313.アベル君とサシでの決闘。
313.アベル君とサシでの決闘。
ギリッ!と音がしそうなほど歯を食いしばっているジーナが少し遠めでも見て取れた。
俺は掌を上にしてジーナに向けた。
そして四本の指をクイックイッて上げる。
はよ来いやって、ブルー〇・リー的な感じで。
ザッ!と土を蹴る音が鳴る。
細身の剣を前に着きだし、ジーナが猛スピードで刺突してくる。
おお、早い!
これはちょっと驚いた。
今回は十キロ以上走った後の、馬鹿らしい模擬戦ではない。
命を張った決闘だ。
魔法は封印して真面目にやんなきゃ、ジーナに悪いだろう。
無手だが。
一定の距離から一回スピードを乗せた刺突は、もう真っ直ぐにしか進めない。
急激な方向転換は、難しいのだ。
だから避けるのはかん…あれ?
まじ、早くね?
だが、爺ちゃんたちほどではない。
ブレイン、マッスルブーストを使うことなく、難なく避ける。
「くっ!」
急制動して反転をし、俺を見据えたジーナが、悔しそうに呻く。
そんなに憎いのかね。
「ルカってのが僕にやられたのが、そんなに悔しかったんですか?ジーナ先輩。」
「先輩などと気安く呼ぶなっ!!」
今度はフェンシングの姿勢で連続の突きを放ってくる。
心臓、レバー、目、急所ばかり的確についてくる。
この人怖っ!
怒らせないようにしないと。
もう怒っているけど。
俺は右に左に身体をひねり、時にスウェーで避け続ける。
そろそろ反撃に出ようかな、ってタイミングで、切っ先が飛んでくる。
この人強いよ。
なるほど、確かに騎士学団に入れるはずだ。
そして、また心臓に突きを入れてくる。
俺は左肩から後方に捻り、剣を避ける。
その剣が俺へ向かって横殴りに切り裂いてきた。
間一髪、身体をのけぞり剣を躱すが、シャツの胸のボタンが飛ぶ。
どうすんだよこれ、ローズに叱られる。
いや、そう言っている場合じゃなかった。
流石に連続で突き放つことは出来ず、剣を引き呼吸を整えようとするジーナ。
んな事させるわけねーじゃん。
俺は拳で殴り掛かる。
それをカウンター気味でまたジーナは突いてくる。
今度も心臓狙い。
俺は急制動し、右へと身体を避け、俺の身体を貫かんとしたジーナの剣を脇で挟み込む。
そして俺の左手の掌底、右手の拳が剣を握るジーナの右手首を挟む。
バシッ!!と言う音ともに、ジーナの手首に衝撃が走り、一瞬の痛みで剣を放してしまった。
苦痛に歪むジーナの顔。
終わりかなと思ったら、いつの間にかジーナの左手には短剣が握られていた。
俺は落ち着いて、ジーナの右腕を引き、俺の右手でジーナの右肩を押さえ、ジーナの足を払い、地面にジーナを背中から叩きつける。
「カハッ!」
したたか背中を打ち付けたジーナは呼吸が出来ない。
俺はその間に、ジーナが持っていた剣と短剣を回収する。
また持って暴れられたら敵わないからね。
しかし、思いのほか手強かった。
二、三度「ひゅー、ひゅー」という苦し気な呼吸音が聞こえたと思ったら、「殺せ…」と言うかすれた声が聞こえてきた。
どうしたもんかね。
俺は周りを見渡す。
南の連中は、悔しそうに頭を垂れ、北の皆は我が事のように喜んでいる。
そしてオスカーとグスタフさんは、渋い顔で俺を見ていた。
しかし、グスタフさんが口を開く。
「そこまで!」
やっと終わったか。
グスタフさんの野太い声が修練場に響く。
それを聞いた北の生徒達が駆け寄ってくる。
「アベル様、流石です!剣を切り落としたのは魔法ですか?」
リック先輩が興奮気味に俺に聞いてくる。
「そうですよ、僕のオリジナルです。あまり言わないで下さいね。魔法大学校に引き抜かれるので。」
そう言うと、北の学生たちはハッとした顔をして、
「言いません、言いませんとも。アベル様にはこの学校に居てもらわないといけませんから。」
いや、俺はどっちでもいいんだけどね。
姉さんと毎日魔法の研究をするのも有意義そうだし。
なんて話をしていたら、後ろから怒声がやってくる。
「アベル。ヴァレンタイン!!何故私を殺さない!!」
ジーナが、そのまま呪詛でも吐き出しそうな怖い表情で俺に怒声を浴びせた。
「殺さないよ。同じ生徒、ましてや女の子を殺したと会っちゃ目覚めが悪いもの。」
俺がそう言うと、ギリッ!という、歯ぎしりの音が聞こえ、
「私は女子供ではない!騎士だ!!」
ジーナは立ち上がり俺にそう言うと、もう一本、ナイフを腰の方から取り出し、突き進んできた。
何本持ってんだよ、危ないなぁ。
しかし、ジーナはあっという間に腰だめにしたナイフを抱えて、俺に迫ってくる。
俺はブレインブーストとマッスルブーストを掛ける。
フッと周りがスローモーションになる。
突っ込んで来たジーナの顔も良く見える。
よく見ると美人さんなのに、そんな怖い顔をすれば台無しだ。
ナイフが俺の腹に届く寸前、身体をそらしナイフを避ける。
突っ込んで来たジーナは前方に俺が居なくなってたたらを踏む。
その前にも生徒たちが居るので、俺はジーナが着こんでいた革鎧の後ろの襟をつかんで強制的にジーナを止める。
そして、ジーナの後頭部で翻っているポニーテールを止め紐の所からナイフで切り上げた。
思いのほかよく斬れるナイフによって、サラサラとジーナの栗毛色の髪が舞い上がる。
それを見た女生徒から悲鳴が上がった。
「命の代わりだ。髪は伸びる。しかし命を取ったらそれで終いだからな。」
俺がそう言うと、なぜか非難の視線が俺に集まる。
えっ?何?俺失敗しちゃった?
するとジーナがさめざめ泣き始めた。
嘘だろ、さっきまであの狂気じみた顔で俺を殺そうとしてきた女が。
「もう、お嫁に行けないぃぃ!」
そう言ってジーナが泣き叫び始める。
え、え、そんな大事なの?
「アベル様、責任を取らなければなりませんよ。」
リック先輩が、険しい表情で俺に言うのだった。
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本作は長編となっています。
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