326.アベル君と王家と言う名の楔。
326.アベル君と王家と言う名の楔。
【食卓での話はもうちょ(ry】
ローズとアンネは俺の話を聞いて驚愕した。
それもそのはず、俺たち家族と一緒に暮らしていたとはいえ、貴族としての学習を彼女らはしていないからな。
裏を返せば、俺やロッティーは貴族の子弟や王族の子弟までもが、縁談と言う名の人質や借金の担保になってしまう、なんて言う学習は済んでいるってことだ。
「二人共ビックリしたかい?幸いご先祖様はもちろん、爺ちゃんと父さんがうちの領地を支えてくれたおかげで、僕らは裕福に暮らしているから、こんなことは関係なく生きていられるんだ。」
「うちもそう。お父様が国の重責を担っているから、私は魔法大学校で学んでいられる。十四、十五の私と同い年くらいの貧しい貴族の女の子なら、すでに縁談が組まれていることが多いのよ。」
そう言ってカミラが俺の補足をした。
「そしてそれは王家も変わらない。王女や王子たちも嫁や婿として他国の王家へ嫁がさられる運命だ。本来ね。ただ、優秀な人に限り、公爵として国に残って貰う場合もある。例外だけどね。」
俺の言葉にローズとアンネは黙って頷く。
「だからこそ分からない。臣であるヴァレンタイン家にオリビィを嫁がせる意図がね。」
「王女殿下の気持ちを酌んでということじゃないのかしら?」
ロッティーが適齢期の女性らしい、いやこの国じゃロッティーはもう行き遅れだ。
優しい気持ちの言葉を言った。
「それじゃデメリットが多すぎるんだよ。」
「アベル様、それではそのデメリットとは何かしら?」
そう言ってカミラが悪戯気な目をして聞いてくる。
このバ神め、知っていて聞いてきやがる。
まあ、説明の動線としてはナイスアシストか。
「デメリットが多すぎるというより、大き過ぎるに訂正が必要かな。まず一点目。先程言った外交の切り札が減る。もう一つ。国内の力関係が崩れる。これが大きい。」
俺の言葉を聞いて、誰かの喉がゴクリとなった。
「皆知っているとおり、この国は東西南北中央と、大きく五つに分かれている。そして勢力が大きいのは中央を除けば、北と南だ。僕らは南のことを何とも思っていないが、なぜか南のパーシー公あたりは、僕らのことを良く思っていない。人より稼いでいたり、身内じゃないのに王家とのつながりが太かったり、冒険者ギルドとの繋がりも大きかったり、連中に言わせると、まあ、枚挙にいとまがないらしい。」
「それで、王女様がアベル様の正室になれば…」
ローズが口を開いたが、そのあとが言葉にならない。
「そう、ヴァレンタイン家と王家との結びつきが大きくなり過ぎ、かろうじて保っているバランスが崩れる。さっきから分からないと言っていた理由がこれで分かったと思う。いいかな?」
俺は、ローズとアンネに問いかけ、二人とも頷いた。
「それで爺ちゃん、陛下の答えは。」
「なんじゃ、そこまで答えを揃えて出なんだか。」
爺ちゃんが薄く笑って、グラスを傾ける。
「予想ならできるけど、僕の口からは言いたくないな。そうだとしても僕は保証が出来ないしね。」
「なんだ、分かっているのではないか。それでは皆に聞かせてやろう。陛下はこう申された。アベルの傍が王女殿下にとって、一番安全と。」
「そのために国が割れても良いと!?」
俺は思わず爺ちゃんを問い詰める。
「アベル、もう知っておろう?パーシー公がな、南で公国を作ろうとしている。」
「それはまだ先の話じゃなかったっけ?」
「そうだ。しかし準備をしているらしい。」
「けどさ、それを見込んで王女を僕に娶らせたら、それが切欠にならない?」
「ありうるが、ことが起こってからでは遅いとの判断なのだろう。」
こうなるとジーナが俺に近付いて来たことについても整合性が取れて来るなぁ。
しかし、ここにきて内戦とかさ。
パーシーの爺ィめ、今から殺りに行こうか。
多分バレるだろうが、俺の命で国が割れないんなら安いもんだろ。
「アベル!!駄目よっ!!!」
突然のカミラの絶叫に、その場の全員が驚愕した面持ちでカミラを凝視したのだった。
読んでいただき、有難うございます。
本作は長編となっています。
続きを間違いなく読みたい場合はブックマークを。
作者がんばれ!
面白いよ!
と、思っていただけたなら、それに見合うだけの☆を付けて頂けると幸いです。
それでは、また続きでお会いしましょう。