334.アベル君と友人たちと爺ちゃんと。
334.アベル君と友人たちと爺ちゃんと。
「皆様、私はアベル様のメイドのローズと申します。本日はよろしくお願いいたします。」
メイド姿のローズがパオロたちに丁寧なお辞儀をする。
学校的にはメイドとして寄宿舎に入ってもらっているので、ローズの普段着はメイドコス、いや、コスではないな。
ヴァレンタイン家正規の制服としてのメイド姿だ。
因みにマーガレットが型紙を取り寄せ、城で縫製されている。
ほぼマーガレットの趣味と言っていいが、誰も何も言わない。
あの堅いヨハンでさえも。
それは何故か?
マーガレットが怖いから。
おっと、最初から話がずれてしまったな。
昨日のあれこれの後、後日校門前に集まろうと打ち合わせをし、本日の授業が終わった後に皆が顔をそろえたわけだ。
そして第一声がローズの挨拶だったと。
先日こういうわけで、数人の友達に魔法を教えることになったとローズに報告をしたら、ぜひ生徒さん達にご挨拶をしたいと言ってきた。
生徒ってもんじゃないんだよと言ったんだが、なんだかローズは俺が教鞭をとるようで嬉しいらしい。
まあ、無碍にも出来んので、ローズの言うとおりにしておいたのが冒頭の挨拶というわけだ。
「可憐だ。」
パオロが赤面しながら呟いた。
アホか!人の嫁を見て赤面すな!
NTRしようものなら、パオロ!貴様、骨も残さんからな!
「ゴホン。」
俺はわざとらしく咳払いをした。
「あ…いや、すまない。」
そう言ってパオロは俺に謝罪する。
「うちの奥さんは奇麗だから仕方ないが、変な気起こすなよ。」
と、俺はパオロに釘を刺した。
「滅相もない!私はパオロ・カッローネと申します。奥方様にはよろしくお願いいたします。」
うむ、ちゃんと俺の奥として認識しておるな。
偉い、偉い。
「フランカと申します。よろしくお願いいたします。」
続いてフランカが挨拶をし、更に、
「リザナと申す。よろしくお願い申す。」
そう言ってリザナはローズにぺこりとトカゲ頭を下げると、頭に付けてある赤い羽根飾りが揺れた。
そして奥方と呼ばれたローズは、紅潮した頬を両手で押さえ、照れているんだか、喜んでいるんだか、入り混じった表情をしていた。
「さて馬車に乗って。爺ちゃんたちを待たせちゃまずい。」
俺はそう言って、友たちの馬車への乗車を促した。
すると、ローズまでが馬車に乗ろうとする。
「へ?なんで?」
俺はビックリした間抜けな声でローズに問いかけた。
「私はアベル様の…奥…いえ、メイドですから。ご一緒させていただきます。」
そう言って、ローズは赤面しながら馬車に乗った。
「まあいいけどね。」
それを見ていた俺は、小さく呟き馬車に乗る。
六人乗りに既に五人か。
駅馬車じゃなく、個人所有で六人乗りの馬車はデカい方なんだ。
しかし、爺ちゃんが乗って、バルドさんが乗るとはみ出るな。
爺ちゃんはスマートだが、バルドさんがデカいからな。
まあ、おれと糞デカいパオロが御者台に行けばいいか。
てなわけで、ヴァレンタイン辺境伯セイナリア市別邸に到着。
「凄い…」
別邸をぐるりと見渡しながら、フランカが呟いた。
そう思うよな。
俺もヴァレンタイン辺境伯領からセイナリアに来て、はじめて別邸を見た時はそう思ったよ。
うちの実家って金があんのねって。
「流石、大貴族は違うな。」
パオロもそんなことを言っている。
まあ、放っておいて、玄関で出迎えているアーサーとカトリーヌに対して、
「出迎え、ありがとう。爺ちゃんは?」
「いえ、坊っちゃん、お帰りなさいやし。ご隠居様は居間でお待ちでやす。」
そうアーサーが教えてくれた。
「みんな中に入って。」
俺がそう言うと、アーサーとカトリーヌが扉を開け、皆を中に促す。
俺が先に居間に着くと、爺ちゃんが既に支度を終え、ソファーに座って待っていた。
「ゴメン、爺ちゃん、待った?」
俺が一言謝ると、
「いや、そんなことはない。今日は随分お連れが多いな。」
爺ちゃんがにこやかに答えてくれた。
「うん、学校の友達でね。今度僕が彼らに魔法を教えることになったんだ。」
「おお、アベルが弟子を取るか。」
「弟子なんてたいそうなことじゃないよ。教えるのもみんな騎士希望者だから、身体強化までだしね。」
「なるほどな。身体強化が出来ねば一流には成れんから、基礎魔法と言えど命綱だ。アベルの責任も重大と言うわけだ。」
爺ちゃんは神妙な、それでいて揶揄っているような、そんな感じで俺に話をした。
「いやだな、プレッシャー掛けないでよ。」
俺は苦笑いをしながら答える。
そして、俺の後ろに集まった足音が明らかにガチガチに硬くなっているのが分かる。
パオロたちが部屋に入った途端、部屋の中が緊張感が高まり、殺伐とした雰囲気になる。
爺ちゃんの雰囲気にパオロたちが圧倒されているのだ。
爺ちゃん、あまり若いモンを揶揄うんじゃないよ。
俺は爺ちゃんをジトメで睨んだ。
若い騎士志望者達に対して、爺ちゃんがちょっとした殺気を放ったのだ。
俺の目つきに気が付いた爺ちゃんが右の口角を引き上げ下げる。
すると部屋の雰囲気ががらりと変わり、殺伐としたものが一切なくなった。
パオロたちを見てみると、顔にわずかな汗が浮かんで見えた。
爺ちゃんの気配だけで絡め取られ、声も出せなかった。
すぐ近くに俺が居たのにもかかわらずだ。
まさに、蛇に睨まれた蛙と言うわけだ。
あ、リザナは汗をかいているかわからなかったけど、足が微かに震えていた。
「爺ちゃん、やり過ぎ。みんな息が止まってる。深呼吸だ。」
俺がそう言うと、一瞬キョトンと三人が俺を見て、慌てて深く呼吸を始める。
「すまんな、アベルの弟子とはどのようなものか、試したくなったのだ。どうして、どうして、大したものだ。皆漏らさなかったな。クックック。」
そう言って、爺ちゃんは楽しげに笑うのだった。
読んでいただき、有難うございます。
本作は長編となっています。
続きを間違いなく読みたい場合はブックマークを。
作者がんばれ!
面白いよ!
と、思っていただけたなら、それに見合うだけの☆を付けて頂けると幸いです。
それでは、また続きでお会いしましょう。