、右に首を向け呟いた。

 しかし、ローズはおすまし顔でこう言った。






 「平気です。慣れっこですから。」

 





読んでいただき、有難うございます。

本作は長編となっています。

続きを間違いなく読みたい場合はブックマークを。

作者がんばれ!

面白いよ!

と、思っていただけたなら、それに見合うだけの☆を付けて頂けると幸いです。


それでは、また続きでお会いしましょう。


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