329.アベル君と神との縁談。
329.アベル君と神との縁談。
「ワザとだったんでしょ!?」
ボーっと考え事をしていたら、ベッドの方からロッティーの声が聞こえた。
まだやっていたのか。
「先生、私はあの時昏倒していたのですよ。気が付いたら、目の前にアベル様が心配そうな顔をしていたら先生だって抱き着いてしまうでしょう?」
「わ、私はアベルに抱き着いたり、いたしません。」
「嫌だわ、食事の前に抱き着いていらっしゃったじゃないですか。」
とっさに言い返すロッティーに、カウンターを放つカミラ。
確かに食事する前、俺に抱き着いていたからか反撃は出来なそうだ。
「とにかく、仮病を使い男子を陥れるとは何事です!」
「私はあの時確かに昏倒して、遠くでアベル様の声を聴いたような気がしたのです。夢うつつの中でアベル様が私を抱き起して下さった。そして顔を近づけ、そしてそれは現実でした。先生、ただそれだけのことなのです。そして、私はアベル様に傷物にされた。その事実は変えられようもありません。」
ご婦人方の会話を、
「ほぇ~。こりゃたいへんだなぁ~。」
てな感じでやや現実逃避をしながら聞いていたのだが、
「アベル、また傷物か。」
と、爺ちゃんが的確な突っ込みを入れるので、現実逃避がままならない。
諦めるしかないんだろ。
どうせカミラは己が力を有効活用して、俺を追い詰めていくに違いないしな。
「あなたがアベルを襲ったのでしょう?アベルの優しさに付け入るのではないわ!」
ロッティー会心の一撃。
いいぞ!もっとやれ!!
って、言っている場合でもないか。
そんな風に考えていると、袖を引っ張られる。
「どうなさるんです?」
ローズが俺の耳元で囁く。
「どうするもこうするもないけどな。僕は被害者であり、加害者でもあるんだろう?口を挟めば碌なことにならないさ。」
俺がこう言うと、
「でもこのままだと収拾がつきませんよ。」
今度はアンネが俺に言ってきた。
「そうだよな。そうなんだけどさ…」
俺が迷いあぐねていると、まだベッドの方では口論の声が聞こえてくる。
「いえ、私は襲ってなど居りません。夢うつつのうちに、アベル様と目が合い、キャッ!思い出しただけでも顔から火が出る思いです!」
カミラは明らかにロッティーの心をもてあそんでいる。
ほら見ろ、ロッティーの美しかった顔がまるで般若のそれだ。
でもそろそろ収拾付けないとな。
「お二人ともよろしいですか?」
俺は二人に声を掛ける。
「アベルは黙っていなさい!この性悪をどうにかしないと、気が収まらないわ!」
ロッティーが叫び、それを聞いたカミラが、
「おお怖い、この方が義理の姉になるのは、ちょっと遠慮願いたいですわね。」
などと煽る。
「あなたなど、そうならなければいいのだわ!!アベルが唇を捧げるのは勿体ない!何故なの…」
ほら、ロッティー泣いちゃった。
お前、ロッティーが泣くなんて相当なんだぞ。
分かってんのか?トレーサ。
『ゴメン、やり過ぎちゃった。』
カミラ=トレーサが頭の中に話しかけてきた。
『ゴメンじゃねーよ、馬鹿。遊ぶにしても加減を考えろ。』
『シャーロットがあまりに向きになってくるもんだから、夢中になってしまったわね。』
「姉さん、大丈夫?」
俺はしゃがみ込んで、顔を押さえているロッティーの顔を覗き込んだ。
ん?既視感。
ガバッ!と、ロッティーが俺に抱き着いた。
そうね、またこのパターンね。
「悔しいわ!アベル!悔しいの!」
そう言って俺の胸に顔を埋め泣いているロッティー。
そこまでか?
何をそこまで悔しがっているのかが分からん。
つか、分かっちゃいけない気がするのでスルー。
「はい、はい。もう落ち着いて、姉さん。僕のためにありがとう。」
「うん…」
そう言ってロッティーは落ち着きを取り戻し始めるが、なおも俺の首にはロッティーの腕が絡まっている。
それを見ながら、カミラはニタニタしている。
『ニヤついてんじゃないよ。まったく。でも仕方ないな。トレーサ、結婚するか。』
『え!?するの?』
トレーサが脳内で驚いていると、もう一人の声も現実の声で驚く。
「え!?」
アンネだ。
『ここまで拗れたら仕方ないしな。それに、俺、田中信一郎がお前と一緒に居たがっているんだよ。楽だってな。』
そこまで俺が言うと、アンネの声が頭に響いた。
『アベル様、田中信一郎って昔から言葉に出ていましたけど、なんなのですか?』
『アンネ、その話は長くなるからまた後で。ゴメンね。』
『いえ、大切なお話に割り込んでしまって申し訳ありません。』
アンネが頭の中で言うと同時にカミラの声が頭に響く。
『善処するわ。』
『『はぁ!?』』
俺とアンネが脳内でハモるのであった。
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本作は長編となっています。
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