308.アベル君とディベート室。
308.アベル君とディベート室。
さて、ここは学校内にあるディベート室。
討論の授業をするところだね。
そんなことすんの?
とお思いのあなた!
欧米では討論の授業があるみたいよ。
西洋は人に謝ることを良しとしない、狩猟民族的社会だからね。
常日頃から、くちげ、いや、ディベート力を高める必要があるんだろう。
グローバル社会なんて押し付けられる口幅ったくて弱腰の日本人は苦労するわけだよ。
こういうのを押し付けるのが、西洋人の同調圧力の強さ、多様性の欠如を如実に表しているんだよな。
本人達はまるで気が付いていないのが滑稽だが、迷惑を被るから笑えない。
酷い話だ。
さて、現実世界のフィクション的解説などどうでもいいか。
執事さんがディベート室のドアを開けた。
おやおや、皆さんお揃いで。
ほら、あのジーナって女が怖い顔で睨んでいる。
嫌だ、嫌だ○○女は。
ジェンダーに配慮するため消されてしまったか。
ジーナの周りには十五、六人ほどの生徒が纏まっている。
おそらく南の貴族の生徒なんだろう…ん?
なんだ、パオロじゃないか。
どうした、そんなに申し訳なさそうな顔をして。
大丈夫、大丈夫、南の俺にたてつく貴族なら、誰であろうと、公平に分け隔てなく、男だろうと女だろうとあらゆる種族平等にぶっ潰すから。
それが友誼を分かつ中でもな、お前なら分かっているだろ?
部屋に入ると、入り口側と窓際側でひな壇形式の椅子が設置してあり、敵味方別れるようになっている。
そして教壇側に机と椅子が。
そこには、オスカーとグスタフ軍務大臣及び学校長が座っておられた。
面倒くさいし、どうせグスタフさんなんだから、ここからはグスタフさんで統一しよう。
俺はグスタフさんをチラッと見て、軽く会釈をする。
それを見たグスタフさんも軽く手を上げる程度で、すましている。
グスタフさんらしくもなく、空気を読んだ対応。
ウィリアム爺ちゃんとクリス婆ちゃんが見たら驚くぞ。
そして俺は、もう一方のひな壇へと歩みを進める。
ひな壇を見ると、北側の生徒たち十二、三人がズラリ。
俺の顔を彼らが見ると、緊張した顔から固い笑顔がこぼれる。
あまり面識のない人たちばかりだけれど、爺ちゃんや父さんが目を掛けていた貴族は多いから、リック先輩の様な立ち位置の人達なのかもしれない。
そのリック先輩も、固い顔で座っている。
あれ?その隣に関係ないと思われる人が座っているんだが。
俺は空いているリック先輩とその人物の間に納まった。
一緒にやってきた執事さんは、いつの間にやらオスカーの後ろだ。
「テオ先輩、どうしてここのに?」
「首を突っ込むつもりはなかったんだけどね。まあ、ちょっと放っておけないかなって感じだろうか。僕らは同志だからね。」
幹部会の?
いや、娼館通いのね。
俺がニンマリした笑顔を返すと、テオ先輩は自嘲気味の笑顔をした。
「ゴホン!」
わざとらしい咳払いが起きる。
案の定、グスタフさんなわけだが。
「それでは今回の議題を始める。討議する内容については王太子殿下からお話は伺った。アベル・ヴァレンタイン。起立せよ。」
「はい。」
「貴様は某日、騎士学団幹部会室において、ルーカ・アルディーニを殴打し、瀕死の重傷を負わせたというのは本当か。」
嘘ではない。
その前の出来事が抜けているが。
「はい、そのとおりです。」
俺がそう言うと、南側の生徒が口汚く俺をののしり始める。
「静粛に!まだ終わってはおらぬ。」
グスタフさんの野太い声が場を制する。
さっきまでの雑音が、すべてかき消されてしまった。
「ヴァレンタイン、貴様なぜそのような暴挙を行った?」
「話してよろしいのですか?」
「当然だ、ここは貴様を糾弾する場ではないのだからな。」
「では最初から経緯を述べさせていただいてよろしいですか?」
「うむ。」
「切っ掛けは王太子殿下に連れられて、騎士学団幹部会室に入り自己紹介をはじめようとした時点で、ルーカ何某が私に対し、揶揄う様な姿勢を見せたので、ここに居られないと思い幹部会室から出ようとしたら、王太子殿下に止められ、口論になった時に、その何某がですね…」
「ルーカ・アルディーニだ。」
オスカーが補足した。
「失礼。そのルーカ何某が、レイピアで私を刺突してきたのです。ですので、私は彼の攻撃をそらすとともに、制圧できればと手を振ったことに間違いありません。」
「ジーナ・サンタグレース、貴様が今討論の発起人だな?起立せよ。」
「はい。」
「ただ今ヴァレンタインが言ったことに相違ないか?」
「おおむね相違は無いと思われます。が、殴打した部分において、明らかな悪意があったかに私の目からは見えました。」
「ほう、どういうことだ?」
グスタフさんが問うた。
そしてジーナの口が歪むのだった。
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