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324.アベル君とみんなの食卓。

324.アベル君とみんなの食卓。




 俺はとりあえずトイレへと行って、それから食堂に向かう。

 客間に居た三人の女性とローズ、爺ちゃんが食堂で待っているはずだ。


 そして久しぶりに俺が来たという事で、俺の従士のフレイが同席することになった。

 フレイの嫁のミーは、お仕事の給仕に専念。


 まあ、こればかりはね、ヴァレンタイン家に従事している者と言っても、それぞれ立場があるから仕方がない。


 食堂に入ると皆がそろって待っていた。

 俺は迷わず上座に座る。


 もうそういう事に決まっているんだってさ。

 そしてテーブルに着いている一同見渡し、カトリーヌを見る。


 すると、カトリーヌと他のメイド達が給仕を始めた。

 「皆さん、お待たせして申し訳ありませんでした。」


 俺は一言謝罪を入れる。

 そして、


 「爺ちゃん、ローズ。ご紹介します。こちらはカミラ・ド・カレッドさん、カレッド伯爵のご令嬢です。アンネのお友達という事で、今日は夕食を共に頂くこととなりました。」


 それを聞いた爺ちゃんは黙って頷く。

 ローズは黙って立ち上がりお辞儀をする。


 「カミラさん、こちらが僕の祖父のエドワード・ヴァレンタインだ。そして今お辞儀したのが、騎士学校の寄宿舎で僕と寝食を共にしているローズ。お三人方、よろしくお願いします。」


 俺がそう言うと、カミラは立ち上がり爺ちゃんの方を向いて綺麗なカーテシーで礼を尽くす。

 そして、


 「私、アベル様よりご紹介を頂いた、カミラと申します。高名な無敵のエドワード様にお会いできて恐縮ですわ。そしてローズさんと言ったかしら、アベル様は気を使って令嬢と紹介してくださいましたが、私自身は庶子ですの。ですから、そんなに気を使わず、仲良くしてくださいましね。」


 「今の話は本当か?アベル。」

 爺ちゃんがこっそり聞いてくる。


 「ええ、内務大臣閣下のご息女で間違いはありませんが、出自はいま彼女が話した通りです。」

 俺は爺ちゃんの耳元に伝える。


 それを聞いた爺ちゃんは、うん、と頷き、

 「カミラ殿と申したか。出自を自ら明かすのはなかなかできぬものだ。清いお心をお持ちの良いお嬢さんを持って、内務大臣閣下も鼻が高かろう。我が孫たちと仲よくしてくれたまえ。」


 そう言って爺ちゃんは渋い良い笑顔を見せた。

 カミラもそれを見て、はにかんだ笑顔を見せる。


 芝居が上手いもんだ。

 しかし、カッコいいんだよな、爺ちゃんのあの笑顔。


 なかなか真似できない。

 でも、爺ちゃんはカミラに陥落かもな。


 武人と言うものは、潔いものを尊ぶ気質があるように思える。

 もし父さんがいても、カミラに対しては同じ感想を持つかもしれない。


 つまり、カミラはまんまと爺ちゃんの懐に入り込み、ローズとも近しい間柄を築こうとしているわけだ。

 母さん?どうだろう?でも、どうしようもなく母親気質のところもあるから、庇護欲にかられるかもしれない。


 そういう意味では、カミラ掴みは完璧だったろう。

 それはそうだろう。


 神にとって人の家族など取るに足らない、歯牙にもかけないもののらしい。


 実際、ヒューマン中では俺と自分の聖女であるアンネにしか興味が無いと言っていた。

 しかし、カミラ=トレーサは、ヴァレンタイン家にフェアリーのリーサとして十二年弱も住んでいたのだ。


 その月日を一緒に住めば、家族の性格など自ずと知れる。

 それに、やろうと思えば相手の意識も覗けるんだ。


 個々人の懐柔など、簡単だろうなと思う。

 ただ救いは、取るに足りない人間たちの生活を、悪戯はすれど脅かすようなことは一切しなかった。


 なんなら、うまく溶け込もうとも見れた。

 神に善性を問うのはどうかと思うが、トレーサは俺たちにとって少なくても悪ではなかった。


 見捨てられた聖王国ではどう見られているかは知らんがね。

 などと思考が駄々洩れしていたところで給仕が終わったようだ。


 「では、頂こうか。」

 俺がそう言ってカトラリーを手にすると、皆も思い思いに食事をとり始めた。


 「アベル、学校はどうなの?お友達は出来た?」

 ロッティーが家族としてまっとうな質問をしてきた。


 「うん、出来たよ。騎士学団の面々はもちろんだけど、パオロってやつとクラスが同じでいつもつるんでるよ。」

 「まあ、つるんでいるとか言っては駄目でしょ。ご一緒していると言いなさい。」


 ロッティーがなぜか母親面だ。

 まあ、そうしたいならすればいいのだ。


 俺はウェルカムよ?

 「先生、今どきの学生の言葉をたしなめるのは如何なものかと。まあ、お歳も五歳違うと感覚がズレるとは思いますが。」


 などと、またカミラがにこやかに噛みつく。

 まあ、こうなるのは想定済みだ。


 「カミラさん、僕は姉の言葉には耳を傾ける方でね。お気遣いは有り難いけれど、そのような注意は僕と姉にとっては不必要かな。でも、気を使ってくれたんだよね。ありがとう。」

 俺はあえて静かな口調で言葉を放った。


 「まあ、そのようなお礼の言葉はよろしいですのに。でも、先生とアベル様の距離感と絆が近く強固であることが良く分かりました。私こそ、不躾な物言いをして申し訳ございません。お二人に謝罪いたしますわ。」

 カミラはさらに笑みを深め、軽やかに身を引く。


 ドッチボールをやっている気分になるな。

 そこに思いもよらないところから声が聞こえた。


 「カミラ様、シャーロット様とアベル様は、二人で一つのヴァレンティアの秘宝。そのお二人は私のあこがれです。あまり強い物言いをされると私が辛くなりますので、控えて頂けませんか?友人としてのお願いです。」

 アンネがカミラを見ながら、申し訳なさそうにお願いしていた。


 しかしその目は怒っている。

 トレーサ、やり過ぎたな。


 「あら、思わぬところに飛び火してしまいましたわ。アンネ、御免なさい。あまりにあの二人が仲が良いので、ちょっと妬けちゃったのね。まさかあなたにたしなめられるとは…本当に御免なさいね。ご同席の皆様、私の物言いに、ご気分を害されたのなら謝罪いたします。どうぞこのとおり。」


 カミラはそう言って頭を下げた。







 こいつは何をやりたいんだか。

 

 








読んでいただき、有難うございます。

本作は長編となっています。

続きを間違いなく読みたい場合はブックマークを。

作者がんばれ!

面白いよ!

と、思っていただけたなら、それに見合うだけの☆を付けて頂けると幸いです。


それでは、また続きでお会いしましょう。


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