316.アベル君と爺ちゃんの因縁。
316.アベル君と爺ちゃんの因縁。
「サンタグレース家か。儂は名前も知らん男爵家だ。」
爺ちゃんは独り言のように言った。
「寄り子以外の男爵家となると、把握は難しいよね。」
「そうだな、よほどの武勲や領地に何か特殊な技能や産業を持っていなければ、外部の者の記憶からは埋もれてしまうだろう。」
爺ちゃんは顎を右手のひらで擦りながら険しい顔で言った。
「武勲ね、ああ、そうだ!カッローネ家って南にあるんだけど知ってる?」
「カッローネは有名だ。儂の一つ上の世代の領主が勇猛だったと聞いたな。そのモットーが、生き残るために戦うと言ったかな。」
「さすが爺ちゃんよく知っているね。その領主の曾孫と同級生なんだよ。パオロって言うんだ」
「ほう、そうかそうか、その子の剣の腕はどうだ?」
「まだまだ粗削りだけど、なかなかの豪剣の使い手だよ。身体も大きいしね。」
と、言ったところでもう一人思い出す。
「そうだ、西の大森林…」
と、俺が言ったところで
「カルーか。」
爺ちゃんはその家名を微妙な顔をしながら言った。
「やっぱり知っているんだね。森の剣星。」
「知っているも何も武芸大会で戦った仲だからな。儂の勝ちだったが。」
「うん、その話はカルー家の孫から聞いた。」
「カルーの孫も同級生なのか?」
「そうだよ。彼はセイナリアに来る道中、事故に遭ったらしくて遅れて入学してきたんだけどね。奇麗な顔をした美少年だね。」
「其奴は白猫であろう?」
「そうだよ、爺ちゃんの時の森の剣星も白猫獣人だったの?」
「そうだ。すばしっこく、見切りも良く、思い切りも良い。いい剣士だったのだがなぁ。」
「どうしたの?」
「性格がな。」
「ああ。」
俺が呻くと、しばらく沈黙が続いた。
「どんな方なのです?」
ローズが俺たちの微妙な反応を気にして聞いてきた。
「僕の同級生は、爺ちゃんのことを仇だと思っている。そいつの祖父は、爺ちゃんに武芸大会の決勝で敗れて、傷心のうちに西の森に帰り、伯爵家を継ぎ領地経営に入ったんだそうだ。そして爺ちゃんが近衛騎士団長の任を拝命したと知った。それを聞いてモヤモヤがさらに爆発したんだろうな。打倒ヴァレンタインを掲げ、息子を特訓したようだ。ところがその相手になるはずだった父さんは、武芸大家はおろか騎士学校にも行かないで、冒険者になってしまった。せっかくの特訓が空振りになってしまった息子の無念を、孫にまで踏襲し続けて出来たのが、今の僕の同級生、レオ・カルーってわけさ。」
「大会が終わっても、何度も立ち会いを申し込まれてな。辟易していたところ、近衛騎士団入団の話が来てそれきりカルーとは合わずじまいだった。そうか、そのような事があったのか。ローランドは罪な奴だ。」
爺ちゃんがボソリと言ったので、
「だよね!レオの親父さんが可哀そうだよ。」
などと言いながら笑ってしまった。
「でだ、アベルはもうそのレオとやらとの立ち会いを済ませたのだな?」
「うん、やった。けど僕は長距離走をやった後のハンデ戦みたいなものだったけどね。」
「して、どうであった?」
「強かったよ。速く、見切り良く、思い切りもいい。さっき爺ちゃんが言ったレオの爺ちゃんそのまんまだった。だけどいつまでも付き合ってられなかったから、思い切り上段から叩き込んで、鍔迫り合いに持って行って体重をかけてから、足を引っ掛けて転ばせたんだ。疲れていたし、さっさと終わりたかったんで足まで出ちゃった。教官には騎士らしくないとかって嫌味を言われたけどね。」
「なる程、確かに騎士らしくはないな。アベルらしいが。」
「僕も教官には現役の冒険者ですよって言い返したんだけどね。」
「しかし、いまだカルー家にもあの剣技が息づいているか。」
「そうだね、人の顔を見れば立ち会いせよと迫ってくるしつこさもそのまんまだよ。」
「そうか、血とは怖いものだな。はっはっは。」
「そう言えば、さっき話したパオロはレオに負けちゃったんだけどね。」
「カッローネ男爵の子弟だな。」
「そう、直線一辺倒、猪突が信条だと思ったパオロが、思わぬ奇襲をやってね。」
「どのようにだ?」
爺ちゃんは興味ありげに身を乗り出すのだった。
読んでいただき、有難うございます。
本作は長編となっています。
続きを間違いなく読みたい場合はブックマークを。
作者がんばれ!
面白いよ!
と、思っていただけたなら、それに見合うだけの☆を付けて頂けると幸いです。
それでは、また続きでお会いしましょう。