314.アベル君と感じられる波動。
314.アベル君と感じられる波動。
俺は憂鬱な日々を送っている。
あれだ、ジーナの髪を切った時から、ジーナに付きまとわれているのだ。
「アベル、私は子供を二人は欲しいわ。」
「そうですか。頑張ってくださいね。」
「嫌だ、何言っているの?あなたとの子でしょ。」
「いやいやいやいや、そんなジーナ先輩と僕なんて。」
「もう、照れてんのね。可愛い。」
どうなったらここまで気持ちを切り替えられるのか、誰かご教示願いたい。
しかし、どうにもこうにもメンヘラ臭がしていかんのだ。
他責思考というか、俺が髪を切った所為、それが彼女を突き動かしている。
決闘の後、寄宿舎に帰って正直にローズへ事の顛末を話した。
どうやら女性の中では髪を触られるというのは、近親者だけに許されるものらしい。
勿論、髪型を変えるために、切ったり整えたりするのは別でね。
俺の周りはロッティーと乳兄弟のアンネ、あとはローズたちメイドばかりだったから、気にしたこともなかった。
そんな風習があったのも知らない。
女の子の髪を切るなんてことが禁忌に近いなんてこともね。
つまり、簡単に言えば、俺がジーナを傷物にしたってことになる。
さすがにそれはどうなの?と俺なんかは思うわけだが、この世界の人間はその価値観で動いているから、俺の気持ちなんて加味してくれない。
現代日本的価値観なんて、勿論通らない。
「アベル様はどうなさりたいのです?」
ローズの口からもっとも聞きたくない言葉がこぼれた。
「どうもしたくない。」
「そうは参りません。相手は男爵家と言えど、きちんとした貴族の家です。無視をすれば、傷がつくのはアベル様の体裁の方ですよ。」
「無視なんてするつもりはないが、風習を知らないだけで、好きでもない相手と結婚せねばならないのはどうかと思うんだ。」
「ことは好き嫌いの問題ではなくなっています。なぜならアベル様はジーナ様を傷物にした。その認識をこの学校の皆が認識し、共有しているのです。決して逃げ隠れなどできない状態なんですよ。」
あばばばば。
ですよねぇ。
「重ねて言えば。」
「いえば?」
「王太子閣下が現地におられたということは、王家の皆様にも知られているということです。軍務大臣閣下もいらっしゃったのならば、宰相閣下も知られたと思った方がよろしいでしょうね。」
「だよね。それは考えていた。ウイリアム爺ちゃんとクリス婆ちゃんに相談しようかとは思っていたんだ。」
「そうですね。それは良い考えかと思います。でも最初に相談する相手がいらっしゃると。」
「えっ?誰のことだい?」
「アベル様、お忘れになられるのは酷いですよ。別邸にいらっしゃいます、ご隠居様です。」
おおっと、直系の祖父のことを忘れてしまうとは情けない。
「爺ちゃんに報告は急務だね。」
「そうですね、それはすぐにそうなされた方が良いでしょう。」
「うちの奥さんはよく気が付くなぁ。」
「奥さんなんてやめてください。そのように呼ばれる出自じゃありませんので。」
「出自なんて関係ないよ。ローズは僕の妻で奥さんだ。誰が否定しても俺が覆す。」
「もう。」
そう言ってローズは赤い顔をして俯いた。
愛い奴め、ふっふっふ。
しかしさ、俺はハーレムにならないよう苦心してきたんだ。
それで一番苦しめたのがローズだったから、今はめいいっぱいローズを甘やかそうと思っている。
ところがだ、ここに来て、というかセイナリアに来て、俺の周りの女性関係はどうだ。
正室を虎視眈々と狙うオリビィ、現在の状況を作っているジーナ、彼女からの積極的アプローチはないが、会ううちに俺自身がハマるであろう自信があるカレンさん。
そして、魔法大学校に居るアンネと、カミラという名になったトレーサ。
魔法大学校の二人が一番イレギュラーだろうな。
もうさ、どうしようか。
セイナリアから逃げようか。
しかし、先ほどローズに言われたとおり、今はもうセイナリアから逃げられない。
ドカンと花火を上げて、うやむやにするか。
けどそれが一番厳しい道の様な気がするんだよな。
どんな花火かって?
そりゃ、オリビィを嫁に貰うことだよ。
国をあげてになるからな。
それに対して、ジーナは口をはさめないだろ?
まあ、側室にしろって圧力はあるかもしれないが。
いや、間違いなくあるか。
ラブコメムーブになるのかなくらいに軽く考えていて、ラブコメの波動を感じるなぁんてふざけようと思ったんだけど、事がシビア過ぎて、ふざけられない。
嫌なことはとりあえず置いといて、ローズとのお楽しみで現実逃避しちゃおうか。
読んでいただき、有難うございます。
本作は長編となっています。
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