335.アベル君とみんなの自己紹介。
335.アベル君とみんなの自己紹介。
「儂がエドワード・ヴァレンタインだ。アベルがいつも世話になっておる。君たち、アベルと仲良くしてくれて、ありがとう。」
さっきまで殺気を放っていた爺ちゃんはソファーから立ち上がり、そう言って頷いた。
あ、今のはシャレじゃないよ。
そうすると、深呼吸で落ち着いたはずの三人が、また固くなる。
まあこれは素の爺ちゃんの迫力によるものだろう。
あれよ、普通の会社員でも責任ある立場になって行くと、なぜか迫力が出てくる様なあれ。
不思議なもんだよね。
家族の前ではそれが霧散してしまったりするんだけどさ。
爺ちゃんもご多分に漏れず、その人生、責任に応じた迫力をまとっているんだと思う。
俺は近くに居過ぎて、気付きにくいのかもしれないね。
「みんな爺ちゃんを前に、硬くなっているようだから一人ずつ紹介するよ。」
俺がこう言うと、パオロの喉がゴクリと音を鳴らした。
すげぇ、緊張してんな。
爺ちゃんは超有名人だから仕方なしか。
「では、この大きいのがパオロ・カッローネ。南部のカッローネ男爵家の嫡男。」
俺がこう言うと、硬くなっているパオロが若干上ずった声を発した。
「マキシ・カッローネ男爵が嫡男、パオロです。生涯で一度はエドワード様に会いたく思ってまいりました。まさかこんなに早く御尊顔を拝せる名誉が頂けるとは思っても見ませんでした。アベル様には感謝のしようがございません。何卒よろしくお願い申し上げます。」
そう言ってパオロは最敬礼をする。
それを見た爺ちゃんは、パオロの肩をポンと叩いて
「あの武勇で名を馳せた、カッローネ男爵家の嫡男か。かの御仁は君の曽祖父に当たるのか?」
そう爺ちゃんはパオロに質問した。
「はい!曾爺様が戦いの中で武勲を上げたそうです!」
「うむ、その戦いは聞き及んでいる。『生きるために戦う。』そうだな?」
「は、はい。曾爺様の言葉です。」
「今では儂の好きな言葉の一つだ。」
そう爺ちゃんは言って、パオロに笑いかけた。
それを聞いたパオロの目から止めどもなく涙があふれ始める。
「曾爺様や爺様が聞いたらどれほど喜ぶことでしょう。私は今日、この日を生涯忘れません!」
そう言って、パオロはまたお辞儀をし、その肩は上下の震えが止まることがなかった。
そこまでか!
まあ、まあ、そう言うものかもしれん。
爺ちゃん、アイドル過ぎんだろ。
泣き止まないパオロに、カトリーヌが手ぬぐいを持ってきてくれた。
「済まぬ。」
パオロは短く言って手ぬぐいを受け取り、顔をゴシゴシ擦っていた。
この世界にタオル地などない。
せいぜいあるのはメリヤスのやや柔らかい手ぬぐいだけだ。
そんな擦ったら痛かろう。
見ろ、顔が真っ赤だ。
まあ、いいか。
そういう心の起伏が青春なのだろう。
「うん、つづいて、フランカ。この子は平民からの進学組なんだけど、優秀でね。オスカー王太子自ら騎士学団にスカウトに来た逸材だよ。」
俺がそう言うと、
「そ、そんなこ…い、い、いえ。スミマセンッ!」
いきなり謝って百八十度、上体をフランカは下げた。
「はっはっは、そんな取って食ったりせぬから、顔を上げて名を教えておくれ。」
そう爺ちゃんはフランカに優しく言う。
この人、やっぱ若いころモテたんだろうな。
そんな風に考えていると、フランカも顔を真っ赤にして
「フランカと申します。平民が、辺境伯家のお二人の話に割り込むなど、許されざること。どのような処置も甘んじて受けますので、どうぞ家族だけは…」
「気にするでない。君は我が孫の学友であり、この度はアベルの生徒となったのであろう?そんな生徒を処罰したとあっては、我らの方が周りの貴族の笑いものになるであろう。まして連座など、英雄王ノヴァリスがもっとも忌み嫌ったもの。そのような恐ろしいことをその若い身空で想像するものではないぞ。」
そう爺ちゃんは優しく笑みを送りながら、頭を下げているフランカの肩をポンと叩いた。
「まあ、ここが学校ではないから、余計な緊張感を持ったのかもしれないけれど、そんな必要はないから大丈夫だよ、フランカ。頭を上げて。」
俺もフランカが頭を上げるよう促した。
「お二人のお気遣い、胸に沁みます。」
そう言って、目を赤くしたフランカは顔を上げた。
みんな泣かそうとか、思ってないんだけど。
なに?これ?
そして、カトリーヌがフランカに手ぬぐいを渡す。
俺はそんなカトリーヌにウインクを送ったった。
それを見たカトリーヌは苦笑いをしていたが。
「では最後に。」
俺が紹介しようとすると、リザナはさえぎるように自分から話を始めた。
「私の名はリザナ。父の名はリゼン。カルー伯爵家筆頭騎士が娘であります。大旦那様の仇、エドワード・ヴァレンタイン!」
は!なんかハジマタ!
読んでいただき、有難うございます。
本作は長編となっています。
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作者がんばれ!
面白いよ!
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それでは、また続きでお会いしましょう。