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327.アベル君と罠。

327.アベル君と罠。




 カミラは絶叫した後、目が反転し、そのまま後ろに倒れ始めた。

 それを見た俺は、椅子から立ち上がり回り込んでカミラを抱きとめた。


 「ふう。」

 俺が間一髪のため息を吐くと、爺ちゃんが、


 「どうだ?アベル?」

 などと言う。


 どうだと言われても医者じゃないもんでね。

 「体が弱いとのことでした。奇跡的に持ち直したのだとも伯爵から聞かされてもいましたが、何かしら負担があったのかも知れないね。」


 身体が弱かったのは、勿論トレーサが受肉する前の話だ。

 『あんたが変なことを考えるから、思わず声が出ちゃったじゃない!』


 突然寝ているはずのカミラの声が頭の中で響いた。

 『芝居かよ!なる、上手い誤魔化し方だな。』


 『でしょう、これであんたの頭の中を読んだことは有耶無耶よ、』

 『そううまくいくかな?爺ちゃんとロッティーは怪しむかもな。』


 『その時は記憶操作で…』

 『馬鹿言うな!』


 そうカミラと頭の中で話してから、

 「どっこいしょ。」


 いかにも重そうに言いながら、俺はカミラを持ち上げる。

 「客間のベッドに寝かせよう。重いから僕が運ぶよ。」


 俺がそう言うと、間髪入れずカミラから

 『あんた!乙女に失礼よ!!』


 などと突っ込みが入った。

 『リスクを共有する者同士、今の状況を享受しろよ。』


 俺は現実的には神妙な顔をし続け、頭の中ではカミラに毒づいた。

 「まあ、二人だけの秘密ね。素敵。」


 『馬鹿言ってんじゃないよ。まったく。』

 そう頭の中で言いながら、俺は客室に足を進めた


 『馬鹿言ったのはあんたでしょ?何よ、自分の命が安いって。』

 『勝手に頭の中覗くなっての。』


 『覗かなかったら、一人で殺しに行ったでしょ!』

 『まぁねぇ~。』


 『なにが、まぁねぇ~、よ!!エレナの結婚式の時に言ったでしょ!考えろって。考えて、考えて、それでもダメだったら、私も一緒に考えるからって。だからすぐ死ぬって考えるなって。』

 「懐かしい。そんなことも有ったかな。リーサが俺の肩に乗ってそんなことを言っていたかもしれないな。」


 『忘れないでよ!もう!』

 『はいはい、ほらベッドの上だ。』


 俺はカミラの身体を投げ出したいのをグッと抑え、静かにベッドへ置いてやる。

 紳士だからね。


 「カミラ様は大丈夫なのでしょうか?」

 ベッドにカミラを降ろした俺の後ろから、ローズの心配そうな声が響く。


 「どうだろう?僕は医者でも治療魔術師でもないからね。でも呼吸も安定していたようだし、大丈夫じゃないかな?ローズ、カトリーヌでもアーサーでもいいから、カレッド伯爵邸に知らせるように言って。すぐに動かせるか分からないから止めるって。馬車で揺れるのも体に障るかもしれないからね。」


 「はい、畏まりました。」

 そう言うと、ローズはスカートを翻し、客間から出て行った。


 『ローズったら、心配してくれたのかしら。まあ嬉しい。』

 『何が嬉しいのやら。』


 俺が頭の中でカミラに突っ込みを入れている時、ローズと入れ替わるように、アンネが入って来た。

 『お二人とも、さっきから何をなさっているのです?』


 アンネの声が頭の中で響いた。

 「はぁ!?アンネ、お前…」


 俺は、思わず声を漏らしながら、アンネを見た。

 たぶん、驚きのあまり口が半開きになっていたに違いない。


 「トレーサ様がリーサちゃんの頃から、お二人が頭の中でお話していたのは聞こえていましたよ。私はトレーサ様の巫女なんですよ。それくらいできます。ただ、トレーサ様みたいに、直接アベル様には声を掛けられませんが。トレーサ様を経由してなら、今みたいに出来ましたね。」


 そう言って、アンネは悪戯が成功したみたいにニッコリ笑った。

 ふと、ベッドを見ると、カミラはまだ狸寝入り。


 「いつまでやっているんだよ。」

 俺はカミラに話しかける。


 すると、アンネが自分の口に指をあて、

 「シー、アベル様。誰か来ます。」


 そう言うとアンネがドアの方を見た。

 ガチャリ、ドアノブが回りドアが開く。


 「アベル、カミラさんの具合は如何?」

 そう言いながら入って来たのはロッティーだ。


 「呼吸は安定しているし、大丈夫じゃないかな?」

 俺がこう言うと、ロッティーは安心したように頷き


 「さっき、アーサーがカレッド伯爵邸へ向かったわ。彼女はここへ泊めるしかなさそうね。」

 「そうだね、幸い治癒魔法のエキスパートのアンネもいるし、それが一番だと思う。」


 俺はロッティーに言った。

 「あなたとローズはどうするの?泊っていく?それなら準備させるけれど。」


 「いや、僕らは帰るよ。ちょっと一人で考えたいしね。」

 「もう、一人じゃない癖に。」

 確かにローズとイチャコラは致しますけどね。


 「さて、それじゃ、そろそろ僕らは帰るよ。」

 そう言うと、ベッドの方から


 「うん…アベル様…」

 と、カミラが寝言を言っている体で、トレーサが何か企んでいる。


 『カミラ、何を考えている。カミラ!カミラ!!』

 頭の中で念じても、カミラはスルーを決め込んでいる。


 俺はアンネを見るが、アンネは首を横に振った。

 仕方ない、罠と分かって赴くのも癪だが、ロッティーが居るから不自然な行動はとれない。


 「アベル様…」

 俺が逡巡していると、更にカミラが俺の名を呼ぶ。


 女性二人は、呼ばれてるわよッ、てな顔をして俺を睨む。

 仕方ないから、ベッドの脇まで言ってカミラの名を呼ぶ。


 「カミラさん、どうしました?具合が悪いのですか?」

 クソが!スルーすんじゃねーよ!


 その時、カミラがふいに寝返りを打ち、彼女の頭は俺の向こう側に言ってしまった。

 明らかに聞きにくい位置で呼びかけるのは更に不自然に見えるだろう。


 仕方ないので俺は身体を乗り出し、カミラの顔を覗き込む格好になった途端!

 ガバッと!カミラの両腕が俺の首に巻きついた。


 俺は逃げようと体を引くが、思いがけない力で引っ張られ、たたらを踏んでカミラにのしかかる態勢に。

 「ぶっちゅう。」


 そのような擬音がしそうな勢いで、カミラが唇を重ねてきた。

 「んー!んー!」





 俺は唇を吸われたまま、唸りながら腕をバタバタするしかなかったのであった。

 

 


読んでいただき、有難うございます。

本作は長編となっています。

続きを間違いなく読みたい場合はブックマークを。

作者がんばれ!

面白いよ!

と、思っていただけたなら、それに見合うだけの☆を付けて頂けると幸いです。


それでは、また続きでお会いしましょう。


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