323.アベル君と神の戯れ。
323.アベル君と神の戯れ。
がばっ!っとロッティーが俺に抱き着く。
しばし皆、硬直。
「あ~、落ち着いたわ。」
お茶でも一服したおじさんみたいにロッティーが言った。
「アベル、ありがとう。あなたはいつも私の味方ね。」
「姉さん、ここには敵も味方も居ないよ。」
「そうね。そうだったわ。」
そう言って、ロッティーは不敵な笑みを浮かべる。
「あら、ご姉弟で随分仲がおよろしいこと。先生、アベル様に甘え過ぎでなくて?」
カミラがまた余計なことを言い始める。
めんどくさいからやめろよ、トレーサ。
久しぶりに遊びたいのは分かるけどさ。
しかしロッティーは余裕の表情。
「そうですよ、カミラさん。私とアベルは仲が良いの。普通の姉弟以上に。ふふふ。」
ふふふじゃないよ、ロッティー。
相手がトレーサだからいいけど、他人様が聞いたら誤解しかねない言い回しするんじゃないって。
相変わらず扇子を口に当て、ニヤニヤしながらカミラが声を発した。
「まあ、羨ましい。私もそのような立場に、いえ、それ以上の立場になりたいものですわね。ねぇ、アンネ。」
「わ、私はお傍に入れるだけで…い、い、いえ、なんでもないです。」
アンネが口ごもりながら呟いているが、聞こえなかったことにしよう。
分かってる、分かっているってば。
めんどくさいんだって、これ以上はさ。
「アンネってば、控えめなのは美徳であるかもしれないけれど、大事なもの、必要なものがその手から零れ落ちますわよ。」
カミラはアンネに向かって言った。
それを聞いたアンネの目に、控えめだった眼の光に若干力がこもる。
あのバ神め!
余計なことを言いやがって!
『バ神って何よ。』
いきなりトレーサが頭の中に呼び掛けてきた。
『馬鹿だから馬鹿ってんだよ、テメーはよ。つか、頭ん中読んでんじゃねぇよ。』
『いいじゃないの、私とアベルの仲だもの。リーサで居た頃は毎度のことだったでしょ?』
さらに俺の脳内に話しかけるカミラもといトレーサ。
『あの頃はあの頃、今と状況が違う。』
『そんなに違わないわよ、フェアリーと人間、その体の大きさ程度で。あら、ローズとベッドでこんなことしてるの?厭らしい。』
「人の記憶を盗み見るな!!」
俺は思わず口に出してしまった。
そして、ロッティーとアンネがギョッとした顔をして俺を見る。
「いや、ゴメン、ちょっと学校で色々あって考え込んでいたら声に出ちゃった。」
俺はとっさに取り繕う。
「アベルも疲れているのだわ。こんな疲労を取る安らぎも与えられないで、ローズは何をやっているのかしら。」
ロッティーが変なところでローズを持ち出してくるので、
「いやいや、ローズはよくやってくれているよ。本当に助かっているんだ。」
「ベッドの上でね。」
ぼそっとカミラの声が聞こえた。
ファッ!何言ってんだ!コイツ!この場でその肉体を滅ぼし、アストラルボディにしてやろうか!!
「おお、怖い。か弱い女の子をそんな怖い顔で睨まないで下さいまし。」
カミラは怯えた声を出しているが、その目は笑っている。
こいつは!!
って、もう相手すんのも疲れたな。
「ちょっと憚りに失礼するよ。済んだら食堂へ行っているよ。」
そう言って俺が客間から出ようとすると、
「待って、アベル私も行くわ。」
ロッティー、流石に連れしょんは出来ないって。
「姉さん、流石にそれはどうなの?」
「ああ、そうね。取り乱してしまったわ。」
何か混乱したロッティーが赤面する。
二十歳超えても、この人は可愛いなぁ。
姉だけど。
コンコン。
俺がドアノブに手を掛けようとしたら、ノックが鳴る。
「失礼します。開けてよろしいでしょうか。」
廊下の方からカトリーヌの声がした。
俺は黙ってドアノブを引く。
ドアの前にカトリーヌが畏まって立っていた。
「ローズさんがお着きになりました。」
もう着いたか。
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本作は長編となっています。
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