317.アベル君と爺ちゃんと剣の話。
317.アベル君と爺ちゃんと剣の話。
爺ちゃんとの対話は続く。
「順を追って話すと、双方相対してから、しばらくはパオロの攻撃が続いたんだ。大きい身体を生かしての、上段の斬り下ろしを中心にね。」
「うん。それで?」
「で、パオロは一息ついた。普通ここで逆襲するでしょ?レオはしなかった。わざと切っ先を下げて隙を見せたんだよ。」
「見切りの良さが信条であるからな。避ける自信があるからできる誘いだな。」
「多分そうだと思う。で、パオロはそれに乗るように、切っ先を上げたかに見えた。だけどそれはフェイクで、突きに行ったんだ。」
「なるほどな。立ち合いの最中の短時間に良く考えたものだ。」
「僕もそう思ったよ。で、上背のあるパオロの間合いに入って、パオロはレオを突き刺さんと腕を伸ばしたんだ。そして腕が伸び切った途端、カン!と木剣同士が鳴った。下げた切っ先で、突く最中のパオロの切っ先をレオは打ち上げたんだよ。剣の先を打ち上げられたパオロの腕も上がってしまった。そしてパオロの喉元にレオの剣が来て終わりだった。」
「うむ、いい試合だったのだな。しかしカッローネは、代々引き継いだ二つ名持ちのカルーには敵わなかったか。」
「そうだね。森の剣星の二つ名は教官も知っていたし、有名だったんだね。僕が知らなかっただけか。」
「西の森と、ヴァレンタインの領地は遠く離れておる。知らなくても致し方あるまい。儂も先々代の森の剣星との試合のことはあまり語っていなかったのでな。」
「剣の話となると、長くなるな。アベルよ。件の話は情報が入ってからじゃないと動けんな。」
「そうだね。ジーナの家族、その繋がり、本人の思惑、いろいろそろわなければこちらも動きが取れないからね。」
「そのとおりだな。ところで剣で思い出したが、バルドに話を通しておいたぞ。」
「バルドさんに?何の話?」
「こ奴め、すっかり忘れおって。黒曜鋼の鍛冶師についてだ。」
「ああ!そうだった!」
「そうだったではあるまい。今度日を改めてバルドのもとへ赴くぞ。良いな。」
「うん、ありがとう爺ちゃん。」
「そこでだ、そろそろ儂も帰ろうと思ってな。」
「あ、そうか。結構時間も経ったもんね。」
「そうだ。アベルもローズも学校の方は慣れたようだしな。相変わらず事件は起こしておるようだが。」
「人をトラブルメーカーのように言う。」
そう言って、俺は爺ちゃんを睨んだ。
「まあ、そう怖い顔をするな。本当のことではないか。人より能力があるのは好ましいが、必ず羨んだり妬んだりする者はいる。すべて排除は出来んから、たまに暴れるくらいは良かろう。でもまあ何事も、程々にだ。」
「母さんは出来るだけ争いは避けろって言っていたけどね。」
「ほう、アリアンナがな。」
「そう、でも更に絡まれたら?って僕が聞いたら、徹底的にやれとも言った。母さんらしいというか、凄いよね。」
「むしろそちらがアリアンナの本質のような…いや、今のを言うなよ、アベル。ローズもだ。聞かなかったことにせよ。」
「はい、ご隠居様。ふふふ。」
ローズが返事をしてから楽しげに笑う。
「母さんは怖いからね。言わない、言わない。僕まで余計な事言ってって叱られるもの。」
「アリアンナの場合は、本物の雷が落ちてくるでなぁ。」
爺ちゃんが遠い目をする。
実際に俺の師匠の座を争い、父さんと決闘していた時に落とされたんだよね。
二人とも避けていたけど。
雷撃をかます母さんも凄いけど、それをよける二人も凄いんだよなぁ。
その場に居たヨハンとチャールズ団長を除いた皆が目を丸くしていた。
「ローズ覚えてる?父さんと爺ちゃんが僕の師匠になりたくて決闘していたの。」
「ええ、覚えています。アベル様が3歳の頃の話ですよね。」
ローズが懐かしむように言う。
「そう、あの時の母さん、マジ切れしてたよね。隣に居るだけでうすら寒かったもの。」
「あの時のアリアンナの目は忘れられん。」
爺ちゃんの目がさらに遠くを見る。
「でもその後、ご領主様、ご隠居様、お二人の勝敗を、騎士団の皆様を巻き込んで賭けを始めたアベル様が、奥様にこっぴどく叱られたんですよね。」
「嫌なことを、よく覚えているなぁ。」
俺はローズの記憶力辟易した。
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